ディスカバリーとベンダー②~ディスカバリーの恐ろしさー武田薬品工業のMDLを例に(1) | 日々、リーガルプラクティス。

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ディスカバリーとディスカバリーベンダーについて考えるシリーズエントリーですが、前回は参考にしている書籍・論稿をご紹介いたしました。

今回のエントリーでは、ディスカバリーベンダーを考える前提として、まずディスカバリーの恐ろしさについて、改めて考えさせられる事例があるため、それを考えてみようと。その事例というのは、先日から話題となっている武田薬品工業のMDL(Multi-district Litigation/広域係属訴訟)です。


新聞でもたくさん取り上げられているので、陪審員の評決(Jury Verdict)が出て懲罰的損害賠償(Punitive Damages)を払え、という判断がなされた、というところまではご存知の方が多いと思います。武田薬品工業のホームページ上のニュースリリースでも、状況が非常に分かりやすく端的に書かれていますが、例えば4月9日の日本経済新聞の朝刊では、このような陪審員の評決が出た理由が以下のように述べられています。


裁判では原告側が、糖尿病治療薬の有効性や影響に関する重要なやり取りをしていた電子メールなどの一部を「武田側がわざと破棄した」と主張。裁判所に制裁を求めていたのに対し、武田側は反論していた。地裁の判事は武田側がメールを適切に保全していなかったと認定しており、こうした事実が陪審員による評決の判断に影響した可能性が高い。(日本経済新聞 4月9日朝刊3面)



さすがにこの陪審員の評決による損害賠償額は下がる見込みが高い、と言われていますが、いずれにしてもこれを見ると、どうやらディスカバリーに関連する事項が理由のようです。しかし詳細はどういう内容なのでしょうか。

恐らくPacerを利用して当該verdictを見ることができるのかもしれませんが、自分は最近までWestlawnextのアカウントが有効だったためまだ登録しておりません。よって陪審員評決の詳細は分かりませんが、上述の日経の記事に書かれているような状況は、2014年1月30日に下された裁判所の決定(Court Order)を読むと、伺い知ることができます。


ディスカバリーの恐ろしさ



陪審員裁判が始まる前、原告は裁判所に対し、Spoliation and Rule 37 Motion for Sanctions (証拠隠滅及び連邦民事訴訟規則(FRCP)第37条に基づく制裁の申立て)を行なっています。

何となく、ディスカバリーに違反すると制裁を受ける、というイメージはありますが、ディスカバリーに関して制裁が下される違反行為にはいくつか類型があります。例えば、

・デポジションにおいては真実を証言をする義務が証人(Deponent)側にありますが、証人が真実を話す旨の宣誓を拒否したり、証言を拒否した場合。

・ディスカバリー計画会議(FRCP§26(f))を開催するにあたり相手方と直接会って協議する義務(meet and confer)を怠った場合。

・ディスカバリーにおいてESI(電子データ)の検索と提出の段階でITスペシャリストまたはITベンダーを利用しないこと自体がFRCP§37における制裁の対象となる行為(例えばFailure to produce relevant ESI/関連する電子データの未提出)につながっている場合。

・ESI(電子データ)について、適切な検索を実施しなかった場合。

・適切ではないフォーマットによって電子データを相手方に提出した場合。

こういった類型があります(これだけ見ても、ディスカバリーベンダーの重要性が若干垣間見えます)が、より典型的なものが、Spoliation、つまり証拠滅失・証拠隠滅に対する制裁です。この代表的な事例が、Qualcomが850万ドル以上の制裁金を課された事案です*1

ディスカバリーに際して証拠をわざと、または過失で滅失させた、という理由で制裁を課すか否かを(連邦裁判所において)判断する法源は2つあります。1つは、裁判所自体の"inherent authority"であり、もう1つは、Federal Rules of Civil Procedure (FRCP) §37(連邦民事訴訟規則第37条)です。この違いは、FRCP§37による制裁は、訴訟が開始された後の証拠滅失に関して定めるものである一方、裁判所のInherent authorityによる制裁は、裁判開始前の証拠滅失に関して下される、というものです*2

