あなた達はディガッド山脈の盆地にある都市国家ダイケホーンを目指して、商人たちと交渉を終えたばかりだ。彼らの手伝いや魔物退治を引き受ける代わりに、運賃は無料にしてくれるという。

ダイケホーンは一年を通して、土地のほとんどが雪に覆われる。この地域は奈落が多発し、冒険者にとって好都合の活動拠点となっている。


商人「出発は正午、教会の鐘が鳴る時だ。それまでに準備を済ませておけ」


○人数

3人


○作成レギュレーション

冒険者レベル6-7(→ルールブック「Ⅲ」72頁)


○書籍

ルールブック「Ⅰ」~「Ⅲ」

エピックトレジャリー


○PL向け記載事項

本作はTRPG「慈悲なきアイオニア」のサンプルシナリオ『リンの村の伝説』を参考に作成したものです。そのため、ソード・ワールドの世界観ではなく、原作との整合性を優先した部分があります。一般的なSW2.5のシナリオよりは、ややダークファンタジー寄りに感じるかもしれません。


※2025年11月に開催されたオフセッションTRPG卓シナリオです


以下、シナリオ本編です(ネタバレ注意!)

〇目次

1 プロローグ

2 火薬

3 閃光

4 少女

5-1 村長

5-2 決起

6-1 少年

6-2 長老

7-1 残骸

7-2 洞窟

7-3 奥へ

8-1 決戦

8-2 街へ

9-1 エピローグ1

9-2 エピローグ2

9-3 エピローグ3

9-4 エピローグ4

9-5 エピローグ5


○PL向け記載事項

本作はTRPG「慈悲なきアイオニア」のサンプルシナリオ『リンの村の伝説』を参考に作成したものです。そのため、ソード・ワールドの世界観ではなく、原作との整合性を優先した部分があります。一般的なSW2.5のシナリオよりは、ややダークファンタジー寄りに感じるかもしれません。


○判定一覧

●スカウト技能レベル+敏捷度B

先制判定


●スカウト、レンジャー技能レベル+敏捷度B

軽業判定


●スカウト、レンジャー、ライダー技能レベル+敏捷度B

受け身判定


●スカウト、レンジャー技能レベル+知力B

異常感知判定(レンジャー:自然環境)

聞き耳判定

危険感知判定

探索判定(レンジャー:自然環境)


●スカウト、レンジャー、セージ、ライダー技能レベル+知力B

地図作成判定(レンジャー:自然環境)


●セージ、アルケミスト技能レベル+知力B

文献判定


●セージ、バード、アルケミスト技能レベル+知力B

見識判定


●セージ、ライダー技能レベル+知力B

魔物知識判定(ライダー:弱点不可)


●任意の技能レベル+知力B

聞き込み判定(技能はGMが指定する)


1 プロローグ


昔話をせがむ、子どもたちの期待に満ちた眼差し。老婆はその視線を受けながら、棒で囲炉裏をかき混ぜている。


?「いいかい、小僧ども。お伽の話と思って聞くんじゃないよ。これはいつかお前の身に降りかかるかもしれない、この世の災いのお話なのだから」


炭の爆ぜる音がする。老婆は囲炉裏の火を優しく見つめながら、ゆっくりと語る。それは、遠い昔の出来事だ。


吐く息は白く、雪原に反射する朝日が眩しい。ディガッド山脈の麓の街で、あなた達は出発の準備をしていた。


聖職者の装束を身にまとったエルフの若い女性がやって来る。彼女の胸には、三日月を模った聖印がかかっている。


エルフの魔法使い、ウィンク


アリアドネ(エルフ/♀/24歳)は街の教会の聖職者だ。炊き出しを終えて外に出てきたらしい。教会は市民の寄付で運営されている。


アリアドネ「心と身体、すべてに慈愛とぬくもりを。汝に、主の加護があらんことを。お願いだよ、無事に戻ってきてね」


教会は、身寄りのない者に教育を施し、仕事を与えるための場所としても機能している。


あなた達はディガッド山脈の盆地にある都市国家ダイケホーンを目指して、商人たちと交渉を終えたばかりだ。彼らの手伝いや魔物退治を引き受ける代わりに、運賃は無料にしてくれるという。


ダイケホーンは一年を通して、土地のほとんどが雪に覆われる。この地域は奈落が多発し、冒険者にとって好都合の活動拠点となっている。


商人「出発は正午、教会の鐘が鳴る時だ。それまでに準備を済ませておけ」


○GM向け記載事項

この時間を利用して、冒険者は交流を深めることもできるでしょう。また、買い物もできます。

寒冷地に向かうため、防寒対策(〈サバイバルコート〉や〈サーマルマント〉の装備等)がなければ、屋外ですべての行動判定に-1のペナルティ修正を受けます。


2 火薬


陽は高く昇り、鐘の音が聞こえる。商人が出発を告げる。


商人「さあ、出発だ。魔物は頼んだぞ。それから、荷台は火気厳禁だ」


馬車は山道を進む。途中、狼の群れと遭遇したが、あなた達の敵ではなかった。

 

日が落ちて辺りが暗くなった頃、天気は吹雪へと変わった。荷台に被せられた幌は、寒さを遮るには不十分だった。御者が大声で叫んでいる。

 

御者「おおい、寒くはないか?毛布、勝手に使ってくれていいぞ!」

 

あなた達が乗っている荷台には、金属製の武器と盾、樽などが置いてある。手狭な空間で毛布を探すなら、探索(目標値8、非自然環境)する必要がある。

 

成功:火薬の入っている樽の中に毛布を見つけることができた。

 

○GM向け記載事項

種族特性[暗視]を持たないキャラクターは、対策しなければ-4のペナルティ修正を受けます。

 

3 閃光

 

ふと、馬車が止まる。御者台に目をやると、商人たちが前方の様子を伺うため飛び降りていったのが見える。外で話し合っているようだが、中からは聞き取れない。

 

○GM向け記載事項

PCがこのまま外に出ないなら、火炎のブレスによって錯乱した馬が荷台ごと落下します。その場合は軽業判定(目標値12)を行い、成功したPCだけが脱出して戦闘に参加できます。全員が軽業判定に失敗すると火災の原因は分かりません。

 

外に出て確認すると、隊商は崖際の一本道を通過しているが、谷を渡るための吊り橋が落ちて、先に進めなくなっていることが分かった。辺りは猛吹雪だが、なんとか商人の話を聞き取る(目標値12)ことができるかもしれない。

 

成功:「引き返さなければならない、とんだ足止めだ」と言っているのが聞こえる。

 

馬車に戻ろうと考えたその時、背後に閃光が走り、轟音が響く。振り返ると、火炎が鼻先を焦がしていく。気付けば、辺りは火の海と化していた。

 

