“下山淳祭”で申し訳ない。以下の原稿は既に福岡発のBEAT MUSICの応援サイト「福岡BEAT革命」のFBページで紹介しているが、昨日、公開した「シン仲野茂バンド誕生――仲野茂バンド メンバー全員インタビュー! <Ⅰ>+<Ⅱ>」とも関連するので、アメブロでも公開させていただく。今年、67歳の彼が精力的に動く理由がわかるだろう。併せて読んでもらいたい。
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このGW前後はライブ三昧だったが、とりわけ心に残るのは下山淳のライブだった。改めて下山淳は一筋縄ではいかないミュージシャンであるとともに音楽を通していろんな形の多幸感を届ける稀有な存在であることを実感する。その多様で広範な音楽的知識と素養に高度な技術と鋭利な感性で、自らの頭の中に生まれる艶やかで煌びやかな極彩色の世界をギターという絵筆で描いてみせる。
(写真左から)下山淳(G)、武田康男(Vo、G)、
樋口素之助(Dr)、岡本雅彦(B)、マリアンヌ東雲(Kb)
4月29日(水・祝)、高円寺「JIROKICHI」で行われた「貝生平2 Play the 60/40」では蜘蛛蜥蜴の武田康男(Vo、G)、仲野茂バンド、G.Dフリッカーズの岡本雅彦(B)、頭脳警察の樋口素之助(Dr)、キノコホテルのマリアンヌ東雲(Kb)とともに、かつて下山淳が弟の下山アキラ(B)、湊雅史(Dr)、スエキチガイ(Vo)、Sun-Chiriko(Kb)などと1990年代に結成した、60/40の「ソフトマシーン」や「サイケリア」、「アゴラドゥラ」など、超絶難曲を披露してみせた。まるでザッパやジェフ・ベック、トッド・ラングレン(ユートピア)を彷彿させる超絶技巧の天下一武道会状態。混沌と混乱を潜り抜ける爽快感と、難解なクロスワードパズルを解いたような達成感を与えてくれる。近頃、体験したことのない快感を味あわせてくれた。音楽性は違えど、村上PONTA秀一や渡辺香津美、坂本龍一、小原礼、ぺッカーなどが暗躍、躍動した、フュージョンとテクノの端境期、かの熱狂と興奮の六本木PIT INでの“KYLIN”や“カクトウギセッション”なども過る。男も女も老いも若きも胸騒ぎ、心躍る音だろう。こんな下山淳が見たかったという人も多いのではないだろうか。貝生比良から貝生平へ、多少の人事異動もあったが、パーマネントなバンドとしての活動継続を望む音楽ファンも多いはず。勿論、休止中(!?)のアカネ&トントンマクートやEli and The Deviantsの活動再開も期待したくなるというもの。
(写真左から)宮田岳(B)、下山淳(G、Vo)、茜(Dr、Vo)、
澄田健(G、Vo)
5月16日(土)は所沢「MOJO」で一足早い下山淳の生誕祭が開催された。下山は5月19日に67歳になる。下山を支えるのは頭脳警察、元黒猫チェルシーの宮田岳(B)、EMILAND、スクナシ、アカネ&トントンマクート、三宅伸治&the spoonfulの茜(Dr)、そしてシーナ&ロケッツ、YAMAZEN(山部“YAMAZEN”善次郎)&The 幌馬車、D runkard Ball、Takeshi Sumida's ROMの澄田健(G)という気心の知れた仲間達である。
ちなみに澄田は2023年7月のアカネ&トントンマクートの大阪・京都・名古屋という“サマーツアー”の京都「拾得」公演に下山のトラとして参加したこともある。下山と茜、澄田との共演歴は敢えて説明の必要もないかもしれないが、宮田との共演歴を簡単に紹介しておく。宮田岳と下山淳は、アコギなSS(仲野茂+下山淳)で岳竜(宮田岳+澤竜次)と共演、黒い鷲-ZUNOMONO (澤竜次、おおくぼけい、宮田岳、樋口素之助、竹内理恵)でも共演している。また、下山は2024年7月8日(月)、渋谷「 duo MUSIC EXCHANGE」で開催された「七夕忌 PANTA一周忌&頭脳警察55周年記念ライブ」でゲストとして出演。宮田は昨2025年の下山の生誕祭にも出演している。
