閉店後の午前3時、テキーラを2本、空っぽにしたところだった。それでろれつが回っていなかったのは言うまでも無い。
泥酔だ。泥酔するのが、カフェ楽屋の伝統。
まだいいですか?男二人がだらしなく泥酔する深夜のバーには似つかわしくない可憐な少女が、いや、少女というのは比喩だ。いっぱしの女性と認めるにはあまりにも純情可憐な少女なイメージのお嬢さんだったのである。
つまり、そんな女の子が申し訳無さそうに入店してきた。
俺たちは彼女を見るなり、言葉を失った。
しばしの沈黙のあと、マスターが口を開いた。
「・・・なあ、お前は綺麗な女の子は好きか?」
「ああ、そりゃ好きだろう」
マスターを見ると、変な中腰のポーズのまま固まっていた。
「俺も」
無条件で迎えられた彼女は、閉店後の営業にあずかったのみならず、俺が買ったバーボンにもありつくことが出来た。美人は何かと得である。
「でもさあ、なんでお前は綺麗な女の子が好きなんだ?」
「はぁ?」
「美人、好きなんだろ?なんでだ?」
三人していい感じに酔っ払っていると、もの凄く単純で、かつ応え難い質問をマスターが投げかけたので
「綺麗な女の子と寝れたら、なんだか男の征服欲が満たされるでしょ?」
と応えた。
俺とマスターに挟まれた彼女は、ちょっと困った顔をしていたが、それでもたぶん、楽しんでいた。俺とマスターを交互に覗き込むその目は、時折きらりと輝いて、何かを期待している目だった。
「ばか!そんな小難しい事聞いてねぇよ」
「じゃ何?」
「ちんこが勃つからだろ。オスは綺麗なメスを見るとちんこが勃つ様に出来てるんだよ」
その通りだと思った。
マスターの答えを聞いた彼女はすかさず「女だって綺麗な男を見ると濡れますよ」と言った。
「じゃあ、俺とこいつと、地球上に男は二人しか居なくなっちゃったの。で、どうしても一人だけ選ばなければいけません。そしたら、おねえちゃんはどっちを選ぶ?」
酔うと大抵この質問を女の子に投げかけるのが、カフェ楽屋の伝統。
「そうだなぁ・・・じゃあ、マスター」
ほらみろ!と喜ぶ得意満面のマスターを見ながら、それは社交辞令というものだ、とつぶやいた。
「社交辞令じゃないですよ、マスターってセクシーじゃないですか」
「うそつけ!『じゃあ』って言ったじゃないか『じゃあ』って!」
俺は?俺はセクシー?
「・・・セクシーだと思いますよ、でも、マスターの方がよりセクシーって事で・・・」
ばーか、今のが社交辞令だよ、とマスターは身を乗り出して俺を揶揄した。ちくしょうめ。
彼女はちょっと照れた様に、俯いてクククッと笑った。
●
← セクシーな男は最高と思われたらクリックお願いします