「過去最強侍ジャパン」の呼び声高い代表チームを編成できたこともあってか、過去4大会とは比べ物にならないレベルでの盛り上がりを見せている『WBC2023』。
その熱狂の余波はもちろん当スタジアムにも押し寄せ、ここまでの侍ジャパン5試合すべてで満席御礼と、コロナ前を思い出させるありがたい活況を呈した。
そんな侍ジャパン特需に沸いた1stラウンド4連戦を終えた翌日の当スタジアムの休場日、3月13日(月)に、『WBC2023』最初で最後の現地観戦に出かけてきた話をさせていただく。
雨予報の中、早起き(当社比)して向かった午前中の東京ドーム。
到着時点での球場正面の様子がこちら。
その数日前、『WBC2023』東京開幕の日の同じくらいの時刻と見比べると……
当たり前だが人だかりは段違い。だが日本戦非開催日の、小雨模様の平日月曜の午前中ということを考えれば、想像していたよりもずっと人が多い。
試合日しか営業しない場外のグッズテントも……
日本戦の日と比べれば、早朝から整理券を配っていないだけだいぶマシだろうが、それでも朝から晩まで長蛇の列で、ワンチャン空いてたら……と淡い期待を抱いていたグッズ購入は即座に諦める。
ちなみに第1試合開始前時点で、当日券売り場にもえらく長い行列ができていた。前日までの盛り上がりを見て急遽参戦を決めた方も多かったのだろう。
そんなこともあろうかと前売券を買っておいたファインプレイを自分で褒めつつ、入場列は全然なかったゲートをくぐって今季初の東京ドームへ入場。
日本戦のないPool B 1stラウンド5日目は、全席自由(外野と2階の開放なし)のデイナイター通し券のみの販売で、お値段は2500円。
ご覧のようにがらんとはしているが、想像していたよりは全然入っている。その想像の根拠というのが……
メジャーのプロスペクトが何人かいたアメリカ代表の試合だったにもかかわらず、こんな光景が広がっていた2019年の『プレミア12』の東京ドームの平日デイゲーム。
公式発表では2149名とのことだったが、どう見ても500人くらいしかいなかった。このコントラストもまた『WBC2023』の盛り上がりを示す証左であろう。
この日の第1試合はチェコVSオーストラリア。
前述の2019年『プレミア12』やその事前キャンプ見学などでわりと何度か観戦機会があって、見知った名前も多いオーストラリア代表に対し……
まるっきり全員初めましてのチェコ代表の皆さん。
『WBC』の参加国が増え、本戦出場枠も拡大されたことによって、こうした新たな野球的出会いの機会が広がったのは嬉しいことだ。
勝てばPool B2位でベスト8進出を自力で決めるオーストラリア。一方のチェコは勝ったうえで2勝2敗で3か国が並んだら条件次第であるいは、という状況で迎えた最終戦。
世界ランク的にも国際大会経験的にも、オーストラリア優勢と見られていたマッチアップは……
いきなり初回、2番ホール選手がライトスタンドに先制ソロアーチを叩き込み、下馬評通りの展開になるかと思いきや……
チェコ先発のシュナイデル投手は、長年チェコ代表を支えてきたという37歳のベテランらしい落ち着きで、バックの好守もあって6回途中に降板するまで被安打はこのホームラン1本のみ。大舞台のマウンドで素晴らしい投球を見せる。
試合中に一度だけあったリプレイ検証。
はじめて生で見た国際大会での「リクエスト」。ちなみに結果は行事軍配どおりであった。
プレイと関係ないところで個人的に「おっ!」と目を引いたのが、オーストラリアのこの投手。
9回に4番手で登板して試合を締めたケネディ投手。
このユニフォーム、背番号55、左投げって、我が野球的バイブルのひとつ『ストッパー毒島』の毒島大広ではないか……、とひとりスタンドで勝手に興奮する。投球フォームも体形も全然違ったけど。
