先日、芝生公園の仲間達がTWを引退していきました。
皆さん、お疲れ様でした。そして、本当に有難う御座いました。
まぁ、それでもSS内では所属し続けて頂くんですg(ターン
*
「どぉーやー」
クライデン平原でのゼリーモンスター殲滅より、二日。前線部隊の一人としてキャラバン隊の護衛、モンスターの殲滅、そして夜通しの卵探しを行ったドヤは、
「どやぁー、おっきろー」
「……いや、無理だから…………」
過労でぶっ倒れていた。
ドヤと咲音がそんな会話を繰り広げているその時、芝丈の執務室では、
「という事でドヤさんはお休みです」
「……情けネェなぁ」
「うんうん。情けない」
アートと風瀧諒による情け容赦のないダメ出しがされていた。
「鍛えてない証拠だ。俺らを見習えっての」
「や、丸一日以上派手に動き回っといてケロリとしてるアンタらと比べちゃ可哀そうでしょうが」
アートに冷静なツッコミを入れるイファだが、矢張りその声と顔には先日の疲れが残っているように見える。
「まぁ、彼らが行うはずだった仕事は私と木漏れ日とで分担して行いますので、貴方方は御気になさらず。それから、これは今回前線で働いて下さった方々へのボーナスです」
「つーか、疲れてたのを無理矢理やって来たのは本来それの為なんだけどねぇ……何でアンタの長々とした無駄話に付き合わされてたワケ?」
芝丈が机の上に並べた封筒の一つを受け取りながら、イファがぼやく。
「あぁ、卵は先程先方に送り届けましたので。遅くとも今月中には報酬が振り込まれてくるでしょう」
「あ、マスタ、ここで二つ余ってるのはー?」
「それはフィリーナさんとドヤさんの分ですよ。フィリーナさんは少々遅れるとの事でしたので」
「あれ?芝之とユウ君の分はどうしたんだ?」
「彼らは昨日のうちに受け取っていますよ」
「…………シカトかコラ」
「あ、イファさんこの後空いてる?」
イファが不機嫌そうに呟くのに重ねるように風瀧諒が元気に声を出す。
「あ、あー……空いちゃいるけど」
「よっし、んじゃこの後ちょっと付き合って」
「ぇ゛、いや……」
「よろしくー」
「………………」
「…………楽しそうな顔をして肩に手を置いても宜しいですか?」
「……殴るぞ」
炭鉱の町、クラド。世界的にも貴重な特殊合成鉱物『サイモペイン』の生産をアノマラドで唯一行っている村である。炭鉱の町と言われているがクラド自体は素朴で長閑な空気に包まれており、炭鉱という言葉からイメージするような埃っぽさとは一切無縁のように見える。
そんな平穏なクラドの一角に、グローヌは居を構えていた。
グローヌは芝生公園の面々がたびたび世話になっている医者――より正確に言うとその後に<の卵>と付くが――である。元々は東方の島国の出身との事だが、より進んだ医学を学ぶ為、ここアノマラドにまでやってきたという。また、彼は動物やモンスターに関して並々ならぬ興味を持っており、彼の住居は全ての部屋が医学書と動物及びモンスターに関する書物で埋め尽くされているらしい。
「――で、なんでまたグロさんとこに?」
ドヤさんに薬でも作ってもらうワケ?と聞いてみたが、にかーっと笑うだけで済まされた。どうやら違うらしい。
「おぉーい、グロさーん」
風瀧諒がどかどかと少々乱暴なノックをしながら、中にいるであろうグローヌに呼びかける。が、返事がない。
「…………むぅ」
「留守……じゃないよなぁ」
ドアには緑色の文字で『在中』と書かれたプレートがかけられている。たしか、グローヌの出身国の言葉で、”カンジ”とかいうものだった筈だ。意味は…………
(…………えぇーと、緑で書いてあったら居て、赤なら居ない、だよな。うん)
分からないのだが、特に問題はない。
「どうする、ふーさん?とっとと出直したほうがいいんじゃない?」
