夫婦は日光に遊んだ。まばゆい太陽は山に湖に反射し、時間と共に変化する神秘的な原始の色でふたりを包んだ。

風が冷ややかに頬を撫でた。日光は秋の入り口なのだ。
夫婦は、男体山から降りてくる秋を出迎えに行ったのだった。
名もしらぬ木の葉が、赤く、あるいは黄色く、色付きはじめていた。


毎週の休日は出掛けすぎるくらい出掛けて、金と時間とガソリンを、出来る限り潤沢に費やしている。
そろそろ財布を締めないと、恐らく我が家の家計は火の車と化すだろう。そう思いながら、ついつい遠出して当地の美味いものを食う、それは、その遠出がもたらすものが一過性の感動ではないと強く思うから。
我々は、五感に訴える刺激的な思い出だけが一生を支配する唯一の財産であることを知っている。何もせず、どこにも出掛けず、どうやって己を確認することが出来ようか。

たとえ無理をしても、今いる場所から移動するのだ。