(忙しくてきょうやっと開けたところ)

「香港返還10周年編」

中国の有力日刊紙「中国青年報」が返還10周年を前に実施した
アンケートによると、香港返還による最も大きな環境変化は「香港
の大学で勉強できるようになった」ことだそうです。

実際、香港の大学に進学する中国の学生は最近増えています。
全国統一試験で省や自治区の「状元」になった受験生でさえ、北京
大学や清華大学などの名門校ではなく、香港の大学に進んでし
まうこともあります。「状元」とは、 かつての登用試験、科挙の
首席合格者のことで、これが今でも入試のトップの意味で使われ
ます。

香港からの甘い誘いは今年からさらに加速しました。中国の
受験生に対しては、試験科目から、香港育ちに有利な英語を免除し
たり、物価の高い香港での暮らしを想定した相当額の奨学金を支
給したりと、優秀な中国の頭脳を囲い込むために、あの手この手
を打ってきます。

9月に新学期を迎える中国では今まさに大学受験シーズンの
真っ盛り。香港で最難関の香港大学を志望した中国人受験生は
今年、1万人を超えたそうです。このうち45%程度が面接試験に臨
むことができ、最終的には300人程度が香港最高学府の頂点に入
学することになる見込みです。

先日、上海でも香港大学の出張面接試験が行われました。受験
生の中にはすでに江沢民元国家主席の母校・上海交通大学などの
エリート校に合格している人もいます。このような名門校を第2
志望に押しやってしまうほどに、香港大学の魅力は高まっている
のです。

さて、中国の投資ブームは大学生にまで波及し、教育界でも賛
否両論が巻き起こっています。教育部の王旭明報道官が先頃の記
者会見で「大学生は勉強が本分。株式売買に貴重な時間を費やす
べきではない
」と釘をさしました。教育と市場(お金)がどのよ
うな形でバランスを取ることができるか、「教育の産業化」の今
後とも相まって、中国の道徳観に注目です。
(エヌ・エヌ・エー 執行役員・中国事業本部長 三井信幸)


【執筆者略歴】
物流関係の専門紙記者から北京留学(新聞学専攻)を経て1998
年にニュースネットアジア(現エヌ・エヌ・エー)入社。香港、
北京、上海に駐在し、中国ニュース部門の編集長を務めた後、
2006年から中国法人社長、07年5月から現職(中国法人社長兼
務)。共著に「中国・台湾・香港の主要企業と業界地図」(日刊
工業新聞社刊)。