イファはそう言いながら、早々に帰って休みたいと風瀧諒の方をちらりと見る、が。
「居るって書いてあるんだし問題ないでしょ。お邪魔しまーす」
そう言うと風瀧諒はドアを開け、そのまま中に入っていってしまった。
「いや、ちょ……あ゛ー、もう……」
イファも風瀧諒に続いて家の中に入る。風瀧諒はグローヌを探しながら家の中を歩いて回っているらしい。「グロさーん」等という声が聞こえてくる。
(……にしてもいっつも散らかってんなぁ。医者やら学者やらってやつは皆こんなんなのかネェ)
イファは足元に落ちていた本を拾い上げながら、部屋を見渡す。床中に散乱した紙くず、よく分からないがおそらく実験に使うのであろう道具。所々にうず高く積み重ねられている書籍。そのせいかもしれないが、部屋全体がなんだか薄暗い。
拾い上げた本のタイトルを読む。<相対性魔導理論における動物とモンスターの差異>試しに開いてみた。
「…………ダメだ。さっぱり分からん」
開いて2秒でそう結論を出すと、本を放り投る。と、その時。
「のわあぁぁぁぁっ!?」
突如、風瀧諒の叫び声が聞こえた。
「ッ!ふーさん!?」
イファは咄嗟に声の聞こえた方向へと駆け出す。廊下にも無数に本が積まれていたため、少々移動に苦労した。そのうえ、廊下の突き当たりで突っ立っている風瀧諒の姿を確認しそこなうところだった。
「おい!ふーさん、一体どうし……」
「いや、あれ……」
「あれって……うお゛あっ!?」
風瀧諒が指した部屋の中を見ると、積み上げられた本が倒れて出来上がったと思われる山があった。しかもその中からは、
「手ェ、出てんな……」
「……どーする?」
「…………どーしよ……」
暫く二人はその場で固まっていた。その間イファは物凄く見た事のある絵だなー、等とぼんやり考えていた。そしてなんともいえない微妙な空気が周囲に漂った後、風瀧諒がポツリと、
「……ていうか助けなくていいのかなぁ」
と呟いた。
「……ふーさん」
「うん?」
「とっとと言わんかああぁぁっ!」
と怒鳴りながら派手に風瀧諒の頭をはたいた後、「助けろっ、掘れ!掘れーっ!」と叫びながら山から本を引っぺがす。今更ながらパニック状態に陥ったイファの姿を見る風瀧諒も「がんばれー」という応援のエールを送る。無論、手伝いは一切しない。
そして数分後。本の山から埋もれていた人を引きずり出したイファは、そのままその場に倒れこんだ。
「ぜぇっ、ぜぇ、ぜ……は……うぇ……つ、疲れた……」
「ご苦労様ー。はいタオル」
「ほら、お水も。本当にご苦労様。大変だったろうねぇ」
イファは風瀧諒から貰ったタオルで汗を拭き、グローヌから渡された水を一気に飲み干した。
「ぁ゛ー、助かるわー……つか、本とっ外してる時にも手ぇ貸して欲しいモンなんだけどねェ、第一グロさんも……」
そこまで言ってふと疑問に思う。ちょっと待て、今自分に水を渡したのは……
「…………グロさん?」
「ん、そうだけれども?」
体に巻きつけるように着る、東方の島国の独特な民族衣装に、つるの部分が紐の輪になっている、珍しい丸眼鏡。目の前にいる人物は、まず間違いなく自分の知るグローヌだろう。
「……なんでいんの」
「ここ、僕の家だし」
いや、そういう事を聞きたいんじゃなくて、と言おうと思ったのだがどうにも本を引っぺがした時のものとは別種の疲れが体を覆ってきたため、早々に話を切り上げる事にした。
「とりあえず、ここで本に埋まってたのは誰なワケ?」
イファはてっきりグローヌが埋まっているとばかり思っていた。違うというのなら、ここで埋もれていたのは一体誰なのか。
「えーと……多分、顔を見れば誰か分かると思うよ」
というグローヌの言葉に、顔に僅かな疑問符を浮かべながらも、仰向けにぶっ倒れている男――仰向けで顔を確認できないが、体格的に多分、男だ――をひっくり返し、その顔を確認する。
