kyupinの日記 気が向けば更新 -735ページ目

ドグマチール

一般名;スルピリド

(=アビリット)

精神科でこの薬ほどいろいろな疾患に処方されているものはないと思われる。一般には軽度のうつ状態や統合失調症に処方されている。その他、食障害や境界型人格障害のような神経症範疇の疾患やてんかんの精神症状などにも広く処方されている。精神科医からすれば、とりあえず失敗が少ないし効果が比較的早く出るので、非常に便利な薬といえる。ドグマチールをうまく使える精神科医は、非常に名医なのだ。(自覚症状を早期に改善することが多く、精神科に来た甲斐があると感じる。) 普通、抗パーキンソン薬の併用の必要がなく、1日、1回処方で問題ない。(夕方だけ150mg服用とか) 半減期もわりと長く効果が安定していて、仕事をしている人が困るほどの副作用が少ないので、敷居が低いのである。健康な人が服用した場合、少し眠い。しかし既に他の向精神薬を服用している場合や、長く精神疾患を患っている人には眠さが感じられないことも多い。


ドグマチールはほんの数年前まで、精神科外来できわめてウエイトが高い向精神薬だった。特に軽度のうつの場合、とりあえずこの薬で軽快する確率はかなり高かった。長く患っている患者さんでも、初診当初にドグマチールを服用して、その時はいったん良くなった記憶がある人が多い。これは、必ずしも病名にかかわらない。現在でもなお有用であると思うが、近年に限れば少し様相が変わって来ていると思われる。その原因はデプロメール、パキシル、ジェイゾロフトなどのSSRIが発売されたことと、インターネットの普及である。インターネットによる検索、情報交換が可能となり副作用が見過ごされなくなった。(患者さんの副作用に対する意識が高まったと言える) ドグマチールの重要な副作用に、高プロラクチン血症およびそれにともなう女性の乳汁分泌、無月経がある。男性ならば、インポテンツや性欲低下などが起こりうる。肥満の副作用も広く知られるようになった。現代社会では、肥満の副作用は、非常に重要視されている上記の副作用はSSRIの場合、無いか、非常に少ないので、ドグマチールよりも処方が多くなっているのである。ドグマチールはSSRIの発売以来、相対的な価値は低下してきていると思われる。使用量であるが、普通100mg~600mgの範囲で処方されることが多い。(50mg、100mg、200mgの剤型があり、2~3錠の範囲で出されやすい) 時に1200mgだとか、2000mgの高用量の処方がされることもある。これは特別な事情によるが、大量に処方する場合、中程度の抗精神病薬のように振舞うことが理由のひとつである。


知っておいてほしいのが、SSRIとドグマチールは作用機序が全然違うので、ドグマチールで良かった人がSSRIに変更して必ずしも良いわけではないこと。現在でも、SSRIよりドグマチールが断然良い場合もけっこうある。現在では、僕はドグマチールを比較的処方しないタイプの精神科医に入る。以前は好んで使っていた時期もあったが、今はなるだけこれを使わないで治療する努力をしているのだ。現代社会では、「ドグマチールは必要不可欠な薬物である」というほどの評価はしていない。ドグマチールはフランスで開発され、日本でも長期間使用されてきた。しかしこの薬はアメリカでは未発売で、そのためアメリカでの研究がほとんどなされていない。すなわち、かなり有名な薬物ながら、意外にワールドワイドな薬ではない。ある時(2000年以前)、アメリカの本屋で精神科薬物についての書物を立ち読みしていると、トピック的にスルピリドのことが触れられていたことがあった。非常に短かったが、最後に「まぁこれは(アメリカ国内には)いらんだろう」と書かれてあったので笑った。プロザックなどSSRIの歴史が長いし、これからアメリカで発売されることはないと思う。(これは2000年頃にウエブにアップした過去ログを加筆したものです)


精神疾患と生命保険について(その2)

