《彼の名はレオ》
その後しばらくは金縛りに悩まされた。これは本当の金縛りなどではなく、本物の金縛りの恐怖が脳に記憶されてしまったことによる幻覚のようなものらしい。だが、その”偽金縛り”には夢の中の出来事だから例の”夢の世界の技”が効果的だった。”偽金縛り”に会う→”夢の世界の技”を使う→夢から覚める。それを繰り返していくうちに脳に刻まれた金縛りへの恐怖心は徐々に薄れていったのだと思う。それから”偽金縛り”に遭う間隔が1日置き、3日置き、1週間置き、というように長くなっていき、”偽金縛り”に遭うことは今では全く無くなった。
彼の夢はその後も全く見ていない。多分、彼に助けられたその直後から私は彼の姿を見ることが出来なくなったのだと思う。この先もずっと。それが例え夢の世界であっても私にはそれが出来なくなったのだと思う。未来永劫。
彼にはもう二度と会えない…
彼はもう”約束の場所”には居ない…
彼は更に次の地へと旅立ってしまった…
彼にそれだけのチカラを使わせてしまった…
彼は自分がそうなることは分かっていたと思う…
私は…
彼が引き取られて来た時に体調不良なのを見抜けなかった…
彼が父に強く叩かれて悲しんでいた時に抱きしめて慰められなかった…
彼の尻尾が切れるくらいの強さで車のドアに挟んでしまった…
それが原因で彼の尻尾の付け根に大きなコブを作ってしまった…
あの日の”誓い”を守らなかった…
自分の”普通の日々”から彼への想いを消してしまった…
彼の顔を見なくなった…
彼を記憶することを避けてしまった…
彼の体調を知ろうとしなかった…
彼に僅かに残された時間を大切に過ごす努力をしなかった…
彼の事故を防げなかった…
彼を12月の冷たいコンクリートの上で旅立たせてしまった…
彼に最後にひと目会うことから逃げてしまった…
私はいつもいつも彼に謝らずに逃げてばかりいた…
それにも関わらず…
私のピンチに駆けつけてくれた…
酷いことばかりした私を助けてくれた…
全身全霊をもって私を守ってくれた…
鉄を焼き切る炎のように猛々しく
晩春に吹く風のように温かく
どこまでも続く澄んだ空のように凛々しく
命の全てを知る深い海のように賢く
何にも動じずに大きく広がる大地のように優しく
私にとってはそんな形容が相応しいと思うワンコ。
昔々に私の弟であり友達でもあったワンコ。
彼の名はレオ。
たった1回だけだけど
窮地にいる私を救ってくれた
これはそんなスーパーヒーローのお話
私だけのスーパーヒーローのお話
おわり…
※レオ
ありがとう…ずっとずっと大好きだよ…