「あー、どっかで見た覚えが…………」
確かに何処かで見たような顔なのだが、どうにも名前が出てこない。
「ギガさんじゃないの?この人」
イファの上から覗き込むようにして男を見ながら風瀧諒が言う。
ギガさんね……と呟きながらもう一度男を見る。成る程、顔つきや服装は確かに芝生公園のメンバー、Gigadericのそれと思われるものがある。
「確――かにギガさんやねぇ。でも何か違和感が……」
「これじゃない?」
「うん?」
頭の上に風瀧諒の声と一緒に何か硬いものが乗せられた。手に持って確認してみる……と、
「メガネ……?」
それはGigadericのものと思われる眼鏡だった。成る程これが無くて彼と判別できなかったという事か。
「ギガさんの近くにおっこちてたよ」
頭の上から降ってくる風瀧諒の言葉にふーんと頷きながら、その眼鏡を倒れている男の顔に付けてみる。付けてみると、確かによく見る顔だった。どうやらこの寝ている男は本当にクラブメンバー、Gigadericであるらしい。
しかし、それは分かったがまだ分からぬこともある。それについて質問するため、首を回してグローヌを視界に捉える。
「確かにギガさんやねぇ…………でも、何でギガさんがここで本に埋もれとるん?」
「いやまぁ、それはっ!」
「ッ!?」
しかし、突如大声が聞こえたため、咄嗟に首を戻し前を見る。そこには声の主、Gigadericがあぐらをかいて座っていた。
「ん?ギガさん目ェ覚めてたの?」
風瀧諒が聞く。まぁ当然だろう。
「応。大分前から」
「大分前?」
「あー、ふーくんが俺の埋もれてる本の山を見て大声を上げたあたり、かな?」
「って、最初っからじゃねーかァッ!自力で抜け出しときゃァよかったでしょーがッ!!」
ケロリと言うGigadericにイファが突っ込む。
「あー、そういえば何でここにいるかっつーと、グロさんにちぃっと聞きたいことがあったんだわ」
「聞きたいこと?」
風瀧諒が首を傾げる。
「ん。モンスター博士なグロさんの意見をちょーっと聞きたくてね」
「へー、どんな?」
「そりゃ、『企業秘密です』って事で」
にひひ、と笑いながら体についていた埃をはたき落とし、Gigadericはゆっくりと立ち上がった。
「……で、何で本に埋もれてたワケさ?」
そのGigadericを足元から見上げながら、イファは聞く。
「そういやグロさん、目当てのものは買えた?」
そんなイファの視線を軽くかわし、逆にGigadericはグローヌに聞く。
「あぁ、ギガさんの言ってた通り、あそこの露店商が売ってくれたよ」
「そうか。そりゃ、よかった」
「?目当てのものって?」
「んー、それも『企業秘密です』ってヤツで」
「えぇー」
風瀧諒がクエスチョンマークを出しながら尋ねるが、笑いながらGigadericは回答を避ける。
そしてその光景を見ながら、イファがどうしても言いたかった事を、一言。
「……またシカトかコラ」
「ま、そう気を悪くしなさんな。ちょっとふざけただけだって」
またにひひ、と笑いながらイファの頭をポンポンと叩く。そして、ある事に気付く。
「…………『また』?」
「はい、お茶」
「あら?『リョクチャ』ってのじゃないの?」
「ちょっと切らしててね。ハーブティーで我慢してもらえるかな?」
「うん。全然大丈夫」
「右に同じー」
「以下同文ー」
とりあえず一同は居間へと移り、一旦落ち着いて話をすることにした。
「で、何の用事なのかな?」
「あー、うん。それなんだけどさ……ちょっと見て欲しいものがあるんだ」
グローヌの問いに風瀧諒はそう答えると、ぐるぐると巻いていた赤いマフラーをほどき始めた。そしてある程度ほどいたとき、マフラーから楕円形の物体がコロリと落ちてきた。
床に落ちそうになったそれをイファがおっと、と言ってすくい上げる。
