ベランダで芋焼酎とビールを交互に飲んでいたら公衆便所みたいな味がした。生暖かい風を感じて右を見ると15年物の室外機が、ぐわんぐわん言いながら老骨に鞭打って回転し、部屋を一所懸命に冷している。このマンションの殆どの部屋のクーラーが作動して、夜のしじまに室外機のぐわんぐわんが折り重なり、こだまして、夜の熱気は更に温度を高めた。
さながら香港の安アパートの様だ。
さっきまで涼を求め、クーラーの効いたショッピングモールをぶらついていた。閉店時間間際まで店を冷やかし、それにも飽きて外に出ると、冷めない熱気と濃い湿気の織り成す外気が、青い蛍光灯の寂しい光が、まるで雨季のバリ島のマタハリストアみたいだった。
それはとても懐かしい感覚。濃厚な闇の質感に魅惑された魑魅魍魎たちが跋扈する季節。俺はポケットからガラムを取り出し火をつけた。闇の中に甘い芳香を放つと、ぼんやりと何かの形に見えて、そのまま闇に吸い込まれていった。
夏はアジアだ。いや、アジアが夏なのだろう。
ことお盆時期の日本には、本来あるべきアジア的狂気が色濃く反映され、街で見かける若い男どもが、インド洋に浮かぶ小島の片田舎の、雑貨屋の灯りの下にたむろするチンピラに見える。
明日から俺の夏休み、どんな事件に立ち合えるのか。
とりあえず、遠くに四国を望みながら瀬戸内海を泳ぐだろう。
夜はビールを飲むだろう。