BT杯に参加した。チームは「屈伸ジェネレーション」。栗田さん、カシンさん、悶吉、しわ。

僕は恐らく、このゲームに関心がないと思う。大会前に久しぶりにやってみたが、全く勝てない。勝てないというよりも、勝つ気がないのが自分で分かった。百円を入れて他人と競うということに特に意味が見出せない。ゲームセンターで勝てないことというよりも、練習といえどもこのゲームをプレイしなければいけないことに憤りを感じていた。

大会当日。
カシンさんがこの日を楽しみにしていることは知っている。そして、ゲームで勝つことが出来ない自分のことも分かっている。かなりの葛藤があった。この日のために二日ほど練習をしていて、人はこんなにも意味を見出せなくなったものに対して機能しなくなるものなのかと思った。このゲームに夢中になっていたときは、対戦相手を憎み、彼がこのままこのゲームをやる気がなくなるようなプレイをすることに快楽を見出していた。恐らく、対戦相手は自分自身であった。今は特にそういった気持ちがない。たまに渋谷のファンファンなどでノーカードで一回くらいプレイしてやめる。そのときに、その日にあった仕事のことを思い出している。単純作業をしていると、頭の中が整理される。そのためでしかない。強い相手に勝つためにはそれでは足りない。感情をゲームの中にぶつけなければいけない。それが自分には出来なくなっていた。

試合が始まった。僕は一人目で出た。隣に楽しみにしている人がいる。カシンさんの熱が伝わってくる。この人のために意識を集中しようと思った。負けたが、集中出来ることは分かった。相手に対する憎しみであったり、邪念がない分、プレイがスムーズに出来る。その代わり、選択肢は単純にしか出来ない。なんとなくこのゲームで勝つ方法がそのときに分かった気がした。毎回ジャンケンのようなことをする。その接触部分に意識を集中する。別に自分の納得のいくようなプレイをする必要などない。チームとして成績を残せばいいだけだ。以前の自分のプレイは、自分の考えたコンセプト通りにやることを考えていた。だから勝てなかったのだなとふと思った。自己中心的な邪念はその瞬間の判断を鈍らせてしまう。

そのままカシンさんの活躍により、チームは勝ち進んでいった。

一生懸命にゲームをしていたときには見えないものがあるのだなと感じた一日だった。最後に負けたときには悔しさはなかった。まぁそうだよなという感じ。相手のチームはきちんとこのゲームをやり込んだ人たちだった。こちらはといえば、そんなに誰もやり込んでいない。圧倒的な差を感じた。

「屈伸ジェネレーション」はチームワークによって成り立っているチームだ。それぞれがその場で力を発揮出来るときはいつなのか、それを互いに考え合っている。だから、“負けたらどうしよう…”という最もプレイを鈍らせる考えがそれぞれに浮かばない。大会でこのチームが強いのはそのためだろう。特に栗田さん、カシンさん、僕の三人だけでチームを組んでいたときにはそのことに気を配り続けていた。栗田さんの神憑った集中力、カシンさんのよく分からないリズムと世界観、僕の相手を上から見て相手の技術を出させないやり方。三人の特殊性をそれぞれが把握していた。悶吉としわについても、チームを組み始めたときにはいかに彼らを理解するかということに力を注ぎ続けた。

僕はこのチーム以外では力を発揮出来たことがあまりない。僕はカシンさんに、このゲームの中で他人を信頼して、他人に自分を信頼してもらうことを学ばせてもらったように思う。大会でよくカシンさんは泣いていたが、僕もカシンさんのプレイを見て数回泣いたことはある。大抵の人は彼のプレイは意味が分からないと思う。僕は彼が何をするかはなんとなくいつも分かっている。彼の心の動きがそのプレイに表れている。人見知りの臆病さに反して、自分自身の中にあるリズムに対する確信とがあのおかしなプレイを作り上げている。だから彼にアドバイスをするときは、彼がそのリズムに自信を持てるようにするように心がけている。それは単純に投げを前半にきちんと使うということであったり、ゲームの流れの中にまずは今の自分を位置づけてもらうことであったりする。

僕の中ではこのゲームは、そうした意識の流れが衝突していくものだった。しかし、その意識の流れを意識出来ている人は少ないように思った。プレイをする前はなるべく対戦相手の顔を見ておくように心がけていた。チームメイトがプレイをするときも、出来るだけ対戦相手の顔を見ておく。そうするとプレイがどのような形で行われるかが分かる。

この大会でゲームが綺麗に終わった。その次の日、少しやってみたが、やはり全く勝てない状態に戻っていた。四回プレイしたが誰にも勝てなかった。超能力が使えた少年が使えなくなったときの気持ちはこういうものなのだろうか。どこにも勝てるための何かを引き出すものが自分の中にはなかった。

2013 BT杯の感想記