馬車に繋がれている馬たちは錯乱し、嘶きあい、逃げ出そうともがいている。炎を避けようとして崖から足を踏み外し、谷底へと落ちていく。

 

やがて、元凶たる怪物が吹雪の中に姿を現す。誰しもがお伽話に聞く、溶岩の如く赤熱した瞳。一頭の竜が、こちらを見据えている。

 

火竜の口の奥で、真っ赤な炎が爆ぜる。そこから放たれた炎は商人たちを燃え上がらせ、黒い塊へと変えていく。

 

○GM向け記載事項

戦闘を開始します。火竜は商人を攻撃しているため、PCは先制判定でサイコロを振ることなく、成功したものとして処理します。火災のため辺りは明るく、暗闇対策は不要です。

火竜はドラゴネット(→「Ⅲ」409頁)のデータで代用しています。

この戦闘は、先攻1R終了時にイベント(雪崩)が発生して終了します。

 

〇ドラゴネット(→「Ⅲ」409頁)

知名度15、弱点値20

※コア部位に〈剣のかけら〉を10個追加する

 

○戦闘配置(基本戦闘)

前線エリア:ドラゴネット

 

では、戦闘準備をどうぞ。

魔物知識判定(目標値15/20)をどうぞ。

 

火竜はあなた達の方を向き、狙いを定めて攻撃を仕掛けてくる。次の瞬間、火竜の背後から地響きが起こる。大量の雪が押し寄せ、避ける術もなく、そのまま崖下へ流された。

 

○PL向け記載事項

PCは「30」点の落下ダメージを受けます。受け身判定が可能です。HPが0以下となって、生死判定に失敗しても、死亡しません。

 

○GM向け記載事項

火竜が受けたダメージは継続します。ただし、HPは最大HPの2割(端数切り上げ)回復し、MPは全快しています。

 

4 少女

 

雪を踏みしめる音が聞こえる。朦朧とする意識の中で、視界が揺れ、誰かに運ばれているような気がする。だが、あなたの意識は再び深淵へと落ちていく。

 

再びあなたが目を醒ました時、視界に映ったのは木製の知らない天井だった。見渡すと、部屋には樫で作られたベッドが3台あり、あなた達はそこに寝かされていた。

 

部屋の入口は扉代わりの垂れ幕で仕切られていて、隙間から明かりが漏れている。

 

垂れ幕の向こうには、囲炉裏と天井から吊された鍋と、幼い少女の背中が見える。何かを煮炊きしているようだ。あなた達に気付くと「うわ」と言って、尻餅をつく。

 

アンナ「おはよう!起きたのね!」

アンナ「怪我、大丈夫?昨日、兄ちゃんが手当てしてくれたみたいなんだけど」

 

自身の身体をよく見れば、包帯が巻かれていることに気が付く。また、落下時に両手に保持していた武器や盾などがなくなっている。

 

○PL向け記載事項

HPは最大HPの2割(端数切り上げ)回復、MPは全快しています。

 

○GM向け記載事項

家の中を探索(目標値8、非自然環境)すると、棒に短刀を括り付けただけの簡素な槍と、真っ二つに折れた弓を見つけます。冒険者の武器や盾は見当たりません。

 

アンナ「お腹空いてる?空いてるよね。お昼まで寝てたんだもん!」

アンナ「ご飯、用意するね。座って、座って」

アンナ「お豆、嫌いじゃない?お豆のスープ。たくさん入ってるけど、大丈夫?」

アンナ「えっとね、パンもあるよ。あ、それよりもお水かな?喉渇いた?ミルクもあるよ」

 

少女はあなた達に向かって、矢継ぎ早に話しかけてくる。

 

○GM向け記載事項

アンナ(人間/♀/7歳)に質問できます。アンナのロールプレイ方針を記します。

 

・母親に似たのか、とてもお喋りで、働き者。苦労を他人に訴えない。

・この村の外の世界を知らないため、冒険者たちに興味津々。好意的に接する。

・死を知らない。しかし、兄までいなくなってしまうのでは、と不安に感じている。

 

アンナは、歳の離れた兄ルカと2人暮らしです。彼女の父親は竜の襲撃によって亡くなっています。彼女はまだ幼く、人が死ぬことに実感がありません。しかし、漠然と父親がもう戻ってこないことを理解しています。兄もいなくなることを恐れているものの、その感情を言語化できません。

 

・あなたは?

アンナ「アンナだよ!」

アンナ「怪我、痛い?痛いよね。崖から落ちたって聞いたもん」

アンナ「ミルク、温めようか?温かい方がいい?」

(あなたは何歳?と尋ねた場合)

アンナ「(指折り数えながら)…六つ!たぶん!」

 

・ここは?

アンナ「ゼレンスキーの村。山のくぼんだところにある村だよ」

アンナ「聞いたこと、ないかな?小さい村だしね」

 

・少女の兄について

アンナ「兄ちゃんはね、ルカっていうんだよ」

(少女の兄は今どこにいるのか尋ねた場合)

アンナ「兄ちゃんは、村のウラジミール爺ちゃんの家か、お墓にいると思う」

アンナ「会いたいの?案内するね!」

 

・ウラジミールについて

アンナ「この村の、一番のお爺ちゃんだよ!」

アンナ「えっとね、本をたくさん持ってるの」

 

・父親について

アンナ「お父さんはね…もう帰ってこないの」

アンナ「兄ちゃんが言ってた」(それ以上は答えない)

 

・竜について

アンナ「…うん」(それ以上は答えない)

 

ご飯を食べ終え、支度を始めた頃、アンナは言う。

 

アンナ「ねぇねぇ、ついて行っていい?いいかな」

アンナ「冒険者さん達はどこから来たの?遠く?」

 

○GM向け記載事項

アンナはPCたちについて回ります。ただし、村の外へは出ません。PCたちが外に出ると、村の惨状を目の当たりにします。PCの選択とは無関係に「5 村長」に進みます。

 

5-1 村長

 

アンナの家を出ると、真っ白な山肌が日光を反射して眩しい。湖畔は凍り付き、雪の中には石造りの住宅が連なっている。

 

村を歩けば、多くの家屋が倒壊して瓦礫と化している。畑は焼け、村人は誰もが忙しく働いている。切り出した木々を運んで加工する者、旅支度をする者。中年の男性が指示を出している。

 

アンナ「あそこにいるのが、村長だよ」

 

○GM向け記載事項

ゼレンスキーの村は、ディガッド山脈の雪深い山奥にある集落で、主な産業は、狩猟や林業、宿泊業です。人口は約100人でしたが、火竜の襲撃を受けて現在は60人強まで減っています。