毎年、生誕祭ではレギュラーバンド以外にゲストなども出演するが、今回、ゲストはなく、言わば気心の知れたメンバーと馴染の店でお気に入りの曲を演奏するバースディライブになった。
下山はこの日の開演時間の18時にいつものギターではなく、ひょうたんの形をしたブズーキ(ギリシャ音楽で使用される弦楽器。ギリシャの他にもセルビアやボスニア・ヘルツェゴビナといったバルカン半島の民族音楽、アイルランド音楽などでも使用されている)を持って、ステージに登場する。意外な登場で驚くが、1999年5月29日に同時発売された2枚のソロアルバム『Living On The Borderland』(アコースティックアルバム)と『Monkey Night』(エレクトリックアルバム)に収録された「長い道」(”Living――”にはショートヴァージョン、“Monky――”にはロングヴァージョンを収録)が披露される。続いて、『Living On The Borderland』から「宮殿の大浴場~ハララビ」が演奏される。フォークロアにエスニックをまぶす。ちょっと、サード・イアー・バンドなども思い起こさせる。ブズーキも納得の選曲だ。宮田、茜、澄田は難曲をしっかりとサポートする。
下山はフェンダーに持ち替え、お馴染み、山口洋が歌詞を提供した「Old Guitar」(ROCK'N'ROLL GYPSIES 『I 』2003年)を披露する。いつもの下山らしい流れに観客も胸を撫でおろす。下山はギターに通販で買ったという骸骨の形をしたカポタストを付け、昨2025年1月30日に亡くなったマリアンヌ・フェイスフルのテリー・リードのカヴァー「Rich Kid Blues」を下山流に聞かせる。意外なナンバーだが、こんな曲を引出しの中からひっぱり出してくるのも下山らしい。
下山自身、生誕祭などはあまりやる気はないらしいが、まわりからのリクエストで気づいたら通年開催しているという。下山の故郷である山形県鶴岡時代は自宅で“お誕生日会”を開くこともあり、母親からはお友達を呼んできなさいと言われたものの、呼べるような友達はいなかったので、知り合いを友達ということで来てもらったそうだ。バースデイケーキではなく、母親が作る筍のかやくご飯が思い出だそうだ。山形県鶴岡市の慎み深く、愛溢れる家族の物語がそこにはあった。友達のいなかった下山はいま、素晴らしい仲間達に囲まれる。“アット・ホーム”などというと鼻白むかもしれないが、先日の「JIROKICHI」のライブに比べたらいつになく、気を許し、寛いでいるようにも見える。
改めてのメンバー紹介後、村八分の曲をやると観客に告げ、「水たまり」を披露。“がきの頃を思い出して”と歌われる。アカネ&トントンマクートやソロでは何度も歌われたナンバーだ。ちょっとやさぐれた感じが見事に嵌まる(!?)。
続いてROCK'N'ROLL GYPSIESの『Ⅱ』(2005年)に収録された下山が作詞・作曲した「 Junk! Junk! Junk?」が演奏される。
60を過ぎ、70近くになって、こんなにロックしている大人はいないだろう。村八分からジプシーズへという流れが下山らしく、しっくりとくるのだ。
同曲の後、澄田を紹介し、彼が歌うことを観客に告げる。シナロケやロッカーズのロックンロールナンバーかと思えば、アルバムなどには収録されていない、彼のオリジナル「花鳥風月」が披露される。沖縄民謡風のナンバーで、澄田は元上々颱風の白崎映美と大田穣、古関純匡とともにKBB(近所バカバンド)を組んでいるが、そんな影響もあるのだろう。澄田自身は広島出身で地元、広島の民謡「音戸の舟唄」もソロなどで度々、披露している。知る人ぞ知るというか、ほとんど知られざる“民謡十字軍(クルセイダーズ)”だろう。
澄田のソロの後、下山は“ジプシーズの最新アルバム(『Ⅴ』2023年!)に入っている”という、隠れた名曲「So Long」を歌う。ミディアムテンポのナンバーで、聞くものは引き込まれる、そんな力が宿る。随分、やっていなかったという。茜のソウルフルなコーラスが同曲の魅力をさらに引き立てる。
