The Suffragettes

 英国女性参政権運動の肖像とシルビア・パンクハースト

 

著・中村 久司 (Hisashi Nakamura)

2017年10月発行

株式会社大月書店

ドーンセンター図書館より貸出

 

通勤時に読んでいた本を読了しました。

著者の本は二冊目です。

平和学で博士号を取得された方らしく

常に自分のスタンスを明確に著述されている印象です。

本書はWSPUとシルビア・パンクハーストを中心に

イギリス女性参政権運動の歴史について書かれています。

本書は2部構成で、第一部は女性参政権運動の歴史、

第二部はシルビア・パンクハーストの半生についてです。

本書の最も着目すべき点はシルビア・パンクハーストを

中心に取り上げている点です。

サフラジェットを語る時、WSPUの創設者、

エメリン・パンクハースト夫人と

その娘、クリスタベル・パンクハーストが主に語られます。

しかし著者はシルビア・パンクハーストが

単なるサフラジェットではなく世界レベルの平和主義者として

シルビアの思想や功績を紹介しています。

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B5%E3%83%95%E3%83%A9%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%83%E3%83%88

 

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%A8%E3%83%A1%E3%83%AA%E3%83%B3%E3%83%BB%E3%83%91%E3%83%B3%E3%82%AF%E3%83%8F%E3%83%BC%E3%82%B9%E3%83%88

 

女性参政権獲得100周年にあたる2018年、

英国ではこの運動の大きな歴史的意義を再評価する

多彩な催しが企画され、政府はこれらの企画に

500万ポンド(約7億円)の予算をつけました(p.20)。

政府が女性参政権獲得の歴史を祝うために

これほどの予算を費やすことを私はフェミニストとして称賛します。

日本では考えられないと思います。

英国では女性参政権運動の歴史は義務教育課程においても

広く取り上げられるそうです(p.138)。

日本でも公教育でもっとフェミニズムの歴史を教えるべきと思います。

しかし著者はWSPUの活動の中心が

あたかも破壊活動であったかのごとく、誤解を与えがちなものが多く、

さらに何故、破壊活動を行ったかの理由についても

詳しく言及されていないと批判しています。(p.138-139)

女性参政権論者は80年近く平和的な手段で

国会議員と社会に訴え続けており、

WSPUも設立以来8年間は

組織的な破壊活動を行っていません。(p.139)。

WSPUの過激な行為はこの結果を踏まえての行動であります。

 

WSPUの活動は日本のフェミニズムにも影響を与えていたようです。

市川房枝は「Vote for Women」と書かれたプラカードを掲げた

パンクハースト夫人をモデルにした人形を

寝室に飾っていました(p.18)。

また婦参獲得同盟の機関紙「婦選」は、シルビア・パンクハースト著

「The Suffragette」の抄訳を戦前に連載していました(p.18)。

さらに市川房枝は1930年代初頭には、

「英国の総選挙と婦人」をテーマに記事を書くなど

各国の参政権運動を日本へ紹介していました(p.18)。

 

WSPUは「Suffragist」(サフラジスト)と

「Suffragette」(サフラジェット)の違いを

問われて、「Suffragist」は女性参政権を欲しがる人びとで、

「Suffragette」は女性参政権を獲得する人々だと

答えています (p.40)。

この回答にWSPUの強い意志とウィットを覚えます。

「Suffrage」(参政権)を「get」(獲得する)=Suffragette

と名は体を表す結果になったことは

サフラジェットがそもそも嘲りと非難の意味でつけられたことを

鑑みると皮肉な命名です。

 

シルビア・パンクハーストはエメリン・パンクハーストの次女で

WSPUとのメンバーとして活動しますが、

後に離脱し、イースト・エンドというロンドン屈指の貧民街で

女性参政権だけでなく労働者のために運動するようになります。

 

シルビア・パンクハーストは

女性に参政権がないことは「女性差別」であり、

財力がない男性に参政権がないことは「男性差別」であり、

解決すべき問題は「人間差別」と考えました(p.195)。

このような視点でイースト・エンドにて女性参政権運動を

開始するとすぐに、より根本的な問題に直面しました。

貧しい住民の多くにとって女性参政権より緊急に

その日の食べ物と仕事が必要でした(p.195)。

シルビア・パンクハーストは困窮した社会・経済状況の

イースト・エンドでは参政権を得るだけでは

大多数の住民にとって大きな意味がないと考えました(p.196)。

このような生活を人びとに強いている

経済と社会システムを変えなければ

投票権という1つの権利の獲得には

限られた価値しかないと実感します(p.196)。

そしてシルビアは自分の役割を

組織のメンバーと地域社会の人々の力を養う

「empowerment」(エンパワーメント)と考えました(p.199)。

この考えによりシルビアは集会で自らが発言するだけでなく、

毎回地域の女性に演説させました(p.199)。

自らの言葉で自ら発言する機会を持つことが

女性をエンパワーメントする1つの方法だと考えたのだと思います。

 

WSPUが第一次世界大戦で活動を停止し

政府に対して戦争協力するのに対し、

シルビアの組織、ELFS

(East London Federation of the Suffragettes)は

戦争反対を訴えます。

ELFSは女性に参政権を与えないという

根本的に非民主的な男性だけによる政治が

ドイツとの戦争をもたらしたと主張しました。

その上に、男性のみの意思決定で遂行されている

戦争の被害者である女性が、

戦禍を改善・解消するために政治に参加できないのは

二重の意味で非民主的であると批判しました(p.226-227)。

著者はシルビアが女性参政権のためだけでなく

労働者のために地域に根ざして活動したことを高く評価しています。

本書では日本では全く知られていないシルビアについて

述べている非常に価値のある本でありながら、

彼女がどのようにエチオピアで国葬されるようになったかの

後期の人生に触れられていない点が残念でした。

 

イギリスの女性参政権運動や社会主義運動に

興味のある方にお薦めです。

シルビアの活動のスケールの広さに感動しました。