 

村長に話しかけると、彼は返事する。

 

村長「君たちか。ルカが助け出した冒険者というのは」

村長「私は、ヴィクター・ゼレンスキー。この集落の村長だ」

 

○GM向け記載事項

村長(人間/♂/50歳)のロールプレイ方針を記します。

 

・絶大的な竜の力に絶望していて、武器もなく素人が勝つことなど不可能と諦めている。

・村人の安全を最優先に、冒険者の安全は二の次に考え、行動する。

・ルカやウラジミールを見捨てる決断をした自分に、人を笑う資格はないと考えている。

・無事に街へ着いたら、教会を頼る心つもりである。

・街に預金がある。冒険者への報酬はそこから支払う予定だ。

 

質問に対する村長の返事は、以下の通りです。

 

・村人たちは何をしているのか

村長「ああ…逃げる準備をしている」

村長「竜のことは知っているだろう?私たちは、この村を捨てることにしたんだ」

村長「明日の朝、出発予定だ。麓の街を目指す。3日はかかるだろう」

 

・なぜすぐ逃げないのか

村長「馬を殺されてしまった。大所帯で雪山を進むのに、食料を運ぶ手段がなくなってしまってな」

村長「だが、翌朝には出発だ。もう余裕はない」

 

・竜と戦わないのか

村長「戦ったさ。…戦って、負けたんだ」

村長「できる限りの抵抗は試みた。だが、即席の武器など、まるで歯が立たなかった」

 

・ルカは連れていかないのか/アンナが死んでしまうのではないか

村長「ルカ自身、望んでいないんだ。いくら説得しても聞きやしない。頑固なところは親爺似だな」

村長「父親は勇敢に戦った。その背中を見ていたからこそ、その死を無駄にしたくないんだろう」

村長「アンナを心配する気持ちは分かる。実際、あの子には厳しい旅路となるだろう」

村長「だが、私は村の意思を決定する立場だ。心苦しいが、より多くの村人の安全を優先しなければならない。…私とて、仇は討ってやりたかったがな」

 

会話が一区切りつくと、村長は冒険者に提案をもちかける。

 

村長「一つ頼みがある。よければ、私たちに同行してくれないか」

村長「旅の危険は、竜に限ったことではない。天候のことも、うろついている野生の狼やグリズリーもそうだ。村の者は滅多に集落の外へ出ない。死者が出るのは避けられないだろう」

村長「旅慣れた君たちが同行してくれるのなら、これほど心強いことはない。依頼ということなら、報酬も用意する。詳細は追って説明しよう」

 

村長からの依頼の詳細は、以下のようなものである。

 

・依頼は街に向かう道中、村人を魔物から護衛すること

・成功報酬として村人の半数が生存できたら、パーティに12000G支払う

・街に到着したが村人の半数が生存できなかったら、パーティに6000G支払う

 

村長の提案に返事しようとすると、服の裾が引っ張られたことに気付く。振り返ると、アンナが暗い表情であなたを見つめている。

 

村長「返事は、明日の朝までにもらえればいい。それまでに、よく考えておいてくれ」

 

村長は仕事へ戻っていく。

 

アンナ「あのね、お兄ちゃんにね、会ってほしいの」

 

○GM向け記載事項

今後の進行チャートです。

 

少年に会う→「6-1 少年」

長老に会う→「6-2 長老」

武器を回収→「7-1 残骸」

 

5-2 奮起

 

○GM向け記載事項

「7-1 残骸」で隊商の残骸から商品として運んでいた武器を回収し、村人に見せると、彼らを説得して戦いに加勢させる選択肢が生まれます。武器がなければ、説得を試みることはできません。

 

聞き込み判定(冒険者レベル+知力ボーナス)の達成値で成否を判断します。目標値は20/24です。

 

以下の条件を満たすPCは、それぞれの要素につき、判定に+2のボーナス修正を得ます。

 

・ウラジミールの家で「人を動かす―人間関係の大原則」を一読している

・プリースト技能を1レベル以上習得している

 

また、説得を試みるなら、実際に説得のロールプレイを行います。下記の要素を含めるたびに、判定に+1のボーナス修正を得ます。

 

・ルカが説得に参加している

・火薬で坑道を爆破することができると説明している

・『動物と幻獣の生態学』を一読し、その内容(奇襲が有効)に言及している

・火竜を倒せば、村そのものを救えると主張している

・その他、GMが有効と考える内容を含めている

 

すべてのPCが判定に参加できますが、説得を試みることができるのはシナリオ中1回です。

 

なお、村長は「竜が討伐された場合も、下山と同様の報酬を支払う」と約束します。

 

○PL向け記載事項

では、説得をどうぞ。

 

・19以下(失敗)

村人は奮起しない。ルカは言う。

ルカ「…分かった。行こう。俺たちだけで狩るしかない」

ルカ「俺が帰ってこなかったら…村長、アンナのことは頼んだ」

 

・20以上23以下(部分成功)

村長が渋っていると、村人の中からぽつぽつと奮起の声が上がり始める。

村人A「…そうだ、彼らの言う通りだ」

村人B「…逃げても、凍えて死ぬだけかもしれない」

村人C「どうせ死ぬなら、戦って死のう」

ルカを含む10人の村人が奮起し、武器を手に取る。

 

・24以上(完全成功)

奮起の声が、村人全体に広がる。村長は、溜息を吐く。

村長「それが村の総意なら、私には何も異論はないよ」

村長「君たちの言う通りだ。意気地を見せる時だろう」

村長やルカを含む、戦うことができるすべての村人20人が一斉に武器を取る。

 

○GM向け記載事項

今後の進行チャートです。

 

長老に会う→「6-2 長老」

武器を回収→「7-1 残骸」

街を目指す→「8-2 街へ」

 

6-1 少年

 

雪原に、細い丸太を組み合わせて作った、簡素な墓標が立ち並んでいる。墓場の真ん中には、墓標に向かって跪き、祈りを捧げている少年の背中が見える。

 

アンナ「兄ちゃん!」

 

彼女が駆け寄ると、少年はこちらを振り返る。成人したばかりといったところか、アンナとは年齢が離れているように見える。体格はがっしりとしていて、普段から力仕事をしているようだ。アンナを抱き上げた少年がこちらにやってくる。

 

ルカ「どうだ、怪我は痛まないか?一応、親父に教わった通りにしたんだけど」

ルカ「ルカだ。災難だったな。わざわざ挨拶に来てくれたのか」

 

○GM向け記載事項

ルカ(人間/♂/16歳)のロールプレイ方針を記します。

 