下山は同曲を満足そうに歌い終えると、本日は1部、2部制で休憩に入ることを宣言。彼らは18時に開演して、休憩まで1時間ほど、へたることなどなく、休みなく突っ走った。見事な大人達ではないだろうか。
20分ほどの休憩後、メンバーがステージに戻って来る。ジョージ・ベンソンなどでお馴染みの「ON BROADWAY」を演奏しながらメンバー紹介を改めてしつつソロを回していく。かの時代のマナーをさりげなく踏襲しているところが彼ららしい。宮田岳が最年少(1991 年2月1日⽣まれ。神⼾市出⾝)であることが“暴露”される。下山が67歳、宮田が35歳になる。30以上、年齢が離れていても仲間として普通に演奏できるところがこのバンドの懐の深さだろう。宮田は下山淳を始め、頭脳警察、Jagatara2020、鈴⽊茂、町⽥康(汝、我が⺠に⾮ず、マチダ地蔵尊)など、日本のロックレジェンドに気後れすることなく、堂々とタイマンをはる。そんなところが宮田岳というミュージシャンの変幻自在さだろう。ちなみに宮田は筑波大学、同大学院の芸術専攻修了。漆・⽊⼯作家の顔も持ち、都内を中⼼に、出張⾦継ぎ教室を多数開催中という。そんなキャリアやバックグラウンドも下山の絵描きとしての資質とされ気なく、交わる。
続いて茜がフィーチャーされ、彼女はアン・ピープルズの「A good day for Lovin’」を歌う。ドラマーだけでなく、歌手としての実力を改めて観客に知らしめる。彼女のソウルフルな歌声は特筆すべきものがあり、アカネ&トントンマクートでも彼女のソウルショーは白眉だった。繰り返すが、トントンマクートの再始動を期待するものも数多い。
下山がお馴染み、ジョニー・ウィンターの「Bon ton roulet」をカヴァーする。所沢がテキサス、ニューオーリンズへ――スワンプな香りを会場に運ぶ。澄田の壺を心得た切り込むようなギターの音がこの曲に色どりを加える。二人のギターの絡み(バトル!?)はギター好きには堪らないだろう。
同曲の後は宮田岳がフィーチャーされる。宮田はJagatara2000 の盟友、ヤヒロトモヒロとのユニット、公開車庫のオリジナル「TVショウ」を披露する。ラップ風味の歌とサイケとファンクがミクスチャーされた不思議な曲で、下山が演奏で同曲を盛り上げる。改め二人の相性の良さを感じる。下山のギターには変態的な魅力があるが、宮田のベースも一筋縄ではいかないものがある。この組み合わせは絶妙な化学変化を生む。ある意味、ベストパートナーかもしれない。
下山はアコースティックギターを抱え、メンバーにコード(Gらしい!)を確認しながら“Z”(THE ROOSTERZ)の名盤『FOUR PIECES』 (1988年)に収録された下山が作詞・作曲している名曲「預言者」を披露する。誰もが知る下山の代表曲、観客のボルテージも一気にあがる。
同曲に続き、下山が沢田研二に提供した「カガヤケイノチ」(作詞・沢田研二:作曲・下山淳)を歌い出す。敢えて説明するまでもないが、下山は沢田研二の“沢田研二TOUR”のバンド(2008年に沢田が“鉄人バンド”と命名)のメンバーだった。下山の沢田のバンドへの参加は1999年から2015年まで続いた! 沢田に楽曲も提供している。下山の横には大江慎也や遠藤ミチロウ、泉谷しげる、浅川マキ、そして沢田研二など、常に強烈なヴォーカリストがいた。
