終章・本能とスタートライン。


貫かれた瞬間に背筋に走った熱い流れの余韻に浸っていると、ロールカーテンの後ろでお店の電灯が消え、辺りが少し暗くなった事に気付いた。
その時、私が無意識に彼の肩に回していた腕に力を込めたのを合図に、彼が突き上げ始めた。

以前、職場を出るのが遅くなった時、

「月末処理とかで夜9時を回って独りで職場にいると心が折れそうになる。」

と、私が苦笑いをした事を覚えていて心理的に怯んだのを察したのだろうか。不安をかき消すかの様に律動を繰り返した。


「っは…あ、あっ…ん!」

不安が快感に流され、声が甘く大きくなる。彼の右の掌が私の左頬を包んだ。

「あ…。」

「世津名さん、『止めないで。』って顔してます。凄く可愛い。」

「や…そんな事言わないで…。」

囁かれた言葉に羞じらいが大きくなった。しかし反射的に、自分の『女性』の真芯を彼の下腹部に押し当てる様に腰が動いてしまい、思いの外、快楽を求めている様子がまた彼を煽ってしまっていた。

「…世津名さんのいやらしい姿、もっと見たい。」

と言うと、繋がったまま私の身体を起こして自分に跨がらせ、両手で胸を触りながら突き上げる。

「…っはぁ!や…あん。」

喘ぐ声がどんどん艶を帯びて嵌まっていき、途中からは彼に合わせて自ら腰を振ったり捩ったりしていた。
彼が上体を起こし、少し見つめ合う。ずっと私が見てみたかった、快楽に堕ちた切なくて苦しいような表情をしていた。
愛しい気持ちになり、彼に自分からキスをした世津名は、徐々に押し寄せる快感が限界に達し、脳内が白く光り始めた。

「あっ…もうダメっ!」

彼の耳元でそう喘ぐと、彼も限界に来ていたらしく、
「…っ、出しますよ。」

そう言った数秒後、彼は私の内側に熱い物を放出し、お互いの手を握りしめながら秘め事を終えた。



…夢は、そこで終わった。
――――――――――――
数日後。


お昼休みから戻った世津名は、異動先の店舗へ挨拶に行ってきたという彼と顔を合わせた。
仕事中はスイッチが入ってクールになってしまう為、言葉をあまり交わせないまま彼が帰った後、大きな揺れが薬局を襲った。


…2011年3月11日。
『東日本大震災』だった。

テレビの画面の向こうから繰り返し流れてくる惨状。故郷を、家族を、友達を、恋人を、大切な物全てを失ったたくさんの方々。海の無い岐阜県にいる私にとって、津波が全てを呑み込む様が受け止め切れず、12日の夜、激しい頭痛を起こして寝込んだ。


あの夢は…子孫を残そうとする動物的な本能によるものだったのかもしれない。

そういえば…何故か、何故か今日に限って彼と距離が近かった。珍しく喋ったかと思えば互いに仕事の件でぶつかったのに、最後には普通に話していたっけ。
仕事ではいつもイライラさせられてばかりいたのに、当たり前の事が来週には無くなると思うと、どうしてか苦しい気持ちになり、思い出すのは彼の事ばかりだった。

だが、恋じゃない。

恋なんかじゃ、ない。

だって、貴方にも私にも今相手がいるじゃない。

好き?

…チガウ。

ソンナハズナイ。


彼と仕事した最後の日。

狼狽えながらも意地を張る私の心にカーステレオから流れるYUIの“es.car”の歌詞が突き刺さる。


多分…恋してる。
貴方のすぐそばに
私じゃダメかな?


まさか…ね。

夢の中ですら、肝心な言葉はお互いに言ってないし。
一人車内で嘲笑しながら、家路へと向かった。
恋のスタートラインに向かっている事に、この時は知る由もなかった。


終。
第五章・DEEPER DEEPER


「…世津名さん?」

鼻を啜っている反応しか無い私に声をかけてきた。

「泣いてるんですか?」

「…違う。大丈夫ですから。」

「無理矢理されて嫌なら、何で言わなかったんですか?何で本気で抵抗しなかったんですか?」

「お互い様だから。あなたがあんな風にセクハラした私に、仕返ししても当然ですから…もう皆にバラして良いよ。それで全て終わりにしよう。」

『…出た、物分かりの良い人。』って位、精一杯の強がりを返して服を着ようと手を伸ばす。
彼はその手を掴んで肩を抱き寄せた。


「…何で、いつもそうやって我慢しちゃうんですか?意地張るんですか?」


…傷付くのが怖いからに決まってるじゃん。中途半端に優しくされても困る…。

やめてよ…何で?


「!?…離して。」


「嫌です。」


「ちょっと何言ってるの!?お互い様な所までしたじゃん!もう終わりじゃないんですか?」

離して貰えなかった上に思わぬ答えにビックリして、彼の肩の向こうに視線を送ったままの私。
その私の右手を取り、彼は自分の『男性』の部分に重ねた。服越しでさえ固く、熱くなってるのが判った。

「…触って下さい。」

「…あ。」

先日は無理矢理にでも服を引き剥がして露にさせていた部分を、あらためて“Do it.”って言われて触れていくのは、何故か恥ずかしくて躊躇う。
顔を見られない様に、触れながらも相変わらず目線は肩越しに焦点を合わせていた。


