京谷「ま、その反応はとりあえず合格だな。 仕事中、恋愛沙汰とか迷惑だからな」
「それは・・・私だって同じ気持ちです」
京谷「ふーん、じゃぁ、絶対俺のこと好きになんないわけ?」
さすがにモデルをしているだけあって、端正な顔がぐっと近くなると、つい、ぼーっとしてしまう
京谷「ほら、今俺のこと好きになりそうだったろ」
「ち、違います・・・ただ、ちょっとかっこいいな・・・とは思いましたけど」
京谷「なるほどな、適当に仕事していたわけじゃなにのか」
京谷「・・・・・まぁ、これからも、テストするから今日はこれくらいで勘弁してやる」
こんな、テストをこれ以上されたらたまらない。そう返そうと思ったけど、桜城さんは、ふいっと、手首を離してスタジオに向かってしまった---
京谷「おまえ、スタジオに向かって『桜城京谷入ります』って言え」
「はい?」
京谷「早く」
「え? 待ってください。それ、マネージャーの仕事じゃ」
京谷「今駐車場に車入れに行ってるだろ」
京谷「早くしろ、撮影が遅れる」
「(な、なんで!?)」
でも、桜城さんにじろりと睨まれ・・・る
京谷「もう一回、キスされたいわけじゃないよな?」
「ち、ちがいます・・・」
京谷「なんだ、違うのか」
少しだけ桜城さんの声に残念そうな声色が混じった気がしたけど、見返した彼は、さっきと同じ顔で・・・・
仕方なく、私はおなかから声を出した
「桜城京谷、入ります!」
カメラマン「京谷くん、お疲れー」
モデル「あれ?京谷の新しいマネージャー?」
京谷「違う、デザイナー」
モデル「はあ?」
大きな声を出したことで目立ってしまい、自然と顔が熱くなる
そんな私を見て、会ってから初めて桜城さんが笑った
京谷「このくらいで真っ赤になるなよ」
「だって、スタジオに入るのも初めてなのに・・・・・」
京谷「それより、思ったよりでかい声出るんだな」
「店舗スタッフの時には、挨拶の練習もありましたから」
京谷「へぇ、この調子だとキスする暇なさそうだな」
「そんなの仕事中に期待しません・・・」
桜城さんはクスリと笑うと、「じゃ、その調子で宜しく」とそういう言い捨てると、私を残してどんどん中へ歩いて行った
ふと、先ほどの唇の感触を思い出す・・・
「(ダメ・・・仕事に集中しないと)」
頭を振って、先ほどのことをおしこめる
どこまではいっていいのかわからないので、とりあえず器材が置いてある場所で待機することにした
「(あのモデルさん、最近よく雑誌の表紙になってる・・・・)」
「(あ、あの人は確か新人さんだよね)」
「(みんなスタイルがいいから、何を着ても似合うって感じだけど・・・・)」
桜城さんがモデルと務めるのは今回立ち上げる新ブランド同様、20代から30代向けの服が多い
どちらかと言えば、オシャレに突出した服を着ることが多いので、動きやすいイメージはなかった
「(あれくらいのデザインでさらに動きやすさも、か・・・・)」
「(実用性を考えたら、見た目が良くても着にくいっていうのはナシだよね)」
デートにも職場にでも、着ていける服がいいかもしれない
「じゃぁ、今回のコンセプトは・・・・」
モデル「ねぇねぇキミ、京谷とはどういう関係?」
「(だけどそれで、桜城さんがOKしてくれるかな。もう一工夫入れて来いって言われるんじゃ)」
モデル「・・・・・ねえ?」
「え!?は、はい! すみません!」
モデル「どうしたの?考え事?」
「すみません・・・。仕事のことで、ちょっと」
モデル「なんか悩み?あ、もしかして京谷のこと? あいつ気難しいからな」
「気難しい?」
モデル「求めるものが厳しすぎるだろ? 自分に厳しいけど、他人にもすっげー厳しいんだよ」
モデル「口癖は『妥協したくない』だからさ」
そう言われれば確かにそうだった
妥協しない、既存のものはおもしろくないと言っていた
モデル「大変だね、キミも」
モデル「もしかして京谷専属デザイナー? あいつ、厳しすぎない?」
「全然大変じゃないです。むしろ一緒にいると勉強になりますよ」
モデル「変わってるね」
モデル「たいていの奴はあいつのストイックさに逃げ出すのに」
「(そうなんだ・・・・)」
「(・・・厳しいからなんとしてでもついていきたいとは思ったけど、逃げ出すなんてもったいないこと考えなかったな)」