・アンナの未来を何よりも優先する。

・たとえ1人でも竜と戦うつもりだ。

・孤独を感じている。本当は村人にも協力してほしいが、自分の説得力では難しいと身をもって体感している。

・冒険者たちが、火竜を倒すための新たな力になることを期待している。

 

質問に対するルカの返事は、以下の通りです。

 

・ルカが助けてくれたのか

ルカ「そうだ。昨晩、見張り番だった。竜と馬の声が聞こえたから、人が襲われたと思ったんだ」

ルカ「見つけられたのは、あんたたちだけだった。それでも、助けられてよかった」

 

・武器や盾を知らないか

ルカ「悪いな。あんたたちを連れて帰るのに精一杯だった。荷物を探す余裕はなかったんだ」

ルカ「もしかしたら、まだ谷に転がっているかもしれない。案内するよ」

 

・村から出たい

ルカ「そりゃそうだよな。俺たちも、できることなら村を出たいよ」

ルカ「村の馬がみんな殺されちまった。この季節、馬なしで下山すると3日かかる。何の準備もなく山を下るのは自殺行為だ」

 

・竜について

ルカ「村の様子は見てきたか?酷い有様だっただろ」

ルカ「親父も、その時にな。勇敢に戦ったんだけど」

ルカ「なぁ、あんたたち。聞いて欲しい頼みがあるんだ」

ルカ「竜を殺したい。明日の朝、日が昇るまでに。協力してくれないか?」

 

・なぜ竜を殺すのか/なぜ明日の朝までに

ルカ「村長の話は聞いたか?明日の朝、村を捨てて、山を下ろうとしている」

ルカ「…俺は、村長の案に反対なんだ」

ルカ「妹は、きっと山下りに耐えられない。まだ7つだし、身体も強くない」

ルカ「親父に、妹を守れって…だから、竜を殺して安全を取り戻したいんだ」

 

・なぜ冒険者たちに頼むのか

ルカ「俺だって、1人で竜と戦うのが無理なことくらいは分かっている」

ルカ「村の連中は、俺には説得できなかった。ろくな武器もなしに、どうやって戦うんだって」

ルカ「でも、冒険者のあんたたちなら、話を聞いてくれるんじゃないかって思ったんだよ」

ルカ「もちろん、そのために助けたってわけじゃない。できれば、協力してほしい」

 

○GM向け記載事項

ルカの頼みは、すぐ返答する必要はありません。

「了承する」「断る」「諦めるよう説得する」の3パターンの進行を記します。

 

○「了承する」

ルカ「いいのか…?頼んでおいてなんだが、死ぬかもしれないぞ?本当に、いいのか?」

 

彼はあなた達の意思を再確認すると続ける。

 

ルカ「ありがとう、恩に着る。力を貸してくれ」

 

あなた達は、竜狩りの計画について相談する。

 

ルカ「この後、巣の様子を見に行こうと思っていたんだ」

ルカ「何か、策が思い付けるかもしれない。どう思う?」

 

質問に対するルカの返事は、以下の通りです。

 

・村人に協力を頼む

ルカ「…俺は、難しいと思う」

ルカ「竜が村を襲った時、返り討ちに遭った人たちを見ているから。みんな、怯えてしまった。俺の親父も、その時に…とにかく、勝算が高くならないと、話も聞いてくれないだろう」

 

・荷物を取りに行きたい

ルカ「それなら、谷に案内しよう」

ルカ「雪に埋もれているのを見落としたんだと思う」

 

・隊商が武器を運んでいた(→ルカは興味を示す)

ルカ「武器?どういうことだ?」

ルカ「確かに…それなら、まともな武器が手に入るかもしれないな」

 

・竜について知りたい

ルカ「竜のねぐらに行けば、何か分かるかもしれない」

ルカ「あとは、ウラジミールの爺さんのところに行くべきかな。本があるから」

ルカ「手がかりになるかもしれないけど…字は読めるか?俺は読み書きが得意じゃないんだ」

 

・村の長老について

ルカ「ウラジミールの爺さんは前村長で、現村長の父親だよ」

ルカ「集落の子どもはみんな、爺さんのところで読み書きを習うんだ」

ルカ「ただ、爺さん、いじけてるからなぁ…話を聞いてくれればいいんだけど」

 

・村の長老はなぜいじけているのか

ルカ「さぁね。本人に聞いたら?」

 

○「断る」

ルカ「…そうか、分かった」

ルカ「気にするな、そういうつもりであんたたちを助けたわけじゃないんだ」

ルカ「もし、気持ちが変わることがあれば…俺は、墓場でしばらく待っている。声をかけてくれ」

そう言って、彼は去っていく。

 

○「諦めるよう説得する」

ルカは村に安全を取り戻すため、火竜を打倒すると心に決めています。その決意は堅く、説得は困難ですが、不可能ではありません。

 

聞き込み判定(冒険者レベル+知力ボーナス)の達成値で成否を判断します。目標値は24です。

 

以下の条件を満たすPCは、それぞれの要素につき、判定に+2のボーナス修正を得ます。

 

・ウラジミールの家で「人を動かす―人間関係の大原則」を一読している

・プリースト技能を1レベル以上習得している

 

また、説得を試みるなら、説得のロールプレイを行います。下記の要素を含めるたびに、判定に+1のボーナス修正を得ます。

 

・たった1人の家族であるルカが死んでアンナを1人にしてはいけないと主張している

・父親の「家族を守れ」という言葉は、必ずしも竜を倒すことではないと説明している

・『動物と幻獣の生態学』を一読し、その内容(身を隠すのが効果的)に言及している

・「7-1 残骸」で〈サバイバルコート〉を発見している

・その他、GMが有効と考える内容を含めている

 

すべてのPCが判定に参加できますが、説得を試みることができるのはシナリオ中1回です。

 

○PL向け記載事項

では、説得をどうぞ。

 

・23以下(失敗)

ルカ「あんたたちが何と言おうと…俺の決意は変わらない」

ルカ「俺が死んだら、村のみんなを守ってくれ」

そう言って、彼は去っていく。

 

・24以上(成功)

ルカ「…あんたたちの言う通りだ。俺は、アンナのためにも死ぬわけにはいかない」

ルカ「俺が一緒にいたら、アンナを抱きしめて守ってやれる」

ルカ「アンナが凍えて死ぬようなことは、絶対にない」

そう言うと、彼はアンナを連れて村へと戻っていった。

 

○GM向け記載事項

今後の進行チャートです。

 

村人を説得→「5-2決起」

長老に会う→「6-2 長老」

武器を回収→「7-1 残骸」

洞窟の調査→「7-2 洞窟」

街を目指す→「8-2 街へ」

 

6-2 長老

 

村の外れに、こぢんまりとした小屋がある。

 

