あの日、吟遊詩人の彼から託されたそれは、

書物と呼ぶにはあまりにも薄く、頼りない一枚の紙だった。


だから私は、

そこに宿る真の力に、気づけなかったのかもしれない。


けれど今、

その文字が放つ静かな光を前にして、私ははっきりと理解した。



これは、ただの言葉の集まりではない。

世界を覆っていた封印を解き、

再定義された命の地図を描くための──

“記憶の断片”


──それは、再誕への息吹きだった。


✳︎


ルシフェリオン──光を運ぶ者。


その名が示していたのは、

世界の深層に織りなす、静かなる力。



自分自身を恐れの声に耳を傾けることで

ようやくその真価は、輝き始める。


今、私たちはその瞬間に立っている。

世界を歪めていたのもまた、**“言葉”**だったのだから。


この世界には、

言葉にされなかった**“思考”“感情”**が、

微細な粒子のように、空間に漂っている。


人はそれに無意識に触れ、影響を受け、

また誰かに影響を与えながら、生きている。


そのすべてが、

再び──**“言葉”**として、息を吹き返そうとしていた。


✳︎


私は、深く息を吸い込んだ。


イーリウスがそれに応えるように、翼を広げ、

言葉の粒子を、静かに集めてゆく。


次の瞬間──

あの紙片は、もはや“紙”というかたちを超えて、

“真の言葉”の力を、世界のあらゆる場所へと解き放った。


それは、**“再誕”**の始まり。


セリュエラの大地が、新たに息づき、

私が私であることの証が、

今ここに、確かに刻まれている。