「全く、何やってん…………」
風瀧諒の不注意をたしなめようとしたその言葉が、驚きのあまり止まる。自らが手に持っているもの、それは……
「……た、卵!?」
「へぇ、ゼリッピの卵か。これが見てもらいたいものなのかな?」
驚くイファを尻目に、グローヌが呑気に聞く。
「うん。それ温めたらきちんとゼリッピが生まれてくるのかちょっと分かんなかったから、調べてもらおうと思って」
そして風瀧諒も呑気に返す。
「うーん、有生か無生かはちょっと調べればすぐ分かるけど……一日くらい預かってもいいかな?」
「うん、全然OK。よろしくねー」
「はいはい」
と、グローヌが卵を手に取ったところでようやくイファが動き出す。
「ち、ちょっと待った!何で卵を……」
「芝生も同じゼリッピの友達がいないと寂しいかなー、と思って」
にかっと笑って風瀧諒が返す。
「し、芝生?」
「いつも肩に乗せてるぜリッピの名前」
「あー、成る程。…………じゃなくてッ!何で卵持ってんの!?」
そうだ。モンスターの卵は非常に希少なのだ。何故彼が持っているのか。
理由は簡単に想像することが出来るのだが、それだけは勘弁して欲しい。
「ぁー、うん……」
風瀧諒は僅かに言いよどんだ後、
「この前の任務でちょっと拾って」
予想通り、とんでもないことを言ってくれた。
「……な、な゛…………」
流石に咄嗟に言葉が出ない。なんとかならないものかと他の二人に目力で助けを求めたが、生憎グローヌはずっと卵を手の中で弄んでおり、Gigadericは顔を逸らして肩を小刻みに震わせている。笑いをこらえているのだろう。
「そんなに驚くことかなぁ?」
風瀧諒がまた呑気に言う。
「いや、あのさ……それ、すっげぇマズイ事だと思うのよ。」
「へ?そうなの?」
ようやく搾り出したイファの言葉にも、風瀧諒はやはり非常に呑気な態度で答える。
すると先程から笑いを堪えていたGigadericがようやく助け舟を出してくれた。
「ま、バレなきゃ問題ないし、いいんじゃない?」
風瀧諒の側に。
人事だと思って、と視線で訴えるがあっさりと無視されてしまう。
「やっちゃったものは仕方が無いし、諦めた方が良いと思うよ?」
「グ、グロさんまで……」
グローヌも風瀧諒側に回ってしまった。イファはがっくりとうなだれ、しぶしぶと敗北を認めた。
そんなイファの様子を見てか、グローヌが一応のフォローをしてくれる。
「でも、イファさんの言ってることも正しいから。風君も次からはこんな事はしないようにね?」
「はーい……」
風瀧諒は素直に反省しているようだ。
(ま、別に悪気があったわけじゃぁないしねェ。今回は許してもいいかね)
うなだれる風瀧諒の姿を見て、イファはため息混じりにそう思った……が。
「それじゃ、明日の正午、またウチに来てね」
「はーい」
グローヌの家を出た直後、風瀧諒は鼻歌を歌いながら「早く明日にならないかなー」等と言っている。陽気なスキップまでしそうだ。
(ぁー、うん。分かってた。うん。分かってた……けど、別に悪気があるワケじゃぁないんだし、うん。……うん)
そんな風瀧諒の姿を見て、イファは先程とは大分種類の違ったため息を交えながらそう思った。
そして翌日、二人の下に驚くべき報せが届けられる。
*
という事で公園SS、第三話で御座います。
いえ、お待たせしまくって本当に申し訳ありませんorz
そんな私の不道徳のせいか、先程一度書き上げた際、一部のデータが消し飛びまして……いえ、私の操作ミスだったってだけの話ですがorz
さて、ご覧になった方はもうお分かりだと思いますが、今回、そして次回の主役はイファさんと風瀧諒さんです。
さて、彼らの下にもたらされた報せとは?そして次回の更新は何時になるのか!?
そんな感じでドキドキハラハライライラしつつ、次回をお楽しみに!(一度死ぬべきだ