ヒョンとぼく・18
いつも冷静なユノヒョンが、険しい目つきをして彼女をじっと睨んでいる。
よほどの事がなければ、人前で怒りの感情をむき出したりしないユノヒョンが、だ。
正直、僕でさえ怖いと感じる。
けれど、なにぶん我が儘な彼女。
姿勢を崩すことなくソファーに座ったまま、ユノヒョンに強い視線を向けていた。
『二人とも落ち着いて、、、。僕に分かるように、ちゃんと話してください。あなたは一体何者なんです?そして、何を企んでるんです?』
僕がそう言うと、彼女は顔を曇らせた。
『、、、チャンミン、嘘でしょう?あなたまでそんな言い方をするの?、、、何もかも、ユンホのせいね。』
僕は腹が立った。
『ユンホのせいなんかじゃない。そんな恨み言を聞きたいんじゃない。あなたは僕を、どうするつもりだったんです?』
『、、、これだけは理解して聞いて。私は、本当にあなたが大好きなの。』
その言葉をきいたユンホは頭を左右に振りながらソファーに座り、溜め息をついた。
『まず、僕をスカウトした理由を話して下さい。』
『、、、私は最初に言った通り、LAでの数日間をあなたの側で過ごしているうちに、あなたに魅かれて行ったの。あなたは気付いてなかったようだけどね、、、。』
『それは、、、』
『(笑)、良いのよ、、、。でも、私は少し焦ってしまった。だって、あなたはLAでの仕事が終わったらサッサと帰国してしまう。次にまた私が雇って貰える保証はない。』
『、、、まぁ、、、そうですね、、、。それで?』
『どんな手を使ってでも、あなたを再び私の傍に連れ戻したかった。私はあなたの実力も充分分かってる。、、、利用しない手はないと思った。それで、私の会社の経営者である父に頼んで、あなたを全米デビューさせようとしたの。』
『そんな身勝手な、、、』
僕は驚いて、言葉にならなかった。
『、、、肝心な所が抜けてる。全て話せよ。』
相変わらず厳しい口調で、ユノが呟いた。
『そういえば、事務所がどうとか言ってましたね?マネヒョンの様子も、ユノヒョンの態度も最初から変だった。、、、なにか関係ありますよね?』
彼女は気まずそうな顔を一瞬見せて、気を取り直す様に紅茶を一口飲んだ。
それから視線を上げる事もなく、ぽつりぽつりと話し始めた。
『正直、普通のやりかたではあなたは手に入らない。じゃぁどうすればいいか考えた。私はまず、あなた達が帰国する前日の夜に、ユンホに取引を持ちかけた。』
『えっ!!前日の夜って、、、あぁ、だから不機嫌だったんですね、ユノヒョンは。、、、それで、どんな取引内容だったんです?普通ならヒョンはあそこまで機嫌が悪くはならない。一体あなたは何を言ったんです?』
彼女は相当に焦っているらしく、ティーカップをきちんと置くことも出来ず、大きな音を立てた程だった。
やたらと髪の毛を触ったり、どこを見る訳でもなくきょろきょろと視線を移したり、
一目で情緒不安定になっているのが見て取れた。
ユノはそんな事もお構いなしに、彼女に詰め寄っていく。
『チャンミンの前だから話しにくいのか?、、、ふ(笑)、どうせもぅ隠せやしないんだ。さっさと話せよ。』
『偉そうに言わないで!誰のせいだと、』
『誰のせいだよ。まさか俺とか?(笑)』
『黙ってったら!!、、、チャンミン、、、あなたは知らなくて良い事だと思うけれど、、、』
『この期に及んで何言ってんだ。』
『ヒョン、待って。話しを続けて下さい。』
『私、、、ユンホに言ったの。、、二人の関係を知ってるって。あなた達を見ててすぐにピンと来たけど、ある晩、、、その、、、』
『僕は大丈夫。話して。』
『その、、、あなた達がキスしてるとこ、偶然見かけたの。、、、それで、二人は愛し合ってるって確信して、、、』
『み、見かけた、って、、ユノヒョン!』
僕は一気に動揺した。
僕たちはこれでも、細心の注意を払ってたつもり。
まわりのみんなは僕たちを「仲が良い」とは思っているけれど、
まさか「恋人関係」だとは誰も知らない。
けど、、、
LAで、たった一度だけ、、、、
あの時、僕とユンホはLAのホテルで、いつものように同じ部屋に泊まっていた。
仕事も終わって、部屋でくつろいでいた時、
せっかくLAに来たのに観光も出来なくて残念だ、って話したら、
ユノがちょっと散歩でもしようかって言ってくれて、ホテルの周辺を歩いた。
もぅ深夜だったから人通りもまばらで、僕たちが「東方神起」だって事は、
LAでは正直、まだ知名度が低いせいか誰にも気付かれなかった。
だから僕たちは人目を気にすることなく、普通の人と同じように通りを歩いた。
その時ユノがふいに、僕の頬にキスをしたんだ。
僕は咄嗟に『誰がみてるかわからないのに!ダメだよ!』って言ったのに、
ユノはただ、『だいじょーぶ(笑)』って笑って、
そのまま唇を重ねてきた。
LAで僕らが触れ合ったのは、あの時だけ、、、。
そんなピンポイントな偶然ってあるんだろうか?
