仕事が終わって帰宅する途中、晩飯代わりにマクドナルドへ立ち寄った。
疲れていたので自炊する気力が無かったのだ。
家計を紐解いても、自炊だって意外と金の掛かる事で、手間を考えるとマクドナルドで飯を食うのも痛い出費とは言えない、と自分に言い訳した。
ベーコンレタスバーガーとコーヒー。セットではなく単品の注文で380円。そもそもセットメニューのポテトは余計な一品だ。



すっかり食い終わってコーヒーを飲んでいると、奥に座っているカップルの会話が聞こえてきた。
「温泉だったら行ってもいいよ。でも海はダメ」
どうやら夏の計画を話し合っているのだが、彼氏の「海水浴に行こう」という提案を、彼女が頑なに拒んでいる様子だった。
俺は聞きながら、せっかくの夏なんだから海水浴に行って来ればいいじゃないか、と思った。なぜ彼女は拒否するのか。
「あたしが笑いものにされていい訳?」
「そうじゃないよ、でも俺が一緒に行きたいんだから」
「絶対行かない」
気になって声のする方を見た。
ガリガリに痩せた彼氏に、丸々太った彼女だった。
執拗に海水浴に行きたい事を主張する彼氏に、彼女は泣いて抵抗した。
泣くほど嫌なのだ。
そんなに太っている事は悪い事か。
マクドナルドには極端に痩せた人、極端に太った人が見受けられる。痩せた人は太りたいから、太った人は好みの食生活、そんな理由でマクドナルドを選ぶのだろう、とか勝手に思っている。
だから、マクドナルドって罪だな。
否、マクドナルドに限らず、飲食業全体が罪なのだ。
人は欲望の赴くまま食う。食のコーディネートをする人が極端に少ないのに、国は「バランスの良い食事を」とか無責任な事を言っている。
つまり、厚生省が手抜きをするから、彼女は海水浴に行けない。
彼氏は厚生省を相手取って訴訟を起こせばいい、つまり、国民の健全な食生活を指導しなかったせいで、大切な思い出を作ることが出来なかった、なので、一生の財産たる思い出を剥奪された代償として一億円の損害賠償を要求する、とか。
彼らの様子を伺って、そんな事を連想した。
体形を気にする人が多いのは、外見だけで全てを判断している様でいやだいやだ。
痩せていても太っていてもハゲていても、健全な生活が出来るならそれでいいじゃないか。