アンナ「あれが、お爺ちゃんの家だよ!」

 

ノックすると、中から年老いた男性の細い声が聞こえてくる。

 

ウラジミール「なんじゃ、もう放っておいてくれんかの」

ウラジミール「最期の読書なんじゃ」

 

○GM向け記載事項

アンナまたはルカがいなければ、ウラジミールは扉を開けることはなくイベントは発生しません。

 

彼(彼女)の呼びかけに応え、長老はおずおずと扉を開ける。ふさふさの眉毛の下に、疑わし気な瞳がわずかに開いている。

 

ウラジミール「なんじゃ、お前さんか…こっちは知らん顔じゃな。どちらさん?」

 

老人は、冒険者を迎え入れる。寒冷なこの地域の慣習として、薄めたエールが客人に振る舞われる。アンナも口にする。

 

○GM向け記載事項

ウラジミール(人間/♂/80歳)のロールプレイ方針を記します。

 

・憎まれ口を叩く。しかし、これは村人たちへの愛情を裏返しである。

・現村長の、実の父親よりも村を優先する方針を誇らしく思っている。

・ルカが竜を退治したがっていると知りながらも、止められずにいる。

 

質問に対するウラジミールの返事は、以下の通りです。

 

・本を読ませてほしい

ウラジミール「本を?なぜじゃ?」

ウラジミール「まさか、村の宝を奪っていこうと言うのか?!」

(理由を話した後)

ウラジミール「まぁ…仕方ないのう。特別じゃぞ?」

ウラジミール「集めるのに、50年はかかったんじゃからの」

 

・竜を倒したい

ウラジミール「竜を?やめておけ。竜の姿を見ておらんのか?口から火を吹いてな。この世の終わりかと思ったわい」

 

・なぜ逃げないのか

ウラジミール「お前さんたちの知ったことじゃあるまい」

ウラジミール「見てみろ、この足を」(彼は足が悪い)

 

・村人を説得したい

ウラジミール「…竜を倒すためか?」(彼の表情が険しくなる)

ウラジミール「お前さんたちの言うことは、理想論じゃな」

ウラジミール「竜さえどうにかなれば、みんな丸く収まる」

ウラジミール「だがの、倅の言うことも正しい。村の長が、軽く村の命をかける決断なんぞできん。悩んで、悩んで決めたに違いない」

ウラジミール「わしも、一時は村の長を務めた。きっと、同じ決断をしたじゃろう」

ウラジミール「とはいえ、じゃ。村の者どもは、誰も好きで村を捨てるわけではないはずじゃ」

ウラジミール「…もし説得したいなら、根拠をなるべく集めることじゃ。竜を屠ることができると、信じるに足る根拠を。この老いぼれから言えることは、それくらいじゃ」

 

また、本棚を自由に調べることができる。

 

○GM向け記載事項

文献判定(目標値12)に成功すれば、以下の2つの書物を発見します。

 

『動物と幻獣の生態学』

動物や幻獣について、各地から目撃談を集め、考察した書物。決して多くはないが、火竜についても記された箇所がある。内容は以下の通り。

 

竜の目撃証言は少ない。理由は、竜そのものが珍しいこと、彼らが敵対的なら、遭遇して生き残る者が少ないことが要因であろう。

竜の生態は地域によって千差万別だが、多くの個体は炎を吐く。また、炎を吐く竜には、炎を用いた攻撃が効かないという特徴を持つ。

成熟した竜は、国家に匹敵する戦力を持つとも言われている。成熟していなくとも、訓練された軍を用意しなければ、討伐することは難しい。

 

一部の竜は、金銀財宝を溜め込む習性があるという。そのため、多くの探検家が秘宝を求めて彼らの巣に入っては業火に焼かれる始末である。

 

彼らを狩るという無謀を叶えるなら、奇襲が最も有効である。反撃のチャンスを与えることなく、翼を集中的に攻撃するのが効果的である。

既に火竜が上空にいるのなら、視界を遮る森林などを探すことを勧める。空から見下ろせば人族など蟻も同然である。そのような状況で、獲物を見失うのは容易い。

 

○GM向け記載事項

「3 閃光」で魔物知識判定に失敗していれば、以下の情報を開示します。セージ技能を5レベル以上、習得しているキャラクターがいれば、弱点を知ることができます。

 

〇ドラゴネット(→「Ⅲ」409頁)

知名度15、弱点値20

 

『人を動かす―人間関係の大原則』

人を自発的に動かすには、3つの原則が重要である。

 

1 どんな相手であっても非難することなく、相手を認めること。

2 相手に心からの賛辞を示し、自己重要感を満たすこと。

3 自分ではなく、相手の立場に立って、望みは何なのか考えること。

 

人を自発的に動かす際に、心得なければならないことがまとめられている。この書籍を一読したら、誰かを説得する際に有利を得ることができるだろう。

 

○GM向け記載事項

今後の進行チャートです。

 

村人を説得→「5-2 決起」

少年に会う→「6-1 少年」

武器を回収→「7-1 残骸」

洞窟の調査→「7-2 洞窟」

街を目指す→「8-2 街へ」

 

7-1 残骸

 

湖から流れ出した水が川となって、谷間へと流れ出している。槍を背負ったルカは、川沿いに歩いてあなた達を案内する。

 

谷を歩いていけば、道が二股に分かれている。片方の道は川沿いに伸びていて、もう片方は緩やかな上り坂になっている。このまま川沿いを歩けば、昨晩あなた達が落下した場所に、上り坂を行けば、竜のねぐらに繋がっているらしい。

 

川沿いを進むと、ルカは指差しながら言う。

 

ルカ「あの辺りだ、あんたたちを見つけたのは」

 

崖の高さを見るに、10m以上の落下だったことが分かる。しかし、彼が指差す先は雪が降り積もっており、落下の衝撃を和らげたものと想像できる。

 

雪を掘り返すと、そこには失くしていた武器や盾が埋まっている。

 

○GM向け記載事項

ルカに隊商の運んでいた武器について教えていれば、彼が馬車を探すよう提案します。

PCから提案があれば、隊商の残骸を探す(目標値12)ことができます。成功すれば、全壊した馬車を見つけます。隊商の残骸を漁るなら、描写は以下の通りです。

 

雪を払い、幌を捲れば、数十人分の武器や防具がある。槍、鎧、盾。他に〈サバイバルコート〉などの防寒具が見つかる。さらに、無事な樽がいくつか雪に埋まっている。

 

○GM向け記載事項

樽を空けるなら、その中の1つに火薬が入っています。見識判定(目標値12)を行って成功すれば、火薬の中でも一際、破壊力の高いものであることが分かります。

 