同曲を歌い終えると、本編最後の曲とアナウンスする。歌う前、下山は“67歳、当時はそんな年齢でロックをやっている人なんか、いなかった”と語った。確かにルースターズに参加した時(1983年。当時24歳)には自分が60を過ぎても演奏しているなど、信じられなかっただろう。実際、下山は大病で、長期入院、療養することもあった。彼は“長生きはするものですね”と言いながらも少し寂し気に“歌詞を書いてくれたやつが最近、逝っちゃった”と語る。「Shallow me」を歌い始める。1995年にリリースしたアルバム『Living On The Borderland』に収録されている。作詞は先日、2026年1月6日に急逝したスマイリー原島。下山はスマイリー原島のバンド、アクシデンツのセカンドアルバム『知らない世界』(1985年)をプロデュースしている。複雑な思いを抱きながらも彼への感謝、追悼を込め、見事に歌いきった。同曲を終えると、スタッフの合図でクラッカーからステージへテープが弧を描く。HAPPY BIRTDAY――バースデイのサプライズ演出である。音も火も出ないが、極彩色のテープが客席とステージを結ぶ。実はスタッフは演者には内緒で開演前に客席にクラッカーを配り、合図とともに投げ入れてくれと仕切っていた。ささやかだが、思いやりの籠ったプレゼントだ。下山は照れ臭そうにしているが、笑顔が零れる。メンバーは一端、ステージを掃ける。その間、スタッフはテープを回収し、会場に迷惑を掛けないように対応する。思いやりなどと言うと、気恥しくなるが、分断や憎悪が溢れる世界でこんな気遣い、やりとりがいま、必要ではないだろうか。
会場のアンコールの拍手と歓声に促され、メンバーはステージに戻って来る。下山は下山淳とホッピー神山によるユニット「RAEL」(ラエル)唯一のアルバム『Birth Of Monsters』(1990年)に収録された「Sun,Rains & Radio」を披露する。超レア曲(と、会場が認識していたかは不明!? 私も「RAEL」のアルバムは当然、聞いているものの、曲名などはすぐに出てこなかった。申し訳ない!)の蔵出しに観客は歓喜する。
再び、コードはGと確認後、ニール・ヤングの「Only love can break your heart」を演奏する。同曲はニール・ヤングのサードアルバム『AFTER THE GOLD RUSH』(1970年)に収録された名曲で、シングルとしてもリリースされている。同曲に限らず、下山淳や花田裕之などのライブではニール・ヤングの曲は何度も歌われている。ある世代のアンセムといっていいだろう。年寄りと言われればそれまでかもしれないが、その歌は人の頑な心を溶かし、凛とさせると同時に優しくもさせる。当然、彼らの歌にもそんな効果がある。「Only love can break your heart」には“Yes, only love can break your heart(そう 君の心を壊すのは 愛だけだ”というフレーズがある。その言葉を口ずさんでくるだけで、優しい気持ちになる。勿論、全部を訳すと、前後の歌詞からいろいろ意味もかわってくるかもしれないが、何某かの効果(ご利益か!?)がありそうな気がする。下山が時々、歌っているニール・ヤングの「HARVEST MOON 」(1992年にニール・ヤングがリリースしたアルバム『HARVEST MOON』 のタイトルトラック)とともに最高の“締め”曲ではないだろうか。
観客も納得、満足な顔を浮かべ、ステージを去る彼らを見送る。20時40分には“撮影会”がおこなわれたから、18時に始まり、途中、休憩を挟み、20時30分過ぎにはアンコールを終えている。約150分、充分過ぎる生誕祭ではないだろうか。バースディライブというと、ゲスト多数、演出多様という豪華絢爛、満漢全席、ラストワルツ的なものが多く、それもいいかもしれないが、シンプルにメンバーやスタッフ、オーディエンスの“下山愛”が存分に伝わる、愛ある150分に意味があるだろう。何か、皆の笑顔が眩しく、それが心と身体の浮世の滓も解きほぐす。また、来年も下山淳の“生誕祭”へ足を運びたくなる。67を過ぎて、こんなに幸せな気分でロックしているミュージシャンはいない。いい歳の取り方をしている。古希まであと一息。もう一踏ん張りだ。何か、この4月29日(水・祝)と5月16日(土)は驚きと寛ぎの果てに音の万華鏡を手にいれ、心と身体の桃源郷の入り口を見つける――そんな気になった。下山淳の後ろ姿を見て、俺たちもしっかり歩いていこう。












