これとこれにしよう、といかにも女の子が好きそうな、細々とした文房具を選び、
レジの列に加わったとき。
バン、という音とともに、斜め横で男性が倒れた。
うつぶせになったまま、体が硬直し、ひきつけを起こしていた。
私には、23年前の鮮明な記憶が蘇った。
てんかんの発作だ。
その男性はかなり大柄で、固まった体で、レジに並んでいた女性にもぶつかって倒れたので、
Oh, my God! と、その女性も振り返った。
そして、その女性は、うつ伏せの彼を静かに上向きにし、
私は看護師です、と手際よく、彼女が買おうとしていた大きなクッションを頭の下に置き、
彼のひきつけが収まるのを見守った。
レジの女の子が救急車を呼び、
名前、年齢、症状などをそばにいた連れの女性に聞いて、電話口のオペレーターに伝えた。
彼は、レジカウンターの角に頭をぶつけたか、床で打ったかもしれない。
2人後ろに並んでいた旦那は、
リカバリーポジションにした方が良いです、
僕はてんかん患者です。といい、
お店の人に、
すみません、この音楽を小さくしてください、といった。
看護師にぶつかって倒れた彼は、幸運だった、と言える。
男性は20代、かなり大きい体格で、舌を噛んで口から出血しており、硬直は続いていた。
彼女は、床にへたり込み、ガタガタ震えながら泣いていた。
こんなことは初めてだ、といっていた。
私はその彼女の背中を、さすらずにいられなかった。
涙なしにはみていられなかった。
発作は1分しないうちに収まり、呼吸も普通に戻った。
彼の目はずっと大きく開いたままだったが、硬直が収まって、
看護師の女性が、聞こえますか?
私はXXです。あなたの名前は?ここがどこかわかる?
などと聞いていた。さすがだ。
旦那は、このてんかん発作の一部始終を、多分初めて見たと思う。
自分がなっているときは、当然みたことないし、
そういうビデオを見るのも、ものすごく嫌っていたからである。
こんなところで、こんなことにこの距離で遭遇するなんて。
そして、彼が介抱する方に回るなんて。
救急隊が駆けつけ、彼は病院に運ばれていった。
私は、なにより、旦那がこれをみてものすごいショックを受け、
意識しすぎてまた症状が出るのではないか、と思い、
帰りは私が運転するわ、と、すぐに帰ることにした。
旦那は、車の中で、
あの彼の人生は、これから大きく変わる。
彼女のも。
とだけ言った。
私も、そうだね。とだけ言った。
車の運転はできない、アルコールやカフェイン、職業もスポーツも限られる、
発作の理由は検査しないとわからないが、
薬でコントロールできるものでも、体に合う薬が見つかるまで、何年もかかる。
自分のパートナーが、この年齢でそういう状態になった時、
自分はどうするか。
生活能力がない、と、まわりの人に別れを勧められ、
病気の人を置いていくのか、という葛藤に苦しむ。
あの日々のことが頭によぎり、
若い彼女のことを思うと、私も涙が止まらない。