7-2 洞窟

 

坂を登っていくと、谷が左右に広がって、空間が拓ける。岩壁に大きな穴が空いていて、洞窟が地下へと伸びている。ルカが言う。

 

ルカ「あれが、竜のねぐらだ」

ルカ「たぶん、今は近付いても大丈夫だと思う。竜は夜に活動するんだ」

 

高さ5mほどの洞窟が見えている。この広さなら、あの怪物も巣食うことができるだろう。

 

○GM向け記載事項

PLから提案があれば、探索判定(目標値8/12/16)を行います。

提案がなければ、異常感知判定(目標値12/16/20)を行います。

 

・達成値8(12)以上

大きな足跡を見つける。人間のものではない。

 

・達成値12(16)以上

この洞窟がかつて、人工的に掘り出されたものだと分かる。洞窟の入口は本来なら半分ほどの大きさしかなかったのではないかと感じる。恐らく、竜が身体をねじ込んで無理やり広げたのだろう。

 

・達成値16(20)以上

洞窟は強い衝撃を与えると、崩落する可能性がある。崩落させると、火竜は這い出てくるが、かなりの痛手を負わせることができるだろう。

 

○GM向け記載事項

この洞窟は村ができた当初、石や鉄、石炭などを掘り出すために作られた坑道でした。しかし、既に使われなくなって久しく、存在を知るのは村の長老くらいです。

この洞窟は、火薬(ダイナマイト)を用いることで、崩落させることができます。崩落させるなら、竜との決戦(「8-1 決戦」)に進みます。

 

○GM向け記載事項

今後の進行チャートです。

 

村人を説得→「5-2決起」

長老に会う→「6-2 長老」

武器を回収→「7-1 残骸」

内部の調査→「7-3 奥へ」

街を目指す→「8-2 街へ」

 

7-3 奥へ

 

○GM向け記載事項

種族特性[暗視]を持たないキャラクターは、対策しなければ、あらゆる行動判定に-4のペナルティ修正を受けます。

 

奥に進むにつれて、何かの気配を感じる。呼吸音だ。やがて暗闇の向こうから、恐ろしい輪郭が姿を現す。向きだされた牙と、逆立った鱗。首だけでも、あなたの身体と同じくらいはある。

 

○GM向け記載事項

まだ行っていない場合は、魔物知識判定が可能です。

 

〇ドラゴネット(→「Ⅲ」409頁)

知名度15、弱点値20

※コア部位に〈剣のかけら〉を10個追加する

 

危険感知判定(目標値17)を行います。

 

・成功時の描写

竜は一度、大きな鼻息を漏らした。目を醒ました様子はない。今なら、逃げることができるだろう。あるいは、不意打ちを仕掛けることができるかもしれない。

 

・失敗時の描写

瞼がぴくりと動き、徐々に開いていく。溶岩のように赤熱する瞳が、暗闇の中をぎょっと見回した。口元では火がちらつき始め、人を焼き殺す業火に変わっていく。

 

危険感知判定に成功した場合、PCたちは安全に逃げることができます。

戦闘を開始するなら、不意打ち(→「Ⅰ」156頁)に自動成功します。

 

〇ドラゴネット(→「Ⅲ」409頁)

知名度15、弱点値20

※コア部位に〈剣のかけら〉を10個追加する

 

○戦闘配置(基本戦闘)

前線エリア:ドラゴネット

 

では、戦闘準備をどうぞ。

 

危険感知判定に失敗した場合、PCたちは逃走を試みることができます。

 

「冒険者レベル+敏捷度ボーナス」を基準値として、目標値17で判定を行います。この判定は個別に行います。なお、ルカは逃走に成功します。

 

成功すればダメージを受けることなく逃走できます。

 

・成功

燃えさかる火炎が、あなたの背後から迫り来る。間一髪のところで、あなたは洞窟から脱出する。

 

失敗すれば「10+威力20(C10)」の確定ダメージを受けます。このダメージでHPが0以下となったキャラクターは、追撃を受けて死亡します。

 

・ダメージ決定で出目9以下

燃えさかる火炎が、あなたの肌を焦がしていく。間一髪のところで、あなたは洞窟から脱出する。

・ダメージ決定で出目10以上(クリティカル)

燃えさかる火炎が、あなたの身体を焼いていく。間一髪のところで、あなたは洞窟から脱出する。

 

奮起した村人を連れてきていれば、危険感知判定に失敗すると逃走を試みることはできません。必ず戦闘となります。

 

〇ドラゴネット(→「Ⅲ」409頁)

知名度15、弱点値20

※コア部位に〈剣のかけら〉を10個追加する

 

○戦闘配置(基本戦闘)

前線エリア:ドラゴネット

 

では、戦闘準備をどうぞ。

先制判定(目標値17)をどうぞ。

 

今後の進行チャートです。

 

村人を説得→「5-2決起」

長老に会う→「6-2 長老」

武器を回収→「7-1 残骸」

火竜と戦闘→「8-1 決戦」

街を目指す→「8-2 街へ」

 

8-1 決戦

 

○GM向け記載事項

「7-2 洞窟」で「火薬を使って洞窟を爆破する」選択をした場合、以下の処理を行ってから戦闘を開始します。

・魔物は、すべての部位に「2d+15」点の確定ダメージを受ける。

以下は、洞窟を爆破した場合の描写です。

 

洞窟は完全に埋もれ、辺りは一瞬静寂に包まれる。次の瞬間、真っ赤な炎とともに瓦礫が炸裂する。洞窟の暗闇の奥から、怪物が姿を現す。鋭い牙の奥で火炎がちらつき、瞳は怒りに赤熱している。翼を広げた火竜が、咆哮を轟かせる。

 

○PL向け記載事項

戦闘を開始します。

「5-2 決起」で村人が決起していれば、PC側のラウンド終了時に、魔物のすべての部位に下記の点数の確定ダメージを与えます。

10人の村人が奮起:「1d」点

20人の村人が奮起:「2d」点

 

〇ドラゴネット(→「Ⅲ」409頁)

知名度15、弱点値20

※コア部位に〈剣のかけら〉を10個追加する

 

○戦闘配置(基本戦闘)

前線エリア:ドラゴネット

 

では、戦闘準備をどうぞ。

魔物知識判定(目標値15/20)をどうぞ。

先制判定(目標値17)をどうぞ。

 

○GM向け記載事項

今後の進行チャートです。

 

戦闘に勝利→「9-1 エピローグ1」

戦闘に敗北→「9-5 エピローグ5」

 

8-2 街へ

 

朝日が差し込む中、扉を叩く音がする。家の外から、村長の声が聞こえる。

 

村長「そろそろ出発だ」

 

