座頭市 | 4ALLMOVIEBUFFS

座頭市

座頭市
2003年/日本
監督:北野武
出演:ビートたけし(座頭市)、浅野忠信(服部)、大楠道代(おうめ)、夏川結衣(おしの)、
   ガダルカナル・タカ(新吉)、橘大五郎(おその)、大家由祐子(おきぬ)、
   岸阿部一徳(銀蔵)、石倉三郎(扇屋)、柄本明他(的屋のおやじ)


 スクリーンいっぱいに「座頭市」の文字から始まって、初っぱなからいきなり話が始まるところがかなり好き。六平直政率いるやくざ集団の小汚い身なりを見て何か確かなものを感じた。物語の展開を読めたという意味ではなくて絶対何かやってくれるという心踊るような期待を感じたのだ。

 刀で斬られた時の傷口の本物っぽさは本物と現実にこだわる北野武ならでは。北野作品特有の視覚だけでヒリヒリと痛い。時代劇に必要不可欠な血飛沫の飛び散り方がなんとも芸術的。刀をぶすっと刺した時はホースから一気に放出されたような勢いがあり(これは時代劇の定番)、刀でサッと斬った時はまるで何かの模様を描きながらしなやかに飛び散る(言葉では言い表せない)。後から考えるとスローモーションの多様が気にならないでもないが、やっぱりあの飛び散る血を美しく見せるにはスローモーションが必要だったのだろう。隙なしで見せ場だらけのこの作品は何をどう感想に書いていいやら分からない。

 時代劇は分かりやすい物語が必要とされているが、捻りがなさすぎるのも困る。この『座頭市』は素直にシンプルな物語を用いてひとつひとつの場面をどう見せるかに重点を置いている。シンプルな物語だからと言って全くつまらない話ということではない。最後の最後に軽いどんでん返しが準備されている。この軽いどんでん返しがなかなか憎い。バッサバサに人を斬ってばかりいるだけではなくて、おそのとおきぬ姉妹の幼少期の回想シーンは時代劇にありがちな泣ける話だ。しかし、ここにひとつの真実がきちんと描かれている。単純に泣けるというのではなくて人を斬るよりも残酷で胸をしめつけられるような物語が挿入されている。幼少期のおそのも成長したおそのも生きる術を知っている。儚くて強くて美しい。彼女の舞いにうっとりする。

 金髪の座頭市は全く違和感がない。北野武が言っていたように金髪じゃなかったら作品全体の華やかさ豪華さに負けてしまって目立たなかったかもしれない。主演の持つオイシイ所をかっ攫うと言うよりもどこか控え目ながらしっかりとその存在感を印象付けている。こういう主人公の演じ方はあまり見たことがない。金髪座頭市は確かに物静かで余計なことは言わない。ただ此畜生な奴らを一瞬のうちに斬っていく。人を斬ることに意味などない。自分がやられる前に相手を倒すだけ。彼は何を考えて放浪しているのか。弱い者を殺さないというだけで彼も根っからの悪人だ。人助けと言えば聞こえはいいが、彼と関わってしまった連中は皆あの世へまっしぐら。しかし、あの仕込み杖の持ち方は恰好良かった。

 浅野忠信はいつもながらの自然体を前面に出しつつも今回は努力を重ねたという背景が窺える。いつもの浅野忠信だけど、いつもの浅野忠信じゃない。準主役ながら主役のビートたけし同様彼の持つ存在感が物を言う。作品を見ている時はさほど気になる演技でもなかったのに後から回想すると彼のシーンが物凄く蘇ってくる。何と言ってもさらっとこなしたたすきがけはやはり渋かった。

 主役と準主役の存在は勿論重要なのだが、私が最もいいなと思ったのはガダルカナル・タカ。これは意外だった。博打好きのすっとこどっこいのダメ男がえらく決まっていて恰好良かった。あの着崩した着物がピタっと似合っている。ちゃらんぽらんさが板についているのだが、時折見せる真剣な表情にはっとさせられる。おうめの家でサイコロ片手にどうやったら半か丁か聞き分けられるか特訓しているシーンは多分アドリブだろう。結構笑える。白粉を塗りたくった姿なんざたけし軍団魂健在だ。ガダルカナル・タカ、なんだか気になってきた。

 噂のタップダンスシーン。何故か感激の涙が溢れそうになった。悲しいシーンでもないのに。これは凄い。この喜びの踊りがまだまだ続いて欲しいとさえ思った。