土曜の夜と日曜の朝の音楽――井上富雄 | Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

Let's Go Steady――Jポップス黄金時代 !

Jポップスの黄金時代は80年代から始まった。

そんな時代を活写した幻の音楽雑誌『MUSIC STEADY』をネットで再現します。

井上富雄との付き合いも40年近くなる。といっても彼と特に個人的な交流があるわけではないが、井上富雄は198011月、THE ROOSTERSとしてデビュー。来年は40周年になる。同バンド脱退後もブルー・トニックやバリア・ゲイツ、Cajun Moon Bandなどのバンド、ORIGINAL LOVEや小沢健二、佐野元春、HOTEISIONなどのレコーディングやライブなどのセッション・ミュージシャン、ソロ・アーティスト、プロデューサー、アレンジャーとして活躍するなど、八面六臂の活動ぶりだ。もし、彼の存在がなければ、日本の音楽界はその形が少し変わっていただろう。必要欠くべからずのアーティストである。

 

その井上が久しぶりにリリースした新作が『AFTER THE DAWN』である。井上富雄(VoB)を支えるのは尾上サトシ(G) 、田中徹(Dr)、五十嵐慎一(Kb)という、日頃、演奏を共にしているメンバー。ソロとしては16年ぶりのニュー・アルバムだ。

 

同作のリリースに合せ、1025日(金)、東京・下北沢「440」で、「『AFTER THE DAWN』リリース・ライブ」が開催された。彼のライブを見るのは佐野元春&HOBO KING BANDや苗場音楽突撃隊、苣木寛之のDUDE TONE、古田たかしの「古田たかしドラム生活40年祭『しーたか40』」、伊藤銀次のココナツ・バンク、池畑潤二の『BIG BEAT CARNIVAL IN 磔磔SPECIAL 3days』(……と、書き出すと切りがないくらい、ここ数年でも数多くのライブで彼の演奏を見ている!)以外では、2014年のTHE ROOSTERSの“ORGINAL4”の“再結成”(同年7月名古屋「クアトロ」、新潟県湯沢町苗場スキー場「FUJI ROCK FESTIVAL’16」) 、2015219日の渋谷「Rex」のブルー・トニックの“再始動”ライブ以来になる。

 

おそらく、いまの彼の音楽は元THEROOSTERSという看板を外して聞くと、しっくりくると思う。ファースト・アルバムの犯罪者すれすれ(!?)の凶暴な容貌は忘れてもらいたい。もっとも、いまどき、そんな感じを抱いているのは古のマニアぐらいだろう。彼自身は裕福な家庭に育ち、音楽的な基礎教育を受け、ピアノなども堪能だという(以上は某氏に聞いた話だが、未確認情報。間違っていたらすいません)。北九州の不良という鉄火肌とは無縁である。実際、話すと温厚で、実におおらかである。危険な香りなどはない。お洒落で、洗練されている。いまなら、再注目されている“渋谷系”や“シティ・ポップ”などの文脈で、聞くとすんなりと耳に入ってくるだろう。

 

久しぶりのライブ、会場の「440」には男女や年齢を問わず、多くの観客が詰めかける。当たり前といえば当たり前だが、THE ROOSTERSの観客とは随分と違う。気持ち、おしゃれさんが多いような気がする。会場には数日前にできたばかりという新作を買い求める方も多い。勿論、私も購入した。

 

開演時間の730分を10分ほど過ぎ、井上を始め、メンバーが登場。若干、緊張気味ながら、スムーズにステージは滑り出す。いうまでもなく、ヴォーカルは井上である。他のバンドなどで、彼がヴォーカルを取ることはあまりないが、その素直な歌いぶりが聞いていて、心地良く、爽やかである。誤解を受けるかもしれないが、いい意味で“歌のおにいさん”的であり、清楚で可憐な趣がある(八千草薫か!?)。まずはベーシストとしてではなく、ヴォーカリストとしても聞かせるものがあることを強調しておきたい。

 

 

この日は新作『AFTER THE DAWN』に収録されたナンバー、さらなる新作に収録予定のナンバーを中心に演奏を披露。1部、2部の2部制で、130分ほどのステージながら井上富雄の魅力を余すところなく、伝える。その魅力とはジャズやソウルなどをベースにソフィスティケートされたポップなサウンドにある。同時に芸歴40年になろうという熟練ながら枯れた味わいやいぶし銀の音などではなく、瑞々しく、新鮮なものがある。井上が時々、照れながら楽曲を紹介していたが、「Morning Dew」や「Corkscrew」などは、“青春ポップ”そのもの。ヘアカット100のニック・ヘイワードの『風のミラクル(ノース・オブ・ア・ミラクル)』を思い出してしまった。

 

この日は金曜の夜だったが、披露した新作にも収録されている「土曜の夜と日曜の朝」は、かのアラン・シリトーから取ったものかもしれないが、喧噪と静寂、連帯と孤立、束縛と解放……など、景色や気持ちの変化が描かれる。青春ポップとは裏腹な、こんなにも陰影と深淵を滲ますナンバーまで、ものにしている。

 

 

考えてみれば、彼の原点ともいえるブルー・トニックはTHE ROOSTERSからの離脱や飛躍、彼独自の音楽の萌芽である。メンバーは井上富雄(VoG)を始め、木原龍太郎(Kb、G)、冷牟田達之(B)、田中元尚(Dr)など、北九州出身者で固められていたが、1986年に彼らのデモ・テープが青山のレコード店「パイド・パイパー・ハウス」を介して桜井鉄太郎に渡り、テイチク傘下のレーベル“ノン・スタンダード”(いうまでもなく、かの細野晴臣と牧村憲一が関わったレーベル。細野自身はブルー・トニックとは無関係)からのデビューしたことからも明らかなように、めんたいロックとは別なところから生まれている。その音楽もR&Bやジャズなどのブラック・ミュージックをベースに当時のUKソウル・シーンともリンクしていた。ポール・ウェラーは1982年にザ・ジャムを解散させ、1983年にはスタイル・カウンシルをスタートさせている。一部では“早すぎたスタカン”という異名を取った。ブルー・トニックのメンバーのその後の活躍は改めて説明するまでもないが、その先駆性は再評価が必要だろう。早すぎたスタカンというより、むしろ、前述通り、早すぎた渋谷系か、遅すぎたシティ・ポップかもしれない。

 

改めて、井上富雄という稀有なアーティストの存在に焦点が当たるべきではないだろうか。アルバムは11月に通販&配信でもリリース。ライブは、1月に東京・渋谷「beatcafe」(田中元尚のお店!)でのソロ「PEACEVILLE」を、2月にはバンドでも行う予定だという。

 

 

この日、1025日(金)は朝から台風の影響で東京は豪雨に見舞われていた。外に出ようものなら傘は吹き飛ばされ、服や靴はずぶ濡れになる勢い。千葉や福島で被災された方もあったくらいだ。しかし、不思議なことにライブの開演直前に東京では雨は上がり、傘なども不要になっていた。井上が“晴れ男”か、どうかはわからないが、何かを持っていることは確かだ。それを自らの耳と目で確認してもらいたい。

 

 

AFTER THE DAWN DIGEST

 

 

AFTER THE DAWN AFTER THE DAWN
2,420円
Amazon

 

 

井上富雄のホームページ。

http://www.tomioweb.com/