「キューポラのある街」(1962)

 

Amazonプライムで、吉永小百合主演の青春映画を観ました。

 

 

昭和30年代を生きる市井の人たちをモノクロ映像で綴ったオーソドックスな青春映画。予告編はコチラ

 

高度経済成長期の埼玉県川口市が舞台。鋳物工業が盛んなこの街に暮らす姉のジュン(吉永小百合)と弟のタカユキ(市川好郎)がこの映画の主人公。昔気質の鋳物職人の父(東野英治郎)はリストラされてるわ、やさぐれていつも酔っぱらっているわ、わずかなお金も川口のオートレースでスッてしまうわ、どうしようもないダメ親父。ジュンは母(杉山とく子)にまた赤ん坊も生まれたばかりで家計も苦しい中、パチンコ屋でバイトして高校進学の学費を稼ごうとします。担任の先生(加藤武)も親身になってジュンをサポートしています。一方、弟のタカユキは友達とつるんで牛乳泥棒をしたりしていつも悪さばかりしているクソガキです。そんな貧しいながらも彼女たちなりに日々奮闘して成長していく姿を当時のリアルな風俗描写と共に丁寧に描いた教科書のようなお話でした。キューポラとは、鋳物工場の特徴的な煙突のこと。

 

興味深いのは、ジュンとタカユキは朝鮮人一家の姉弟と友達で、彼ら家族が当時推進されていた北朝鮮帰還事業で北朝鮮(劇中ではホクセンと呼ばれていた)に移住する描写があること。上野から新潟経由で船に乗って北朝鮮に渡ったそうです。実際に日本人を含めて10万人弱が移住。事業後期に使われていたのは、あの万景峰号だったりします。この映画では、移住する彼らを祝福しながら見送って、肯定的に描いています。

 

まだ高校生だった吉永小百合がとても輝いています。特に鼻筋の通った横顔が凛々しく、ソフトボールで快打を放ったり、近所のチンピラに啖呵を切ったり、逆に襲われたり、修学旅行に行けなくてショボンとしたり、どうしようもない状況に追い込まれて泣き叫んだり、いろんな表情を見せてくれます。悪ガキの弟が盗んだ小舟で川を渡ろうとしているところを橋から仁王立ちで見下ろして待ち構える姿は、スクールバスをジャックしたスコルピオを陸橋の上で待ち構えるダーティハリーの姿を先取りしていました。

 

他にも弟役の市川好郎は名子役だったそうで、憎たらしくて愛嬌のある少年を好演。個人的には「西部警察」や「太陽にほえろ」などで悪役を演じたイメージしかありませんでした。(いろんなドラマで近所のおばちゃん役で見かけたことのある)母親役の杉山とく子も36才ですでに老け役をやってました。監督の浦山桐郎はこれがデビュー作。師匠今村昌平の脚本、撮影姫田真佐久、音楽黛敏郎の布陣で手堅い演出をしています。さまざまな場面のバックで走っている列車が印象的。また、画面左下にキャスト・スタッフを表示するクレジットタイトルは、この前観た「赤い殺意」(1964)と同じデザインでした。