渥美清が亡くなった後の作品なので、それまでの48作と同じようには語れない。
あくまでも「男はつらいよ」ファンにとっての素敵なプレゼントとして観た。
過去の名シーンが過不足なく出てくるので、初めて寅さんに接する人にとっても興味を持ってもらえると思う。
茶の間のシーンの見事なアンサンブルがいかに丁寧に作っているかわかるだろう。
私にとって今作の見所は後藤久美子に他ならない。
世間で言われている演技の拙さなどはどうでもよくて、高校生のゴクミと現在のゴクミが20年隔てたところで美しさに変わりがないのが奇跡的。
設定も実人生と重なっているのを観客みんなが知ってるわけで、そう思うとこの映画は観客の好意に支えられている特別なものではないだろうか。
ゴクミの父親役の橋爪功は上手いが他の作品を思い出させるし、なぜ寺尾聡でなかったのかという疑問がつきまとう。
出演を断られた結果の台本変更だとすれば仕方ないが、別れた父娘の話としては違うストーリーが観たかった。
夏木マリが寺尾聡を深く愛していたのに去られたという前の物語と辻褄が合わないからだ。
とはいえ母娘の機微はよく描かれていたと思う。
さくらと博の今を見ると失礼ながら月日のむごさも感じるが、亡くなった人達がいない今、長生きしてほしいと願う。ただしもう次作はいらない。