アリセプトと言う薬は、アセチルコリンを分解する酵素の働きをおさえ、アセチルコリンの作用を増強する薬です。
この作用は強力なようで、レビーに使用っするとさまざまな問題を引き起こします。
アセチルコリン系は、学習・記憶に重要な作用をしていると言われていますが、脳内での作用を考えて行きたいと思います。
中脳にマイネルト核と呼ばれるアセチルコリン作動性の神経核があります。マイネルト核は脳幹網様体からの刺激を受け、大脳全体に刺激を送り大脳を活性化する大脳賦活系の重要な構成因子です。アルツハイマーでは、この系のアセチルコリンが不足していると言われていますが、レビーの場合アルツハイマー以上にマイネルト核のアセチルコリンが不足しています。ですからレビーにアリセプトを投与すると見違えるように認知機能(短期記憶や日常動作の実行機能)が改善することが有ります。私が最初にアリセプトを処方したケースがそうでした。劇的に効いたケースでした。
大脳の活動は、一部の領域(大脳辺縁系)を除いて大脳賦活系にその機能を依存しています。大脳賦活系からの刺激が無くなると活動を停止します。
病的な原因で大脳賦活系の機能が低下すると、意識障害と言う状態に成ります。生理的に大脳賦活系が停止すると睡眠と言う事に成ります。レビーが嗜眠と呼ばれる意識障害を起こしやすいのは、このマイネルト核のアセチルコリンが不足して起こるのです。
大脳の活動は、前頭葉の前頭前野が支配しており、他の部位の大脳は前頭前野の指示通りに動いているのです。
アルツハイマーで障害される頭頂葉には、いろいろな作業を行う領域があり、このりょういきが障害されると日常生活・知的活動に障害が生じます。いわゆる実行機能の障害と呼ばれる機能ですが、アリセプトを中止すると大脳賦活系の作用が低下し、大脳の機能障害(特に頭頂葉)が起こり、様々な実行機能に障害を起こしてきます。
アルツハイマーは、頭頂葉自身がアルツハイマー性変化で障害を受けて行きますので、大脳賦活系の作用を回復しても、だんだん改善効果が得られにくく成ります。
ところがレビーは、頭頂葉を起こされませんから、大脳賦活系の働きが弱まると実行機能障害がすぐ起こるのです。
良くアリセプトを中止するといろいろな事が出来なくなると言われていますが、これはレビーのケースに多くみられる現象だと思います。
私が最初にアリセプトを使用したケースも、短期記憶障害が目立ったので、アリセプトを開始しました。この時は著しい改善を見て、ほぼ正常になったと思われる状態まで回復し非常に驚かされた事が記憶に強く残っています。その後いろいろな機能低下が目立ち不安が増強してきたため、アリセプトを中止しました。特に短期記憶障害が高度と成った為、アリセプトの効果が無くなったと考え中止しました。中止で残存していた実行機能が急激に衰えて行ったことが強く印象に残っています。アリセプトによりマイネルト核のアセチルコリンの作用が増強されていたのです。アリセプト中止で、急激に実行機能の低下を来したのです。
このケース以外にも、アリセプト中止で実行機能の低下が引き起こされたケースがありますが、それほど多いと言う印象は有りません。
このように、レビーの場合、アセチルコリンを増やすことで大きなメリットを得られることが判っています。小坂先生がレビーにアリセプトが効くと主張しているのは、このような脳の作用が関与しているからなのです。
ただレビーにとって良い事だけではない事を次回書きたいと思います。