[法学関連英語特集・第5回] "Residuals" with NDA~後編 | 日々、リーガルプラクティス。

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本タイトルの前編、中編に続き、後編のエントリーです。

前回の中編では、Residuals Clauseに関して、米国の営業秘密保護法制であるUniform Trade Secret Act(UTSA)の観点からどのようなリスクがあるのか、検討してみました(なお、前回の中編については、内容を加筆しております。詳しくは前回のエントリーをご覧ください。)

そして今回は判例からこのリスクをざっくりと検討してみます。(ざっくりとです、キャパオーバーなので、、、)


それでその前に、根本的な話になりますが、なぜResiduals Clauseというものがあるのでしょうか。

それは恐らくですが、ソフトウェア等の開発契約において、ベンダーが開発プロジェクト中に得たスキルや、磨きがかかった一般的知識をもって、当該顧客の競合他社からの別のプロジェクトを請け負う際、その前のプロジェクトで磨きをかけたスキルや一般的知識を、当該競合他社向けのプロジェクトで使えなくなると困るために、そこを明確化するためにできた条項だと思われます。これは至極当然の話で合理的であり、また実はResidual Clauseがなくても、そういった"Generalized Knowledge"の利用はTrade Secretの不正利用やそのほか秘密保持契約条項違反には当たらない、という判例があることも調べて分かりました(例えば、Compuware Corp. v. Int'l Bus. Machines Corp., 02-CV-70906, 2003 WL 23212863 (E.D. Mich. Dec. 19, 2003))。

しかし、自分がResiduals Clauseについて問題視している理由は、そういった開発がなされるような取引関係ではなくともResiduals Clauseが使われていて、更に適切なResiduals Clauseになっていない、ということです。適切なResiduals Clauseに関する役割の記述と判例については、コチラの論稿が参考となりますが、そこで取り上げられている適切なResiduals Clause(Generalized Knowledge Clause)は例えば以下のような感じ。

Nothing in this Agreement precludes either Party from using and disclosing General Knowledge. "General Knowledge" means generalized know-how, ideas, concepts, processes, information or techniques related to information technology that are retained solely in intangible form in the unaided memories of a Party's representatives who have had access to the Confidential Information of the Disclosing Party under this Agreement. The use of General Knowledge shall not be deemed to impair: (a) a Party's rights in and to its valid patents, copyrights, trademarks or trade secrets, or (b) a third party's rights in and to its valid patents, copyrights, trademarks, or trade secrets that are contained in any third-party materials provided by the Disclosing Party under this Agreement.



やはりだいぶ違います。営業秘密もちゃんと除外されているし。



NDAの定め方次第



営業秘密の保護に関する判例をいくつかざっくりと見ていると、やっぱりNDAの定め方如何で、営業秘密が保護されるか否かについて結果が変わってくる、という気がしております。

前述のCompuware Corp. v. Int'l Bus. Machines Corp.事案では、CompuwareがIBMのために開発した製品をIBMにライセンスしていたところ、Compuwareの元従業員数名がIBMに移り、IBMが当該製品と競合する製品をつくったことから、それに対してCompuwareが訴えを起こしますが、実はCompuwareとIBMとて締結したライセンス契約の覚書に、私が表題の投稿の前編で挙げたResiduals Clauseの例のような条項が含まれていました。しかし結局は、その条項について検討する以前の段階で、元従業員が得たGeneralな知識を他社向けに使うことは禁止できず、また不正利用されたとCompuwareが主張する情報もきちんと特定されていない、といった理由から、差止めの申立が棄却されています。

逆に、きちんと利用していはいけない営業秘密をNDA・秘密保持契約書にて明確化しておけば、従業員が退職後に当該情報を利用することを防げる、としている判例としては、Fin. Technologies Int'l, Inc. v. Smith, 247 F. Supp. 2d 397 (S.D.N.Y. 2002)やMerrill Lynch, Pierce, Fenner & Smith Inc. v. Ran, 67 F. Supp. 2d 764 (E.D. Mich. 1999)などがあります(前者は、もっときちんとNDAの文言を明確にしておけば、保護されたのに、という判決要旨)。


それで、上記はResidual Clauseに関する判例とは違いますが、Residual Clauseに近い条項によって営業秘密の保護が失われた判例と言えるのが、前回のエントリーでも触れました、BDT Products, Inc. v. Lexmark Int'l, Inc., 274 F. Supp. 2d 880 (E.D. Ky. 2003)です。