○GM向け記載事項

ルカを説得できていなければ、以下の描写が追加されます。

 

ルカは、朝になっても帰ってこなかった。

 

村長「…ルカは、帰ってきたのか?」

 

ルカが帰ってこなかったことを村長に伝えるか、無言でいるなら、村長は言う。

 

村長「…そうか、残念だ」

村長「谷の入口で、待っているぞ」

 

家を出ようとすると、アンナがあなた達を呼び止める。

 

アンナ「あれ、もう行くの?兄ちゃん、帰ってきてないよ」

アンナ「やだ、兄ちゃんと一緒に行く」

 

以下のいずれかを選択しない限り、アンナは動かない。

・ルカはもう帰ってこないと真実を伝える

・ルカは後から付いてくると嘘をつく

・無理矢理にでも連れて行く

 

集落の入口までやってくると、村人があなた達を待っていた。ソリには、食料や家財が詰め込まれている。長老のウラジミールが見送りに来ていて、村長と話しているのが見える。2人は、最後に無言で抱きしめ合う。

 

出発の直前、ウラジミールが話しかけてくる。

 

ウラジミール「わしが言うのもなんじゃが、の。あまり倅を責めないでやってくれ。辛い決断だったはずじゃ」

ウラジミール「お前さんたちも、行きずりで酷な役目を背負わせることになってしまったの。余計なお世話かもしれんが…あまり、気に病むでないぞ」

ウラジミール「達者で、の」

 

かくして、ゼレンスキーの村を出発した。

 

○PL向け記載事項

〈サバイバルコート〉や〈サーマルマント〉を装備するなどの防寒対策をしていないキャラクターは日数が経過するごとに最大HPが「2d」点、減少します。

減少したHPは、セッション終了時に回復します。最大HPが0となった場合、生死判定の余地なく死亡します。

 

○GM向け記載事項

下山する村人は60人です。村人の最大HPを60としてダメージを反映させます。

村人のHPが40以下になると、アンナは死亡します。ただし、ルカが同行していれば、彼がアンナを抱きしめて庇うため、この時点でルカが死亡します。この場合、アンナは村人のHPが20以下になると死亡します。

エンディングでアンナが生存していれば、依頼は完全成功となります。

エンディングでアンナが死亡していれば、依頼は部分成功となります。

ただし、村人のHPが0になると村人は全滅して依頼失敗となります。

 

アンナ「…お腹が空いて、身体が軽くなったのかな」

アンナ「お父さん、お母さん、兄ちゃん、今行くよ」

 

ルカ「俺は、ここまでだ…アンナを頼む」

ルカ「どうか妹を教会へ送り届けてくれ」

 

「7-1 残骸」で入手可能な〈サバイバルコート〉を渡していれば、村人が凍死することはありません。渡していなければ、1日の終了時に「2d」点の確定ダメージを受けます。

 

1日目

 

雪の中、上空から羽ばたく音が近づいてくる。やがて、あなた達のいる地上を、巨大な影が横切っていく。…身を潜めなければ。

 

○GM向け記載事項

危険感知判定(目標値17)を行います。ウラジミールの家で『動物と幻獣の生態学』を一読し、木々に身を潜めながら進むような提案をするか、事前に村人に伝えていたなら、判定に+4のボーナス修正を得ます。

全員が判定に失敗すると、冒険者と村人はドラゴネット(→「Ⅲ」409頁)の「火炎のブレス」の攻撃で「2d+15」点の炎属性の魔法ダメージ(抵抗:半減)を受けます。なお、村人は生命抵抗力判定に失敗します。

 

成功:火竜は、あなた達を見失ったようだ。安全を確認し、街を目指して旅を続ける。

失敗:あなた達は、火炎のブレスを受ける。幸いにも一命を取り留めたが、直撃を受けた村人は天へ旅立った。

 

2日目

 

曇天の中を、あなた達は進んでいく。足の指が痺れ、冷えた冷気が着々と体力を奪っていく。突如、うなり声が聞こえたかと思えば、茂みから獣が飛び出してくる。

 

〇ペドロヴァイパー(→「Ⅱ」396頁)

知名度10、弱点値14

※〈剣のかけら〉を6個追加する

 

〇サーベルタイガー(→「Ⅱ」397頁)×2

知名度14、弱点値18

 

○戦闘配置(基本戦闘)

敵軍後方エリア:ペドロヴァイパー

前線エリア:サーベルタイガー×2

 

では、戦闘準備をどうぞ。

魔物知識判定(目標値10/14、14/18)をどうぞ。

先制判定(目標値17)をどうぞ。

 

○GM向け記載事項

冒険者が全滅すると「9-5 エピローグ5」へ進行します。

この戦闘で、他の魔物に襲われている村人は毎ラウンド「2」点の確定ダメージを受けます。

「7-1 残骸」で、隊商の残骸から武器や鎧、盾を回収して村人に渡していた場合は、村人が受ける確定ダメージは毎ラウンド「1」点となります。

 

3日目

 

吹雪が続く。村人は覆い被さるようにして、子どもたちを庇っている。視界は真っ白で、少しの油断も許さない。…いや、本当に道を間違えていないだろうか?

 

○GM向け記載事項

地図作成判定(目標値16)を行います。視界が悪いため、対策しなければ判定に-2のペナルティ修正を受けます。[暗視]を持つキャラクターは視界不良の影響を受けません。

全員が判定に失敗した場合、一部の村人が遭難して行方不明となります。この場合、村人は「2d」点の確定ダメージを受けます。

 

成功:あなた達は、なんとか道を見失わずに街へ辿り着くことができた。

失敗:あなた達は、街へ辿り着くことができた。しかし、一部の村人が遭難し、行方不明となった。

 

今後の進行チャートです。

 

アンナ生存→「9-2 エピローグ2」

アンナ死亡→「9-3 エピローグ3」

村人が全滅→「9-4 エピローグ4」

 

9-1 エピローグ1(火竜を討伐)

 

冒険者(村人)の放った一撃が、竜を切り裂いた。怪物は苦悶の叫び声を轟かせると、血と炎を吐き出し、よろめいて倒れ伏す。赤熱した瞳から光が失われ、完全に動かなくなった。

 

〇GM向け記載事項

エンディングは、全員で考えましょう。

ルカは、最初は呆然とするかもしれません。しかし、やがて竜が死んだことを実感すると喜びを身体で表現します。死者が出ていれば、喜びを表に出さないでしょう。

村人が決起していないなら、村に戻って竜を狩ったと村長に報告することになります。彼は冒険者に謝罪し、討伐報酬(後述)を約束します。死者がいるなら、彼らの魂を弔うでしょう。

