彼の四角い車はまるでジェットコースターの様に、なだらかな丘陵地帯のつづら折りを駆け抜けた。夏の終わりの昼下がり、晴れた空には様々な雲が、まるで雲の万博といわんばかりに並んで輝いていた。ちぎれては流れるはぐれ雲、どこまでも背丈を伸ばす入道雲、昨日までの長雨の前線が連れてきたのだろうか、高層を彩る氷の粒、それらが、毒気の強い太陽に照らされ白く輝き、否応なく目の奥を刺す。
前後に車の影は無く、流れ行く景色を、彼は彼のペースで楽しむことができた。
カークーラーの吹き出し口に据え付けられたドリンクホルダーに、飲みかけのガラナが汗をかいていた。



およそ2時間ほど走り、四角い車は灼熱の都市に到着した。
彼は後部座席に放ってあった背広を引っ張り上げると狭い車内で着衣し、皮製の黒いアタッシュケースのグリップを掴み、程よく冷やされた車のドアを、暑い外気に開け放った。
陽炎たつコンクリートの向こう側。
鉛色のビルディング。
迷いを感じさせぬ確かな足取りで、何かの目的を達成させるための歩みを、彼は歩んだ。
四角く切り取られた都会の空に、見下ろす様な入道雲が静かに佇んでいた。