[法学関連英語特集・第5回] "Residuals" with NDA~中編 (追記あり) | 日々、リーガルプラクティス。

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表題の件、中編です(後編にするつもりでしたが、長いので、中編にしました)。

同じテーマの前回のエントリーでは、NDA(Non-Disclosure Agreement)におけるResidual Clauseの例と、その危険性について簡単に触れましたが、今回はその危険性の根拠を、米国のほとんどの州が採用しているUniform Trade Secret Act(UTSA)の条項から見ていきたいと思います。

念のため、改めてNDAにおけるResidual Clauseの例を挙げておきます。


▼Residual Clauseの一例
The Receiving Party shall be free to use for any purpose the Residuals resulting from access to or work with the Confidential Information of the Disclosing Party. "Residuals" means information retained in unaided memory by persons who have had access to the Confidential Information, including ideas, concepts, know-how or techniques contained therein. The Receiving Party shall not have any obligation to pay royalties for work resulting from the use of Residuals. However, this clause shall not be deemed to grant to the Receiving Party a license under the Disclosing Party’s copyrights or patents.



この条項の中身をざっくりというと、情報受領者である企業の中で合法的に秘密情報にアクセスした人の頭の中に残る情報は、第三者に開示さえしなければ、特許の実施及び著作物の利用に該当しない限り許される、という内容です。前回のエントリーで触れた米国IT/クラウドファンディング系ブログのCounselor @ Law (Blog)の管理人、Bill氏も、これは結局"営業秘密のライセンス条項だ"と評価しています。

しかし、この条項があったとしても、日本の不正競争防止法の営業秘密に関わる部分と同様に、アメリカにもデフォルトで適用される営業秘密法制があります。それがUniform Trade Secret Actです。(Uniform Trade Secret Actについては、簡単に過去のエントリーで触れましたので、そちらをご参照ください。)このUTSAによって、当該条項があるとしても、きちんと保護されないのか、という疑問があります。

そこで、このUTSAでResidual Clauseと関わる条項は大きく2つ3つあると思っています。

まずは、UTSA Section7(b)。


米国の統一営業秘密保護法は任意規定?


UTSAというのは、前にも申し上げたとおり、Uniform Law Commissionという団体が作成したモデル法で、各州によって、そのままその内容を採用しているところもあれば、若干修正を加えたうえで採用している州もあります。その中で、恐らくどの州でも(若干の文言は違えど)採用されていると思われるのが、UTSAのSection7(b)です。


▼Uniform Trade Secret Act / Section 7(b)

(b) This title does not affect (1) contractual remedies, whether or not based upon misappropriation of a trade secret, (2) other civil remedies that are not based upon misappropriation of a trade secret, or (3) criminal remedies, whether or not based upon misappropriation of a trade secret.



このSection 7(b)(1)が、contractual remediesがこのUTSAに影響されない、と定めています。これは多くの場合は、UTSAで定めるよりも広い範囲のremediesを契約で定めること(例:Injunctionの行使条件の緩和/賠償内容に弁護士費用を無条件で含める、等)の有効性の根拠として用いられますが、当然逆にRemediesの範囲を狭めることも許容されることになります。よって、実質的にこの条項は、UTSAが任意規定となり得ることを示している(気がします)。


[2014/2/2追記:上記の通り「気がしている」と書きましたが、実際にはUTSAが保護を予定している営業秘密の範囲は、当事者の契約によって狭められうることがUTSAの解釈自体から導き出される、ということとなる、といったほうが正しいのかもしれません。これについては再度後述します。]



「営業秘密」の定義・要件を、契約が制約する



あともう1つ、UTSAに関連する条項があるのですが、これがUTSAにおける営業秘密の定義を定めたUTSA Section 1(d4)です。


▼Uniform Trade Secret Act / Section 1(d4)

(d4) "Trade secret" means information, including a formula, pattern, compilation, program, device, method, technique, or process, that:
(1) Derives independent economic value, actual or potential, from not being generally known to the public or to other persons who can obtain economic value from its disclosure or use; and
(2) Is the subject of efforts that are reasonable under the circumstances to maintain its secrecy.



これはある情報が営業秘密と認められるための要件を定めた条項です。この条項から、営業秘密の要件として、
(1)有用性 
(2)非公知性 
(3)秘密管理性
この3つが求められる、と言われるわけですが、この(3)秘密管理性の観点から、Residual Clauseにリスクがあると捉えられるようです。このあたりは、もし日本の不正競争防止法とは若干違う気がします。(だって、厳格に秘密管理して、開示する際に秘密である旨明示して開示していても、Residual Clauseの存在によって、秘密管理性の要件が満たされなくなる、という判断にはならない気がしますが。。。) 


それで、特にこのSection 1(d4)のあたりについては、参考となる判例があります。BDT Products, Inc. v. Lexmark Int'l, Inc., 274 F. Supp. 2d 880 (E.D. Ky. 2003) aff'd, 124 F. App'x 329 (6th Cir. 2005) です。後編では、この判例で関連するところを検討していきたいと思います。



[以下、2014/2/2追記]


Residual Clauseが、営業秘密の利用を「不正」にさせなくする?


あともう1つ、重要なUTSAの条項がありました。UTSAはMisappropriation of Trade Secret(営業秘密の不正取得・利用)の定義及び構成要件、救済内容等を定めるものですが、「営業秘密の定義」とは別に、「不正利用」、つまりMisappropriationの定義条項を置いており、その条項とNDAにおける定めとの関係が問題となります。

UTSA Section 1(2)は以下のようにMisappropriationを定義しています。


▼Uniform Trade Secret Act / Section 1(2)

(2) "Misappropriation" means:
(i) acquisition of a trade secret of another by a person who knows or has reason to know that the trade secret was acquired by improper means; or
(ii) disclosure or use of a trade secret of another without express or implied consent by a person who
(A) used improper means to acquire knowledge of the trade secret; or
(B) at the time of disclosure or use, knew or had reason to know that his knowledge of the trade secret was (I) derived from or through a person who had utilized improper means to acquire it; (II) acquired under circumstances giving rise to a duty to maintain its secrecy or limit its use; or (III) derived from or through a person who owed a duty to the person seeking relief to maintain its secrecy or limit its use; or
(C) before a material change of his [or her] position, knew or had reason to know that it was a trade secret and that knowledge of it had been acquired by accident or mistake.



このように、不正利用であることを"knew or had reason to know"であったり、または営業秘密の取得の状況が"giving rise to a duty to maintain its secrecy"であったりすることが、不正利用の要件とされています。

このことから、Residual Clauseを定めてしまうことで、相手方が自社の営業秘密を利用していても、"reason to know" "circumstances giving rise to a duty to maintain its secrecy"といった要件を満たさないことで、仮に前述の営業秘密の定義をクリアしたとしても、今度は不正利用が認められない、という恐れが生じる、と理解しています。


なお、本エントリーで、「UTSAは任意規定かも」と述べましたが、これらの条項の関連性を考えてみると、UTSAを任意規定と表現するのは正しくなく、むしろ当事者のNDAや行動についてUTSAを適用させて解釈すると、本来UTSAが保護することを想定していた営業秘密まで保護されなくなることがある、ということかと思うに至っております。


ということで、後編にて判例に照らし合わせてResidual Clauseについて考えてみたいと思います。なお、これはResidual Clauseの検討のみならず、UTSAとNDAとの関連性の分析にもつながるのではないかなぁ、という気がしています。