このどちらを根拠にしても、どの程度の制裁が下されるかは、その証拠滅失についてどれだけの"Culpability"(悪質性)があったか、ということによって判断されます。例えば最も悪質性が低いものとして、FRCP§37(e)では、"routine, good-faith operation of an electronic information system"による証拠滅失については、制裁を下さない、と定めています。その一方、最も悪質性が高い場合には、(主に被告に対しては)Default Judgment(欠席判決)または(主に原告に対しては)Dismissal(請求棄却)、更にはCivil Contempt(法廷侮辱罪による罰金または拘留)が課される場合があります*3


*1 See Qualcomm Inc. v. Broadcom Corp., "Qualcomm II", 2008 U.S. Dist. LEXIS 911 (S.D. Cal. Jan. 7, 2008), vacated in part, 2008 U.S. Dist. LEXIS 16897 (S.D. Cal. Mar. 5, 2008)

*2 See SEDONA CONFERENCE PRINCIPLES OF PROPORTIONALITY 296, and also see Rimkus Consulting Group, Inc. v. Cammarata, 688 F. Supp.2d 598, 612 (S.D.Tex. Feb. 19, 2010)

*3 FRCP§37(b)(2)(A)


武田薬品工業のMDLの場合は何か制裁が下されたのか?



Jury Verdictの内容を見ていないので正確なことはわかりませんが、前述の通り原告がSpoliation and Rule 37 motion for sanctionを申立て、その申立てに対して武田薬品工業が反論をした結果、2014年1月30日にルイジアナ州西部地区連邦地方裁判所は、武田薬品(及び関連企業)がいくつかの証拠を過失により滅失したことを認定したものの、当該制裁の内容については、最終的に全ての証拠が出揃ってから、つまり陪審員裁判における審理が終わり、陪審員による協議(Deliberation)を経て陪審員が評決を下す前に改めて決断する、それまでは判断しない、という決定をしました*4

よって、陪審員裁判による審理終了後に、裁判所がどのような制裁を下す/下さないかを決定したのは間違いないかと思います。なお、前述の裁判所の決定においては、Default Judgmentに該当するようなCulpabilityはない、と明言されています。Default JudgmentやDismissal、はたまはCivil Contemptが課されるのは相当稀なようです。

そうすると、最もあるパターンであり、今回の陪審員裁判の評決前に下された制裁として可能性が高いのが、Adverse Inference Jury Instruction(違反者に不利な推定をするように、との陪審員に対する説示)です。更にディスカバリー費用及び弁護士費用の負担を命じられている可能性もあります。


*4 Case 6:11-md-02299-RFD-PJH Document 3934



Adverse Inference Jury Instructionの恐ろしさ



この何が恐ろしいかって、両当事者が立証または反論する事項に対して、裁判官が陪審員の評決前に、「当該滅失された証拠については、当該証拠を滅失した当事者にとって不利なものであり、当該証拠に対する原告の合理的な解釈の通りの証拠であると推論していい」と陪審員に説示する、というものです*5

これは、争点の多さにもよりますが、ほとんどDefault Judgmentに近いものがありますね。。。例えば今回の武田薬品工業の裁判の場合、カリフォルニア州で争われた際は、原告側がActosの使用と癌の発生の因果関係を証明していない、として原告の主張が斥けられました*6

仮に、この因果関係の部分について、「当該滅失された証拠については、被告に不利、原告に有利に推論していい」と説示されたら、果たしてどうなるのか。。。

これがAdverse Inference Jury Instructionの恐ろしいところです。


本当にこの制裁が下されたかは定かではありませんが、日経の記事に「地裁の判事は武田側がメールを適切に保全していなかったと認定しており、こうした事実が陪審員による評決の判断に影響した可能性が高い」とあるので、こういった制裁が下された可能性は高いかと思います。

では具体的にどういった事実が、「過失または重過失をもって証拠が滅失された」と認定されうるのでしょうか。

次回、もう少し詳細にこの事例の具体的な点について考えてみたいと思います。


*5 FRCP§37(b)(2)(A)(i)

*6 Cooper v. Takeda Pharmaceuticals America Inc., CGC-12-518535, California Superior Court, Los Angeles