The Real British Secondary School Days

 

著:ブレイディみかこ

 

2019年6月20日 発行

2019年7月15日 第3刷

株式会社新潮社

ドーンセンター情報ライブラリーより貸出

 

読了しました。

最近、文庫化してまた話題になっている本です。

内容が面白く、一週間足らずで読んでしまいました。

イギリス南部の街、ブライトンで保育士として働く

日本人である著者とアイルランド人との間に生まれた

息子が伝統的な公立カソリックの小学校から

かって地域の底辺中学校だった中学校に進学した時の

一年ちょっとのスクールライフを綴った本です。

 

著者のブレイディみかこさんの本は

「This is Japan」を昔読んで大変面白かったです。

リベラル派で差別や階級問題に関心があるけれど、

パンクで上からではなく

下からの立ち位置から問題提起する

その庶民的でパンキッシュな姿勢に好感を持ちました。

 

 

 

本書では今までとは違うイギリス人の労働者階級の生徒が

多数派の中学校に進学した息子が、

学校生活の中で人種差別やアイデンティティの問題、

LGBTQなどのセクシュアリティ、格差社会など

まさにイギリス社会の多様性の中で

様々な問題をどのように感じて、向き合っているかが

その母の視点から語られます。

 

当人の息子ではなく、母親である著者が語ることで

本人の経験や感情が客観的に書かかれて、

より読みやすいと感じました。

また息子とその母親の両方の感想が記述されているので

より広い視野で物事が描写されています。

 

息子の友人のダニエルは東欧の移民出身で

人種差別を受けますが、彼自身も

性的マイノリティや貧しい家庭の子どもを差別します。

誰もが差別される要素も差別する要素も、

両方持ち合わせていると

感じさせられるエピソードでした。

 

中国人の文武両道な生徒会長が

同じアジア人として著者の息子に仲間意識を持つけれども

息子は自分を「日本人」とは自認しておらず、

自分のアイデンティティに悩むエピソードが印象的でした。

 

子どもたちが性的マイノリティを

幼少期を自然に受け止めていることや、

元底辺中学校が音楽や演劇、

シティズンシップ教育などを通して

子どもたちが自主性や多様性に寛容である姿勢を育てていく

教育のあり方は希望が感じられました。

同時に教育にお金を掛けることで、今まで学校が行ってきた

貧しい家庭の子どもへの予算が減らされている問題には

教育現場と福祉のあり方について考えさせられました。

 

本書で幾度も取り上げられている

「エンパシー」(empathy)こそが

作者が一番伝えたいことなのだと思います。

自分が共感する、同意する

シンパシー(sympathy)ではなく

自分とは異なる意見や考えを理解するエンパシーこそが

多様性に溢れる社会に生きる上で

大切なのだと伝えています。

 

思春期の鮮やかな日々の一面から

社会問題を考えさせられる面白い本です。

また公立小中学校でも選択制など

イギリスの教育制度にも触れられます。

単に多様性を礼賛するのではなく、

多様性のある社会の複雑さや問題の中で

それを尊重することの意義を伝える本書は

今の時代を生きる必読本としてお薦めです。

 

私が読んだものは単行本でしたが、

現在文庫が販売されています。

(文庫化されたからか、単行本のリンクは貼れずに残念)

 

 

 

 

続編もあります