別れ (Der Abshied)


しばらく中庭でそのまま抱き合っていると小雨が降りだした。
この時期には珍しい。もう帰るときだった。19:40.

無言のまま駅へ向かう。毎度のことだったが駅は帰りのラッシュで
ひどい混雑。プラットホーム品川方面のいちばん先まで送る。
分かれ難くもういちど抱き寄せアマーリエの額瞼頬鼻顎耳唇顔全部に
接吻した。何度も飽きることなく。胸はさっき中庭で触ったからいいや。

アマーリエは先ほどから泣きっ放しだった。
何度もハンカチで涙と鼻をで拭ってやった。駅の突端は屋根がなく
雨がさらに強くなり二人はひどく濡れてきたが、構わず抱き合い
キスしまくった。ひどい雨と風で寒かったはずだが、かえって暑く
コートを脱ぎたいほどだった。

別れの時が来た。

‘Vielen herzlichen Dank, Amalie!
Jetzt ist die Zeit von Abshied.`

(ありがとう。お別れだ)

泣きながらアマーリエは言う。

‘ ... und auch.. an Ihnen!`

(あなたにも)

最後まで慎み深かった。
an dir と言って欲しかった。

やがて電車がはいってきたが大崎止りだった。
すぐ数分後に東京方面の電車が続いた。
抱擁を解いて空いている電車におしこんだ。

‘Auf Wiedersehen! Alles Gute.!`

(再見!元気で!)

泣き虫アマーリエは大きな目をさらに大きくし小さく手を振っていた。
可愛かった。

ふたりで会った最後の時だった。
これでいい これでよかったんだ と心のなかで呟いた。

ぼくは反対側に入線してきた池袋方面の山手線に乗り込んだ。20:20。
雨は嵐に変わりつつあった。

(つづく)