(前回までの荒筋:
芸大X教授の最終講義後、大学構内の中庭でアマーリエと激しい接吻抱擁を交した。
それでも物足りず国鉄駅構内でも熱いキスを交し二人の別れとした。
これでいいと思った。
烈しい雨嵐となった夜だった)
「永遠の女性」 ‘Das ewige Weibliche‘
人生と愛はどうしてかくも早く飛び去って行くのだろう!
テオドール・シュトルム
アマーリエとのデートはじつに愉しいもので、ボーイにとっては大学生活の想い出=
アマーリエと過した甘い日々と時間だった、月並みだが。
同じクラス乍らふたり一緒の講義は、前に述べたU名誉教授の文献講読と学科長のY教授の
現代独語講読のふたつだけであった。
いずれも選択科目で、必修科目は演習ⅡA(翻訳)と演習ⅡB(作文)のふたつだけで、
各三名の講師陣から好きなひとを学生が選択できるシステムだった。
ボーイは当時より天邪鬼の気があり、いちばん人気のないひとの授業をそれぞれ取った。
クラス40人弱で前者9人、後者6人だけだった。
アマーリエはいずれにもいなかった。
連休前に告白したのが四月半ば過ぎ、連休明けには就職活動を開始しなければならず,
最初の数ヶ月は慌しく過ぎ去った。
夏休み前、7月始めに内定貰ったので親密にデートしたのはその頃からであったが、
ボーイは最後の夏休みにバイトして北海道に旅することにしていたので、アマーリエとは
夕方からしか会えなかった。
アマーリエはボーイがジミーと名付けたくらいだから派手さは全くなく、クラスメート(男)は
??って顔をしていた。
けど大きく潤んだ目と瞳、長い睫毛、通った鼻筋と
文句のつけようがない美人だった。
いまでいうスレンダー系とでもいうのか、細めのボーイ好み。
動作性格とも控え目なので仲良しの超美人T女史(一年落ちの先輩)
の陰になり目立たなかっただけだ、と確信している。
愉しかった時間とともに、すこしづつ違和感がボーイに生じ始めてきた。
まず洋服。
ジミーだがかなり高価な服のようだった。引換え、ボーイはいつもおんなじような格好。
安物のシャツセーターに膝が擦れたずぼんを履いていた。
親は普通のサラリーマン。
授業料と食事代以外の小遣いはバイトで賄っていた。
食事もかなりイイトコを希望するも払えなかった。いいわよボーイさんと言って
払って呉れるのが常だった。
なんとなく後ろめたいし男として情けなかった。
とうじひとり千円もあればそこその食事(珈琲付)でビール一本飲めた。
(一日バイトして千三百円くらい) それでふたりには十分だったのだが。。
行くなら美味しいもの食べましょというが、滅相もないレヴェルのレストランが多かった。
どんどん違和感が増幅して行きそのうちクリスマスを迎えた。
夜ある教会の前まで歩いてきたとき、降誕祭のお祝いをしていたようだったので
中に入れさせて頂いた。
中で二人座って牧師さんのお説教に聴き入った。
ある聖書の言葉を耳にしたとき、とつぜん二人の恋人関係を解消した方がよいと悟った。
帰りに優しく抱き合って接吻して別れた。
お互いに愛し合っていたのに。。
アマーリエはいつも控え目で可愛かった。
以心伝心。
あとからルノアールで(最終講義の前の週)、11月半ば頃にその銀行マンと会って
話が進んで行ったと聞いた。
交際相手がまるビだったので、彼女の親が心配したのかも知れない。
それで正解かなとアマーリエの涙ながらの話を聞いておもった。
分相応でどうか?
いつも自問していたから別に驚きはしなかった。
悲しくもなかった。
あの1月の烈しい雨の夜、アマーリエとお別れをした。
泣きながらアマーリエは去って行った。
時間よ、止まれっ!
お前はそんなに美しいから!
時間が止められ、タイムマシンであの時に戻れたなら!
されど、アマーリエはいつまでもボーイの心と共にある。
Ewig(永遠に) ewig ewig ...
そんなわけで、アマーリエはボーイの青春そのもの、
つねに「永遠の女性」なのである。
いま そよ風に笑う
アマーリエ きみに会えて
神に感謝
永久(とわ)に
ふたりの愛は老いない
愛は美しい
尽きることなくきみを想う
いま 約束しよう
来世でも アマーリエ
きみを抱きしめると
(訳:h女史)
(続く)