試合は6回まで1-1のロースコアで緊張感漂う展開に。その6回までの安打数ではオーストラリアを上回るなど、下馬評を覆す善戦を見せたチェコだが、終盤に力尽きて8-3でオーストラリアが勝利し、準々決勝進出を自力で決める。
終わってみれば安打数は8本ずつとで同じで、スコア差ほどに内容に差はなく、両チームノーエラーが素晴らしかった。
スタンド内は一塁側三塁側関係なく両国に声援が飛び、好プレイには球場全体から拍手が送られるなど、国同士の真剣勝負ではあってもどこか温かい空気に包まれていた東京ドームは、新鮮でとても居心地がよかった。
この試合が2023シーズンの球場観戦始めとなったわけだが、それが満足感のあるとてもいい試合であったことで、今季もいいことありそうだという気にさせてもらえた。
第1試合終了は15時ちょっと過ぎ。19時プレイボールの第2試合までの長いインターバルは、入れ替え制ではないので東京ドームにい続けても構わないとのことだったが、さすがに4時間弱をスタンドでぼんやりする気にはなれなかったので、一旦自軍本拠地神田へと帰還。
約3時間後、ふたたびやって来た東京ドーム。ナイトゲームの第2試合は韓国VS中国。
前日の時点で1stラウンド敗退が決まっていた中国と、デイゲームのオーストラリア勝利によって準々決勝進出が消滅した韓国。
言ってしまえば開始前に消化試合となったわけだが、そんなことは関係なしにスタンドは昼間よりもはるかに埋まっていた。日本在住者が多い両国であり、異国の地で自国代表チームが見られる数少ない機会ゆえのことだろう。
久々にお目にかかった韓国代表の皆さん。
ユニフォームカラーが往年の横浜大洋のビジターを想起させるような濃紺にリニューアル。
かつて何度も日本と名勝負を繰り広げた思い出もあるからか、以前の鮮やかなブルーの方が個人的には好みである。
韓国代表チームの中で、一番おなじみ度が高いのはやはりこの選手。
お父さんのイ・ジョンボムさんがドラゴンズ在籍時に誕生したので出生地が名古屋市、で日本のファンにもよく知られているイ・ジョンフ選手。
代表選手としての来日は、2017年『アジアプロ野球チャンピオンシップ』、2019年『プレミア12』、2021年『東京五輪』に続いて4回目となるが、24歳の今大会はKBOの2022年打点王、MVP、そして2年連続首位打者と、若くして素晴らしい実績を引っ提げての来日となった。
そしてもうひとりは、2019年の『プレミア12』で来日した際はKBOプレイヤーだったのが、今大会はMLBプレイヤーとして戻ってきたこの選手。
昨季はサンディエゴパドレスで150試合に出場したバリバリメジャーリーガー、キム・ハソン選手。スタンドに詰めかけた韓国大応援団からもひときわ大きな声援を浴びていた。
それに対してほぼ存じ上げない面々の中国代表チームにあって、よく知った顔がひとりだけ。
ご本人は日本国籍だが、ご両親が中国の方ということでWBCの独特な代表資格を有しており、今回の中国代表に召集された、という経緯は皆様もよくご存知であろう。
ホークス時代の真砂選手、最後に見たのはいつかな……?、とデータを漁ってみたところ、思いのほか最近だった。
厳密にいえばもうホークスには在籍していなかったことになるが、昨秋足を運んだ仙台での『12球団合同トライアウト』の場で、真砂選手の最後のホークスユニ姿を見ていた。
実は以前にも一度、代表ユニを身にまとった真砂選手を見たことがある。
2016年の秋、『WBSC U-23ワールドカップ』のために編成された侍ジャパンU-23と、社会人の強豪JR東日本との練習試合を観戦に行った際、そこでジャパンの4番を打っていたのが若き日の真砂選手であった。
それを見ていたおかげで、同一選手の違う国の代表ユニ姿、という非常に珍しいものを拝むことができた。
試合とはあまり関係がないが、たぶん現地にいなければ気付かなかったであろう、ちょっと変わったスコアボードの表示。