アンナは、村で冒険者の凱旋を待っています。無事を知らせれば、安堵の表情を見せるでしょう。

 

その後、冒険者たちは雪解けまで足止めを余儀なくされる。竜がねぐらにため込んでいた金銀財宝が発見されると、一部が冒険者への報酬に充てられた。

 

やがて雪が解け、春が来ると、冒険者は去っていった。ゼレンスキーの村は、竜の金銀財宝を財源に立て直され…あとは、お前たちも知っている通りさ。しばらくは、ひもじい生活が続いたが、そんなもの、なんともなかった。家族の命さえ、無事なら。

 

…さあ、話はこれでおしまいだよ。そろそろ飯にするかね。

 

お前たち、豆は好きかい?食べておいき。

 

〇報酬

18000G(パーティ)

3000経験点(基礎)+500経験点(魔物)=3500経験点

3成長

〈剣のかけら〉10個

 

9-2 エピローグ2(アンナ生存)

 

火竜をやり過ごし、魔物の襲撃と遭難の危機を乗り越えたあなた達は、出発から3日目の夜、山の麓の街へ辿り着いた。地面に雪はなく、眼前に緑の草原が広がっている。

かじかんだ指の痛みが、徐々に引いていく。それは、過酷な山道を下りきったことを痛感させる。

 

…そうして、冒険者たちに守られながら多くの村人が山を下りきった。あれから60年。今、私に命があるのは、彼らのお陰さ。

 

彼らは逞しく、賢明だった。それでも、すべてを救うことはできなかった。…いや、この世界で何も失わずにいられる者など、どれだけいようか。

 

お前たち、覚えておくんだよ。誰もが傷ついて、失って…でも、生きてさえいれば、少しばかりの光が差し込んでくるものさ。この慈悲なき世界に。

 

〇報酬

12000G(パーティ)

2000経験点(基礎)+500経験点(魔物)=2500経験点

2成長

〈剣のかけら〉6個

 

9-3 エピローグ3(アンナ死亡)

 

火竜をやり過ごし、魔物の襲撃と遭難の危機を乗り越えたあなた達は、出発から3日目の夜、山の麓の街へ辿り着いた。地面に雪はなく、眼前に緑の草原が広がっている。

かじかんだ指の痛みが、徐々に引いていく。それは、過酷な山道を下りきったことを痛感させる。

 

…そうして、冒険者たちに守られながら、村の人々はなんとか山を下りきった。だが、過酷な下山で多くの村人が命を落とした。

 

彼らは逞しく、懸命だったが、すべてを救うことはできなかった。…いや、この世界で何も失わずにいられる者など、どれだけいようか。

 

お前たち、覚えておくんだよ。誰もが傷ついて、失って…それは世の常で、だからこそ、生きていることは尊いものなんだ。

 

〇報酬

6000G(パーティ)

1000経験点(基礎)+500経験点(魔物)=1500経験点

1成長

〈剣のかけら〉6個

 

9-4 エピローグ4(村人が全滅)

 

火竜をやり過ごし、魔物の襲撃と遭難の危機を乗り越えたあなた達は、出発から3日目の夜、山の麓の街へ辿り着いた。地面に雪はなく、眼前に緑の草原が広がっている。

かじかんだ指の痛みが、徐々に引いていく。それは、過酷な山道を下りきったことを痛感させる。

 

…そうして、冒険者たちは山を下りきったが、村人に生き残った者はいなかったという。

 

彼らは逞しく、懸命だったが、すべてを救うことはできなかった。…いや、この世界で何も失わずにいられる者など、どれだけいようか。

 

お前たち、覚えておくんだよ。誰もが傷ついて、失って…それは世の常で、だからこそ、生きていることは尊いものなんだ。

 

〇報酬

500経験点(基礎)+500経験点(魔物)=1000経験点

1成長

〈剣のかけら〉6個

 

9-5 エピローグ5(冒険者全滅)

 

足音が徐々に近くなる。身体はもう動かない。あなたの身体からは鮮血が吹き出し、真っ白な雪原を染めていく。…側には、あなたの仲間が転がっている。

 

○PL向け記載事項

では、遺言をどうぞ。

 

意識が遠のいていく中、大きな影が落ちる。まさに今、怪物があなたを呑み込もうとしていた。

 

…これで物語はおしまい。遠い地方の、とある村で、実際にあった出来事だそうだ。勇敢な戦士にも死は平等に訪れる。誰も、運命から逃れることはできない。

 

お前たち、忘れるんじゃないよ。その時が来たら、必死に抗わないといけない。この慈悲なき世界で生き残るために。

 

・サンプルキャラクター(3人パーティ)

 

○エルフの妖精使い

https://yutorize.2-d.jp/ytsheet/sw2.5/?id=v6LPNV

 

○ドワーフの戦士

https://yutorize.2-d.jp/ytsheet/sw2.5/?id=udve6N

 

○タビットの魔導師

https://yutorize.2-d.jp/ytsheet/sw2.5/?id=mUt9WF

 

○GM向け記載事項

サンプルキャラクター3人で本作を遊ぶなら、

 

・「闘争」ルート

・「逃走」ルート

 

のいずれもハッピーエンド(「9-1」または「9-2」)を迎えられる可能性が高いです。ただし、条件があります。

 

○「闘争」ルートの場合

 

・「5-2 決起」で村人を説得する

・「7-1 残骸」で入手した火薬を使用して「7-2 洞窟」で洞窟を崩落させる

 

上記の2点が、戦闘を有利にするための要素です。ただ、上記の両方の要素が欠けたとしても希望が持てないわけではありません。

ただし、前衛の耐久力とパーティの継戦力(回復役)のいずれかが欠けると、早急にドラゴネットを倒せなければ、厳しい戦いとなるでしょう。

 

○「逃走」ルートの場合

 

・「6-1 少年」でルカを説得する

・「6-2 長老」で文献判定(目標値12)に成功し、火竜から身を隠す提案をする

・「7-1 残骸」で入手した〈サバイバルコート〉を村人に渡す

・「8-2 街へ」で危険感知判定(目標値17)に成功

・「8-2 街へ」で早急に魔物を撃破

・「8-2 街へ」で地図作成判定(目標値16)に成功

 

ルカの説得に成功していなければ、完全成功(アンナ生存)のために、その他の要素の大半を満たす必要があります。しかしながら、探索が得意なパーティは「逃走」ルートを選んだ方が、安全で確実な選択となる可能性が高いです。

 

ルカの説得に成功していれば余裕がありますが、いくつかの要素を満たさなければ、完全成功は困難です。戦闘が得意なパーティは「闘争」ルートを選ぶのが無難です。

 

○BOOTH掲載中

 

○次回

(準備中)