「1秒先の彼女」(2020)

 

台湾製の個性的なラブコメの佳作をU-NEXTで観ました。

 

 

監督はチェン・ユーシュン。予告編はコチラ

 

アラサー女子のヤン・シャオチー(リー・ペイユー)は、地味な郵便局勤め。仕事はテキパキとこなしてますが、恋愛の方はサッパリで彼氏はずっといません。幼少時からせっかちというか、徒競走はいつもフライングスタート、写真撮影のタイミングでは絶対目をつむってしまうし、映画を観て笑うタイミングも人より早く、何でもワンテンポ動きが早い性分です。ある日、たまたま公園で出会ったイケメンIT起業家&ダンス講師に8月の七夕情人節(チャイニーズバレンタインデー)でのデートに誘われたもんですから、急にウキウキ気分の日々が訪れます。いよいよバレンタインデー当日の朝、デートに出かけるためにバスに乗ると、時が止まってしまい、もう一度目覚めるとなぜか翌日朝になってしまいます。大切な1日を失ったシャオチー。記憶も全くありません。しかし、写真館に飾られていた(撮影した記憶がない)自分の写真、ふと思い出した(かつて自分が持っていた)私書箱の鍵、毎日郵便局にやってくる青年といったパーツが消えた1日の謎とつながっていることに気づきます。やがて、謎を解明する旅に出たシャオチーは忘れていた宝物を見つけることになって・・・というのが大まかなあらすじ。

 

仕事は自分よりできないくせに周りからチヤホヤされる20代美人OLと全てをあきらめた感のある枯れたおばさんの職員に挟まれた席で過ごす郵便局での仕事パートも、ヘンな住民だらけでしょっちゅうブレーカーが落ちる狭いアパートでの日常パートも、それぞれにファニーな瞬間が切り取られています。学生時代に父が蒸発していまだに行方不明であるエピソードも突然挿入されて、その過去も終盤でホンワカと回収されていきます。擬人化したヤモリが彼女の前に現れて、彼女が忘れたモノを思い出させてくれる、夢なのか現実なのか分からない場面もいきなり出てきます。よくよく考えると、映画で起きる出来事の辻褄が合ってるのかどうか、怪しい設定なのですが、温もりのあるユーモアに包まれて独特のテンポで進む語り口によって、心地よくラストまでいざなってくれる不思議な映画になっています。ファンタジーのアバウトさすらもとても愛おしくなる感じ。

 

前半を引っ張っていくのがシャオチーという女性で、後半に物語を動かしていくのは、ウー・グアタイという名のバスの運転手をしている男性(リウ・グァンティン)。たびたび、シャオチーの座る受付にやって来て、手紙を1通誰かに送ります。シャオチーのことを口説こうとしてるのか、ちょっと思いつめたような目でシャオチーを見るグアタイ。シャオチーと正反対で、何をするにも1テンポ遅く、徒競走のスタートも、映画を観て笑うタイミングも、地震が起きて慌て出すのも必ず遅れる性分。このグアタイとシャオチーとの因縁が明かされていき、思いがけない展開となっていくところが見どころ。ロケ地に行きたくなるような、淡い色合いの台湾の景色も美しいです。原題は「消失的情人節」で、"消えたバレンタインデー"という意味。2020年の金馬奨(台湾のアカデミー賞)で作品賞・監督賞など5部門を受賞したのも納得できる傑作でした。