中国の4番打者、C.CHEN(チェン・チェン)選手にだけ表示されている背番号。
その謎は試合途中の選手交代で判明。
途中出場でDHに入ったのは、もちろん別人だがまるっきり同じ表記のC.CHEN(チェン・チェン)選手。その区別のために背番号を表記していたのか、と大いに納得。
日本で言えば東京ファイターズ時代の「田中幸雄」選手同時出場、みたいなものだろうか。あのケースは「田中幸」と「田中雄」で表記を分けていたが。
そんな余談はさておいて試合の方はというと、締まった展開だった第1試合とは打って変わって序盤から荒れ模様。
とにかくストライクが入らない中国投手陣に、バッテリーエラーも頻発し、試合中の8割くらいの時間が韓国の攻撃という状況に。
序盤は貰ったチャンスをうまく生かし切れていなかった韓国打線も徐々につながりだして、3回には打者12人の猛攻で一挙8点。
4回にパク・コンウ選手、5回にキム・ハソン選手と2本の満塁アーチが飛び出すなど、最後まで攻撃の手を緩めず、取りも取ったり今大会最多、どころか『WBC』史上1試合最多記録となる22得点で中国を粉砕。
長くなりそうな予感に、「22時過ぎたら試合途中でも帰ろう……」と考えていたのだが、5回15点差の規定を遥かに上回るコールドゲームとなったことで、試合時間2時間37分と思いのほかコンパクトな試合となる。
この結果を見て思ったのは、この試合が韓国にとっての初戦だったとしたならば、白星発進で勢いをつけて臨むことになったその後の1stラウンドPool Bの星取も、全然違ったものになったかもしれない、ということ。
現に初戦で中国と対戦した我らが侍ジャパンは、多くのチャンスをもらったにもかかわらず、取ったのはオーストラリアよりも韓国よりも少ない8点。それでも勝ったことでその先を楽に戦えた部分は間違いなくあっただろう。
改めて国体大会の大舞台の怖さみたいなものを思い知らされた気がした。
一方の中国は、WBSC世界ランクは今大会出場20か国中最下位(30位)。
この試合に登板した6投手がもれなく荒れ球で5イニング10与四球。バッテリーエラーもとんでもなく多く、ランナーをためたところに痛打を浴びて大量失点と、正直自滅と言っていい内容であったが、褒めるべき点としては、守備の部分では以前よりもだいぶ上達が見られたように思えた。現にこの試合に関してはバッテリー間以外のエラーはゼロ。
1stラウンド全敗、うち2試合はコールドだったが、それでも無得点に終わった試合はひとつもなく、意地は見せた。
まだまだ発展途上の中国球界。なんせ人口ボリュームがとんでもないので、本気を出したらあっという間に強くなる気がする。ぜひ強敵となって東アジアの野球をともに盛り上げてほしいと願う。
……なんて普段のプロ野球観戦などでは考えることもない、国際大会の場だからこその物思いにふけながら、昼12時から夜22時近くまでの丸1日、『WBC2023』の2試合を最初から最後まで満喫できた先日の休場日。
野球は自分が楽しむよりも先に店で楽しんでいただくこと!と定めているこの商売を続けている限りは、国際大会の大舞台を戦う侍ジャパンの雄姿を球場で生で拝むことはないだろうが、今後もこういった機会を見つけては、せっせと世界の野球の空気を胸いっぱい吸い込みに行きたいと思う。
そしてこの試合でスタートした、自分自身の2023年の球場観戦の日々。
当スタジアムはコロナ禍のダメージからの復興途上であり、まだなかなかコロナ禍以前と同じようなペースでは球場には足を運べそうにはないが、11年目の今季も可能な限り多くの球場に出没して回りたいと思う。
球界も世の中も脱コロナ元年になってくれそうな今年。皆様も多くの球場に足を運ばれるかと思うが、それと同じくらい神田へも行こう!と思っていただきたいと願う当スタジアムへの皆様のご来場を、引き続き心よりお待ちしております。