『あの、、、どうしてあんな時間に僕らを見かけたんです?』
『、、、つまり、、、あなたたちが泊まってたフロアは貸し切りにしてたから。うちの専属のSPにきけば、二人の行動は手に取るようにわかる。だから、、、』
『、、、つまりあなたは、僕たちの後をつけていたんですね。それで?』
『ユンホに言ったわ。そんなことをしてたら、メディアにバレるのは時間の問題だ、って。だから、チャンミンを私に預けなさい、ってね。、、、チャンミンがわたしの傍に居るのならばカムフラージュでも構わない。そのうち必ず、私を好きになるに違いない、って。』
『、、、なんて事を、、、』
『だって本当の事でしょう?チャンミンがユンホと一緒に居る事がどんなに危険で、どんなに重い足枷になってるか、、、あの日だって、ユンホがあんな行動に出なければこんな事にはならなかったんじゃない?、、、ユンホのせいなのよ!』
『違う!!“ユノと僕”の意思だ。そんな勝手な事を言うな!』
声を荒げた僕の腕をユノが掴んだ。
暴走しそうな僕をいち早く止める為に。
けれど彼女は、むしろ吹っ切れたように、その後も話を続けた。
『でも、私の言ってることは正しいわ。ユンホがあなたの将来を邪魔してるのよ。ユンホが本当にあなたの事を想っているのなら、私に任せるのが一番良いはず!』
『なんだよ!それ!!』
『、、、マネヒョンにもなにか余計な事を言ってるよな、あんた。』
『、、、私はただ、チャンミンが信頼している彼も、一緒に引きぬこうとしただけ。判断は彼に任せた。それだけよ!私が何をしたって言うの!?』
『そうじゃないだろ?要は金だよな。あとは、相手の弱みにつけこむ。それがあんたのやり方だろ?』
『だって!誰しもお金は欲しいはず。彼がチャンミンのマネージャーとしてうちの会社に来てくれれば、今の3倍の報酬を出すって提案しただけよ。それに、彼のお母様は入院してるんでしょ?アメリカに来れば、最新医療の治療も受けられる。悪い話じゃないわ。』
『、、、よくもそんな事が言えたな。』
『ほら。結局あなたが邪魔をしてるのよ。私の言う通りにすれば、彼は迷うことなく即座にこの話を受け入れた。あなたが居るせいで、チャンミンも、彼も、全てを放棄してしまう。結果的に彼のお母様も。』
『、、、それを全て、ユノヒョンにも、マネヒョンにも話してたんですか?』
『もちろん。LAを離れる前にちゃんと話してる。なのにマネージャーは一向に承諾しないし、ユンホは相手にもしてくれなかった。だから直接わたしが、こうやってわざわざここに来たの。』
『最低な話だ。、、ばかばかしくて笑えますよ。』
『チャンミン、、、よく考えて?ユンホは一人でもやっていける。俳優への道も開かれてる。何も心配はないのよ?けど、あなたには私が必要。私の傍に居れば、世界最高峰のフィールドに行ける。』
『僕は今の状態を変えるつもりはない。僕は、ユノと一緒に「東方神起」として世界最高のアーティストになる。それ以外はあり得ない。』
僕はきっぱりとそう言って、ユノの手を取った。
ユノはいつものように僕の手を握り返してすぐに離したけど、
僕たちはそれだけで、お互いの気持ちが理解できる。
そんな僕たちを見て、
彼女は半ば呆れたように溜め息をつきながら顔を左右に振った。
『、、、そういうと思った。でも、私、言ったわよね?もぅ一度言うからよく聞いて。あなたが一言イエスと言うだけで、あなたの可愛い後輩達や、お世話になってる事務所の為になる。そこ、ちゃんと分かってるの?ちゃんとよく考えて。』
“事務所のため”
“後輩のため”、、、痛いところを突かれた。
僕らは後輩をすごく大事に想っている。
事務所にだって、ここまで「東方神起」を大きくしてくれた恩もある。
この人はそれをわかって言ってる訳だ。
この世界は卑しい事の多い世界だけれど、
こんな卑劣なやり方は経験したことがない。
けど、、、
ユンホが無口になってたのも、マネージャーが少し寂しそうな顔で笑っていたのも、
今なら全て理解できる。
どんなに傷つき、迷い、葛藤があっただろう。
特に、、、ユノヒョンは、、、。
それでも二人ともなにも言わず、どんな結果になっても、
僕の選択を尊重しようとしてくれてたんだ。
僕をどれだけ大切にしてくれてるか、苦しい程に思い知らされる。
、、、僕はそんな2人の気持ちを無視して、
身勝手な判断なんて、僕には到底出来そうにない。
つづく
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