Residuals Clauseの定め方とUTSAの関係



本事案では、BDTがLexmarkに対して、営業秘密を不正利用して類似の製品をLexmarkがつくった、と主張して提訴するのですが、Factual Backgroundとして、BDTとLexmarkとで何度かNDAを交わしたものの、そのほとんどがLexmarkの秘密情報だけが保護の対象となっていることから、BDTの情報がそれらのNDAなくして、かつConfidentialである旨の明示もなく開示されていることから、Lexmarkによる営業秘密の不正利用は認められない、と言っているのが判決理由の前半となっています。

しかし、BDTとLexmarkとで締結された複数のNDAの中で、BDTの秘密情報の保護に関する定めを置いたBilateralな内容のNDAもあり、それが後半で検討されていますが、そのNDAには、Residuals Clauseに近い内容の以下のような条項がありました。


Except with respect to rights under valid patents and copyrights, Recipient shall be free to use any such Confidential Information provided by Discloser subject only to the obligation not to disclose, publish or disseminate such Confidential Information during the foregoing specified period of confidentiality.


Except with respect to rights under valid patents, the receiving party shall be free to use any such Confidential Information provided by the disclosing party, any reports and written documentation prepared by the receiving party, and any ideas, concepts and/or techniques contained in any such Confidential Information for any purpose including the use of such Information in the development, manufacture, marketing and maintenance of its products and services, subject only to the obligation not to disclose, publish or disseminate such Confidential Information during such foregoing specified period of confidentiality.



これはResiduals Clauseの酷いバージョンですね。

それで裁判所は、UTSA(本事案ではカンザス州が採用して法制化されたカンザス州版のTrade Secret Act)の定めに照らし合わせ、上記条項によって本情報は営業秘密の要件を満たさなくなり、更に仮に営業秘密の要件を満たしたとしても、上記条項によって、Lexmarkの当該情報の利用は不正利用に該当しなくなる、と評価しています。裁判所は以下のように述べています。


the Court finds that (1) because Plaintiffs did not take reasonable efforts under the circumstances to maintain the subject information's secrecy, the subject information does not qualify as a “trade secret” under KRS § 365.880(4)(b); and (2) even assuming, arguendo, that the subject information qualifies as a trade secret under the statute, that information was not misappropriated.



営業秘密の要件はUTSA Section 1(4)、後半の不正利用の点については、UTSA Section 1(2)が当該分析のベースとなっています(詳細は前回エントリーをご覧ください)。そして営業秘密の要件の観点からは、NDAの条項が例外を定めていることに触れてこう述べています。


Entering into an agreement, but placing few or no restrictions on the uses a third party can make of a trade secret, is another sure path to waiver. See, e.g., Contracts Materials Processing, Inc. v. Kataleuna GmbH Catalysts, 164 F.Supp.2d 520, 534 (D.Md.2001)



そして仮にBDTの情報が営業秘密であると認めたとしても、Lexmarkの当該情報の利用は不正利用には該当しない、として裁判所は以下のようにバッサリとBDTの主張を斥けています。


Even assuming that BDT can establish it had enforceable trade secrets, to recover on its trade secrets claim BDT must prove that Lexmark misappropriated those trade secrets. KRS § 365.880(2). Thus, BDT must be able to show that Lexmark used the alleged trade secrets “without express or implied consent,” despite knowing or having reason to know that it acquired knowledge of the alleged trade secrets “under circumstances giving rise to a duty to ... limit [their] use.” KRS § 365.880(2)(b). As set forth above, the parties' many agreements concerning confidential information expressly permitted Lexmark to use any information provided by BDT. These agreements and this permission is the equivalent of “express or implied consent.” In view of the relationship and understandings established by these agreements, Lexmark simply cannot be found to have knowingly used any BDT trade secret in contravention of a “duty to ... limit its use.” KRS § 365.880(2)(b).



上記の判例からも、Residuals Clauseその他のNDAの定めが営業秘密の保護に及ぼす影響を伺い知ることができました。

秘密情報の保護というのは、正直NDAを定めたとしてもどうにもならないことの方が多いことは多いのですが、自社のビジネスの拡張や新製品開発等においては、営業秘密を相手方に開示せざるを得ない場合もあります。そういった場合には、NDAの定め方が致命的になり得ることもあることが分かりましたが、Residuals Clauseについては特に注意が必要だと感じています。皆さんももしResiduals Clauseを目にすることがあれば、注意してレビュー・起案することをおススメします。