「世津名さん。」

名前を呼ばれ、少し彼が体を離した瞬間に、頬を紅く染めている事を見られたくなくて、反射的に下を向いた私の顎を上げてキスをした。

「…んっ!」

ビクッと肩を震わせ驚く世津名。唇を一度放して、

「これで…もうセクハラじゃないですよね?僕も世津名さんもお互いを求めたんですから。」

と告げ、再び唇を重ねる。今度は私も逆らわなかった。それが返事だった。


唇を啄むような動きから口内に舌を滑り込ませようと抉じ開ける。呼吸を求めたのを感じてすぐ私の舌を探して絡め、口腔内を撫でていく。

「ん…ふぅ…、あっ…。」

声が甘いものに変わっていく。侵される毎に頭が真っ白になっていき、深い穴に落ちる感覚に襲われて思わず彼に抱きついた。

…キスの後、お互いの顔を少し離したのをきっかけに彼のネクタイをほどき上衣を脱がせた。
体温を感じようと、頬を彼の胸板に寄せながらベルトを外して、下衣を少し下げる。固く熱い彼自身を求めて触れた。
今度は…力づくではなく、心が伴った。自分の愛撫で彼が快楽に身を委せて気持ち良くなっている表情を見せてくれる事が愛しく思えていた。
そして、その気持ちが自分の下腹部にも新な熱を送って、最も『女性』である部分がまた潤み始め、彼を求める。その様子を察して、彼が肩に手をかけて言う。

「世津名さん、脚、こっち向けて下さい。」

「え…はい…。」

触って欲しい。
でもやっぱり恥ずかしくて、少し躊躇う様に返事をした。
濡れた部分に指や舌が這わされると、またジリジリと自分が溶けていくような感覚に陥る。

「あっ、あ…やぁ。」

気持ち良くて狂いそうで、思わず彼への手や口が止まり始める。
私が腰を捩り始めたのを見て、指で真芯を捕らえながら体を移動させ、何度目かの向き合う形になった。


「…もう、限界。」
「私も欲しい。だから…来て。」


熱く硬く屹立した彼が、私の深みに押し当てられた。
本当は、早く繋がりたい。
だが、気持ちを焦らすように入口で擦られてまた蕩けそうになる。

「…っはぁ。」

切なげな吐息が漏れる。
その表情を見てから、彼は漸く私を貫き始めた。



終章へ続きます。
第四章・堕ちて気付く。


…解っていた。


…普通にしててさえ、この子に覗き込まれるように見られる時は、自分が壊れそうになるのを。


顔でさえ恥ずかしいのに、今は…私の一番嫌いな部位と、布一枚隔てた最も『女性』である部分を見つめて触られているのだ。


…止めて、お願い。
だって私はモデルや女優みたいに綺麗じゃないもん。年齢だって貴方より上なのだから、艶やかさだって負けちゃうんだよ。

恥ずかしさと不安で胸が引き裂かれそうになる。

「…世津名さんの肌、白くてスベスベ。」

はあっ!?嘘でしょぉ!ちょっ…コンタクト外してないよね!?

思わず大声を上げてツッコミたくなるような事を言われて驚きを隠せない。そんな私をよそにさらに続ける。

「脱がせたら色白でふっくらしてて、そうでなくても普段は胸強調してて女性らしいラインしてる…誘惑してる事に気付いて無かったんですか?」


「…気付かないです。ふっくらって言われても、ただ太ってるだけだし。ねぇ、もう良いでしょ?服着たいんだけど。」

思わずツンデレになった言葉をスルーし、世津名の腕を掴んで頭の上で固定し、パンツをたぐりよせかけるのを制した。

「まだですよ?ここ、触れてないです。」

と、ショーツの中に手を入れた。

「…!!」

「気持ち良かったんですか?凄く…濡れてます。」

「あ…、やぁ…っ。」

少し話した間に濡れた部分は温度が下がっていたが、彼の指の動きに、再び熱を帯び始める。ガクッと下がる感覚に襲われ、思わず彼にしがみつく。そうして私が快感に酔いしれたのを見届け、ショーツを剥ぎ取り両腿を押し開いた。

「っふ…、や…ダメ…。」

最も人に見せるべきではない部分を彼に曝して、羞恥で頬を染めた。更にそこへ唇を落とされ、舌で内側や中心部の芽を探られる。


「やだ…汚いよ。そんな事しないで…っ!」


最低限の、でも有りがちな台詞で制しても彼は聞きはしなかった。粘膜からジリジリと私の最後の理性を融かしていく。


…私の、敗けだ。


もう何も考えられない。

そう悟って、全身を駆け巡る気持ち良さに墜ちた。

「っああ…!」

最後、叫ぶような声を出して果てた私を見て、彼は顔を上げ満足そうに笑った。


お互いの呼吸を整えている少しの間。



…嫌だ。

胸が…苦しい。

私は先日、どうして貴方に八つ当たりのように身体に触れたのか?

何故彼は逃げなかったのか?逃げずに私の与えた快感に身を委せたのか?

明らかなセクハラなのに、どうして誰にも言わなかったのか?

快楽に溺れた彼の表情に、何故胸が高鳴るのか?


自問自答は更に続いた。

彼は何故、今日私に同じ事をしたのだろう?

私も何故、逃げなかったのだろう?彼の与える快感に身を委せられたのか?

今まで何とも思っていなかった人にこんな事をされて、セクハラどころか受け入れてしまったのは何故だろう?


あの人にとってはただの仕返し。それが当然だと冷静に笑おうとした。


なのに何故か、涙が頬を伝う。


…ソレデイイノ?


『あなたの方がお姉さんなんだから。』


子どもの頃から散々周りの大人に言われてきた言葉が脳裏を過り、泣いて喚きたいのを我慢する心情と似ていた。

物分かりの良い人でいなくちゃいけない。

これで…全てが終わる。
そう思わなきゃ。


なのに、どうしてこんなに辛いの?


背を向けたまま動かない私に、予想外の彼の反応が待っていた。


第五章へ続きます。