今回ご紹介する論文は単一精子凍結についてです。

 

単一精子凍結とは、重度の乏精子症や非閉塞性無精子症など精子が非常に少ない症例で精子凍結をする際に用いられる方法です。

通常の精子凍結で精子数が非常に少ない症例の場合、ICSI時に精子の捜索に時間がかかってしまい、最悪の場合、精子の回収ができないこともあります。

単一精子凍結はこの問題をクリアするべく、開発されました。

精子を観察、取り出しやすい物質に入れて凍結保存する方法や、凍結保護剤で作成された微小液滴に精子を入れ、凍結保存する方法が開発され、その方法について現在までさまざまな検討がなされてきました。

本論文では単一精子凍結が行われた検討をまとめ、今後の展開について記載されています。

 

生物的凍結保存法

凍結担体に生物、もしくはその一部を用いた凍結保存方法です。

操作はしやすい反面、他生物のDNAが混入するリスクがあります。

 

①     透明帯保存法

卵子の細胞質成分を除去、透明帯のみの状態にし、ICSI針を用いて個々の精子を注入して凍結保存する方法です。

透明帯は精子より大きいため、観察・操作が容易な利点があります。

しかし、卵子の一部を用いるため、生命倫理上の問題がある、ICSIの際に透明帯由来のDNAが持ち込まれる可能性がある、精子の先体反応誘発の影響が懸念されるという問題点があります。

 

②     Volvox globatorの球体内での単一精子凍結保存

Volvox globatorという藻類を利用して凍結する方法です。

直径0.5∼1.0mmという大きさと緑色をしていることから、精子の識別と操作が容易であり、

最大の利点は卵子の利用を禁止している国でも可能な点です。

しかし、藻類から卵細胞への遺伝物質の移行の可能性がある欠点があります。

 

 

非生物的凍結保存法

人工のカプセルを作成し、少量の精子を凍結する方法です。

これにより、生命倫理の問題点や、他生物のDNA混入のリスクがクリアされています。

しかし、この凍結方法の共通の欠点にカプセルの作成が困難な点があります。

現在ではあまり研究は進んでいません。

 

①     重合アルギン酸カプセル

非生物的なカプセルを使用した凍結方法です。

重合したアルギン酸ビーズは肝細胞や幹細胞の凍結保存に成功しています。

化学的不活性(化学的な反応を起こしにくい)という利点があるものの、

操作が複雑、従来の標準的なプロトコルと比較して運動性が約20%低下したという報告もあります。

 

②     中空コアアガロースカプセル

アガロース微小球体を用いた凍結方法です。

操作が容易、低毒性であることが利点ですが、報告数が少なく、臨床応用するにはデータ不足です。

 

③     中空ヒアルロン酸-フェノール性水酸基マイクロカプセル

凍結融解後の精子運動性に影響を与えないと報告されています。

この方法も報告数が少ないため、臨床応用するにはデータ不足です。

 

 

ガラス化担体を用いた精子凍結保存

卵子などの凍結に用いられてきた担体を用いて、ガラス化という凍結を行う方法です。

ガラス化凍結とは液体窒素を用いて、細胞にダメージを与えてしまう氷晶を形成する温度を一気に通過させ、細胞に損傷を与えない凍結方法です。

 

①     クライオループ

従来の凍結精子で観察されたものと同等の運動性、DNAの完全性が報告されています。

換気口があるため、液体窒素中でウィルスや細菌などが混入する可能性があります。

(精液を遠心処理することによって、ウィルス及び細菌を検出可能なレベル以下に低減することができますが、それでも汚染のリスクがあります。そのため、密閉可能な容器で凍結保存することが望ましいとされます。)

また、表面のフィルムに液滴が付着し、保存に失敗する例があったと報告されています。

現在、この方法はほとんど使われていません。

 

②     培養皿

組織培養皿に微小液滴を作成し、そこに精子を入れて凍結保存する方法です。

高い精子回収率、操作が簡便な利点がある一方で、密閉が困難であることから、

液体窒素中での長期保存ができない点、混入のリスクがある問題を抱えています。

 

 

③     セルスリーパー

凍結時の操作が簡便、高い精子回収率、DNA損傷の少なさ、閉鎖可能な容器のため、混入のリスクが低い利点があります。

しかし、融解した精子を探す時間がかかってしまう欠点があります。

ニプロ株式会社 リンク

https://med.nipro.co.jp/med_eq_category_detail?id=a1U1000000b535cEAA&name=%E7%B4%B0%E8%83%9E%E5%87%8D%E7%B5%90%E4%BF%9D%E5%AD%98%E5%99%A8%E5%85%B7%EF%BC%88%E7%B2%BE%E5%AD%90%E3%83%BB%E5%8D%B5%E5%AD%90%E3%83%BB%E8%83%9A%EF%BC%89#FeatureHeadline

 

④     クライオトップ

胚の凍結にも用いられている担体で凍結保存する方法です。

クライオトップ先端に液滴を作成、精子をのせて液体窒素に入れ凍結します。

解凍後の精子回収率、生存率が高く、DNA損傷が少ないとの報告もあります。

また、クライオトップ法での出産報告があり、現在40ヵ国以上で採用されています。

 

 

⑤     クライオリーフ

独自開発されたクライオリーフベクターを用いて凍結する方法です。

個々の精子を効果的かつ簡便に凍結保存することができ、融解後の受精率も新鮮精子と比較しても差はみられないと報告されています。

しかし、操作に迅速さが要求され、手技に熟練する必要があります

現在では臨床利用が制限されており、クライオピースベクターに置き換えられています。

 

⑥     クライオピース

中国で実用化されている凍結保存方法です。

この方法を用いて、2016年に中国ではじめて単一精子のクライオチューブベビーが誕生したと報告されています。

融解後の精子回収率、運動率が高いと報告されています。

 

⑦     クローズドスライス

自作の無毒性ポリプロピレンフレークと従来のクライオバイアルで構成された凍結担体を用いた凍結方法です。

融解後の精子回収率、生存率が高く、新鮮精子と比較して受精率に差はないと報告されています。

閉鎖可能な容器のため、混入のリスクが低いという利点があります。

 

⑧     SpermVD

SpermVD上に作成された微小液滴に精子を移し、クライオバイアルに入れて液体窒素で凍結する方法です。

融解後の精子捜索時間が大幅に短縮され、精子回収率も高いです。

閉鎖可能な容器のため、混入のリスクが低いという利点があります。

しかし、これまでの検討で非運動精子は凍結されていないため、非運動精子に対する有効性が不明な点が懸念されています。

 

以上が現在まで検討されてきた単一精子凍結方法です。

 

現在まで臨床に使用できる理想的な容器はまだ開発されていません。

これまで紹介してきたそれぞれの凍結方法には長所と短所があります。

今後の研究では様々な精子凍結方法の評価をするために、より詳細な研究が必要であると言及されています。

 

最後に、この分野のさらなる発展は、不妊治療の期間を短縮し、受精率と妊娠率を向上させることができると本論文ではまとめられています。

 

参照文献:Cryopreservation of single-sperm: where are we today?

Reprod Biol Endocrinolv.18; 2020 PMC7216378

リンク:https://rbej.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12958-020-00607-x

(各凍結担体の画像は論文内に掲載されていますので、詳細はそちらをご覧ください。)