人の気分は気温で左右される。
3月29日、関東地方は今年初めて夏日を記録した、とラジオの人が言っていた。
営業車のハンドルを握り、じりじりと進む東京外環の渋滞に捕まっていた。
窓を開けても、こう進まなければ風も入らない。
今年初めてカークーラーのスイッチを入れた。
鈍角な日差しが手の甲を焼く。
ビーチサンダルで三浦あたりの浜辺を歩いたら、きっと足の甲が痛むだろうな。
スーツの上着など、とっくのとうに助手席に投げ捨ててある。
ラジオからはサンタナのSoul Sacrificeが流れてくる。
春という季節には留まっている状態を見出せない。夏に向かって突進するエネルギーが春の正体だ。
桜の花はあっという間に開いて、まだ五分咲きであるにも関わらず、俺は散ってしまう事を心配した。
もう夏が始まっている。寒かった数ヶ月の間に忘れていた感情が、冬眠から覚めた虫達の様に俺の心に沸き起こった。
カルロス、どうかな。今年の夏をどう料理してやろうか。どうしたらいい?
どんな乱痴気騒ぎで街を引っ掻き回してやろうか。
ベストな状態で夏を迎え、ベストな状態の祭りをやらかすために、俺は俺自身をベストな常態にしなきゃならない。
渋滞に嵌った俺は、そんな境遇だからこそ尚更「最高の状態であること」を思った。
つまり、今俺に足りないのは、例えるなら真夏の北陸自動車道を疾走するカワサキZ-1Rだ。車一台居ない眺めの良い高速道路を、縦横無尽、アクセル全開で突進する。
そんな気分で、じゃあ実際何がしたいのか、といえば、きっとこういう事だ。
キラキラした都会の大通りを疾走してパーティになだれ込み、大汗をかきながら踊るのだ。
27インチのポリエステルのパンタロン、もちろん純白だ。それにヒールの高い白いブーツ、白いブラウスをはだけて、フロアのど真ん中で踊るのだ。
それで充分。
その為に何が必要?何をすればいい?

「27インチのパンタロンを穿けなければいけない」

27インチのパンタロンさえ穿ければ、今年の夏は俺のものだ。
理想の自分を貫かないと、俺の夏は100%俺のものにならない。


渋滞する東京外環、俺の前にはトレーラーがブレーキランプを点けたり消したりした。
ブレーキランプの上にシールが貼ってあった。

全長15メートル 死ぬ気で追い越せ!





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