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立川談四楼の小説にして、立川流誕生のドキュメントが、php文芸文庫で出た。
凄く読みたかったのでありがたい。
単行本はなかなか手に入らなかったのだ。
談志が亡くなった時も談四楼の本については書いたけれど、主に近年の出来事についてだったので、彼が入門当時の落語界のことについてはこの本なくして語れない。
寄席に出ていたころの飛ぶ鳥落とす勢いの談志が生き生きと描かれている。
もちろん志の輔が入門する以前のお話である。
大師匠小さん宅に綺羅星のごとき人気落語家たちが挨拶に行く正月の華やかさ。
名人桂文楽を目の当たりにし、声をかけられた時の嬉しさなど、良き時代に前座として寄席修行をみっちりやれた羨ましい世代だ。
僕が羨む筋合いはないけれど。
談志にも口跡を褒められ、地道に本格派の古典落語で順調に歩んで行くが、後輩に春風亭小朝が出現したことでおかしな具合になっていく。
放任主義らしいとの理由で春風亭柳朝に入門した高校生の小朝は全てが破格だった。
アイドル風の見た目、現代的落語のセンス、計算しつくした先輩への身の処し方。
そしてNHKの女性プロデューサーに気に入られ、演芸番組に抜擢されたことであっという間に全国的スターになる。
このあたりのことは僕もよく覚えている。
その後もファンを増やし、談四楼他36人を抜いて真打になるのである。
その時の談四楼の悔しさはいかばかりか、当人でなければ書くことはできないだろう。
しかしこの本を生み出した理由はそれだけではない。
落語協会が当時行なっていた真打昇進試験に談四楼が落ちたことである。
ありえない結果であり、協会幹部のいい加減な判断であったことは今となっては明らかだ。
会長小さんは噺家としても人柄も一流だったが、落語界を活性化するような政治的判断はできない人だった。
つまり身近な人間の意見に左右されるのである。
弟子の試験に立ち会ってなかった談志はその結果に激怒し、落語協会を脱会する。
家元制度を敷き、本来の弟子の他に特別コースとしても著名人が数多く入門。
ビートたけし、高田文夫、上岡龍太郎、景山民夫、山本晋也、山口洋子など。
もちろんマスコミは大騒ぎとなり、下手な年寄りが落語家でございとのさばる旧態依然たる落語界に一石を投じることになる。
それだけ談志の影響力はあったのに活かせなかった。
その後の小さんと談志が和解することはなかったが、他人にはうかがいしれぬ師弟の感情が二人にあったことは想像できる。
談春の「赤めだか」ではその確執を取り除こうとする談春の試みが描かれている。
ドラマ化では触れてなかったが、最も感動した部分だ。
それはともかく、談四楼は立川流初の真打となり、それはそれはど派手なパーティーをぶちかます。
なんと生前葬という形で増上寺で執り行うのだ。
それまで応援してくれた大勢の贔屓筋や、田舎からバスを仕立ててやってくるファン、落語協会の禁止令を無視して参加してくれた仲間たちや面白がって取り上げたマスコミのおかけで大いに盛り上がったのである。
ちなみに月の家円鏡は参加したことで落語協会からペナルティを食らっている。
談四楼の視点にはつねに、深い古典落語への愛とともに、自分だけが思うようにいかないという苛立ちがある。
小朝との自虐的比較にも見て取れるし、試験で自分たちを落とした幹部連中への恨みも根強い。
しかし落語協会にいないからこそ、好きに発言できるのだし、もうその事実は客観性を持って世間に受け入れられたと言えよう。
作家として成功したのだから元は十分取れているのだ。
真田家六の輔という同期とのエピソードは胸を打つ。
やはり試験に落ちながら、協会に残りストレスで酒に溺れる六の輔。
談四楼をどこかで羨みもするが、身体を壊し自滅していく男。
談四楼にだけは知らせるなという言葉に反し、談四楼だけに倒れたことを告げる彼の妻。
病院でのライバル二人の会話は、まるで青春ドラマのワンシーンのようだ。
モデルがいるのだろうか。