「カンバセーション…盗聴…」(1974)

 

ジーン・ハックマン主演のコッポラ監督作品をU-NEXTでひさびさに観た。

 

 

プロの盗聴屋がある事件に巻き込まれるサスペンスムービー。予告編はコチラ

 

サンフランシスコのユニオンスクエアを見下ろすショットから、カメラは次第に男女のカップルの姿を追っていきます。よく見ると、二人の中年男が男女のそばをバレないようにウロチョロしていて、どうやら尾行して盗聴してるようです。そして、公園を見下ろす2つのビルからは望遠レンズ付きのカメラ男女を盗撮。ある大企業から男女の会話と写真の依頼を受けたのは、ハリー・コール(ジーン・ハックマン)という全米一と噂されるプロの盗聴屋。さっそく3地点から盗聴したテープを元に周囲の雑音を排除して、二人の会話だけを抽出する作業を行うハリー。納品当日、依頼主(大企業の専務)に完成したテープを直接手渡す約束だったのに、秘書(ハリソン・フォード)が代わりに受け取ることになったことを怪しんで納品を拒否したハリー。仕事場に戻って盗聴の会話をさらに精査すると、「殺されるかもしれない」という会話が浮かび上がってきたため、盗聴した内容には深入りしないポリシーを持ったハリーの心が揺らぎます。そして、いつしか自分が追われる身となってしまい・・・というのが大まかなあらすじ。

 

全米を揺るがした政治・経済の事件が明るみになった裏で、ハリーの盗聴技術が生かされた過去もあるようです。他人のプライバシーを盗む仕事をしているからなのか、ハリーの秘密主義は徹底していて、相棒のスタン(ジョン・カザール)にも仕事の詳細を伝えていません。恋人(テリー・ガー)にさえも自分の職業や身の上話を語っておらず、他者に決して心を許さない壁を築いています。夜、自宅でお気に入りのジャズレコードをかけながらサックスを吹いている時だけが唯一のリラックスタイム。今回の仕事につい深入りしてしまったハリーは、盗聴の依頼主である専務と盗聴されたカップルが面会するホテルの隣室を借りて盗聴を試みて、事件の真相を知ることになります。

 

寂しげな都会の空気感がいかにも1970年代っぽくて、ストーリーよりも雰囲気を楽しむ映画じゃないでしょうか。盗聴する側のハリーが盗聴される側になって、先回りする敵に怯えて、次第に疑心暗鬼になっていく様子はスリリング。ジーン・ハックマンはすでにハゲたおっさんですが、けっこう女性にモテモテコッポラもハックマンも脂が乗り切った頃なので、画面に圧を感じます。依頼主の専務がロバート・デュバル、盗聴された男役にフレデリック・フォレストと、当時のコッポラ映画の常連を脇に配した、地味ながら見応えのある、おっさんだらけのサスペンス大会となっていました。ただ、事件の真相やショッキングな描写などはいま観ると派手さやインパクトはないかも。50年近く前の当時最先端だった盗聴機器のアナログ感は逆に味わいがありました。

 

低予算映画なのでヒットはしなかったものの、カンヌ国際映画祭で最高賞を受賞、アカデミー賞でも作品賞にノミネートされて、作品としての評価は高かったようです。この年のアカデミー賞作品賞に選ばれたのは「ゴッドファーザーPARTII」(1974)だったので、当時のコッポラの充実ぶりがうかがい知れます。IMDBトリビアによると、当初、主演に想定していたマーロン・ブランドに断られて、ジーン・ハックマンが主演となりました。また、この映画自体はアントニオーニ監督の「欲望」(1967)にインスパイアされていて、その2本にインスパイアされたのがデ・パルマ監督の「ミッドナイトクロス」(1981)という、イタリア系監督のインスパイアのリレーが行われたようです。