生命保険を加入する前に、現在、病気で治療中であるかどうか調査書に記入させられる。これは病気がある場合、加入してからいきなり保険金を受け取ることもできるわけで健康である人に比べ著しく公平を欠くためだ。このルールは精神疾患に限らず、すべての疾患についても同様である。病気があるのにもかかわらず、それを書いていない場合、「申告義務に違反する」とされ、保険金が支払われなくなる。


過去に罹患したものに関しては、時間が経てば問題がない場合も多い。例えばインフルエンザがもう治っているのにいつまでも加入できないなら、それはむしろ保険会社の損失になってしまうからだ。もし病気になってから加入可能なら、健康な時は誰も保険に入らない。というか健康な時に入る意味があまりない。


精神疾患の場合、思春期に発病する可能性もあるわけで、現在の日本の経済環境だと加入していない人も多い。もう勤めを始めてから発病した場合なら、加入しているケースも多くなる。だから精神科医からすると、精神科の入院患者は生命保険を受け取るケースが少ないように感じる。いつの時点で生命保険に加入したかが大切で、おおおざっぱに言えば、最初に精神科にかかった初診日が基準になる。初診日以降に生命保険に加入している場合、普通、その疾患が原因なら何があっても支給されないのが普通だ。申告義務に違反しているからだ。精神疾患を申告していたなら、生命保険に加入するのはおそらく難しい。ここで、わかりやすいように例を挙げる。


2001年1月、不眠が発生。学校(仕事)を時々休み始めた。

2001年7月、○○生命保険に加入。

2002年1月、うつ状態を呈しAメンタルクリニックを初診。以後、外来       通院する。

2002年4月、申告せず△△生命保険に加入

2002年10月、病状悪化し、B精神科病院に転院。外来通院を開始。Aクリニックには通院しなくなる。

2002年12月、病状が更に悪化し、2ヶ月の入院。

2003年2月、軽快退院後、外来通院を継続。


こんな場合、一般的には、○○生命保険の入院給付金の受け取りは可能だが、△△生命保険は受け取りは困難である。この患者さんの場合、2001年には1月には既に精神疾患は発生していたかもしれない。専門的に言えば、2001年からの不眠を含めた精神面の不調は一連のものである可能性が高い。もちろん断言はできないが。当時、本人には病気になったという意識が乏しいであろうし、だいたい病院にもかかっていない。Aクリニックの初診時には、きっと2001年1月には不調であったということを話していたと思われる。初診時には通常こんな風に病歴を聴かれるものだ。だから、もし主治医に病気の発生(この日を記載する欄が生命保険の診断書にある)は2001年1月と診断書に書かれてしまった場合、○○生命保険会社でさえ、入院給付金が支給されるかどうかが微妙になる。この申告義務違反があるかどうかの調査が必要になり事態が複雑になるのだ。


こんな時は、たいてい調査専門の会社の調査員が病院に事情を聴きにやってくる。(生命保険会社は調査は外注に出すようだ) 上の例の場合、2001年1月と発生日とされた場合でも判断は微妙だと思われる。なぜなら患者さんに悪意がないと思われるからだ。支給するかどうかは保険会社の個別の判断による。


ところで医師からすれば、そもそも病気の発生を2001年1月と書く必然がない。なぜなら、不眠や体調が悪くて会社を休むなんてことは、普通の人でもありうるからだ。つまり、2001年1月の疾患発生には証拠がない。精神疾患は、何年何月何日に突然発病するとわかるものは極めて少なく、診断書の発病日も「何年何月頃」くらいに書かれることが多い。したがって上記の場合、発病日の判断は医師の裁量に任される範囲と考えられる。はっきりと存在するのは初診日だけだ。だから患者さんの方もいつ生命保険に加入したか良く確かめて診断書を書いてもらわないといけない。(医師もそれを心得て診断書を書かないといけない) ちょっとしたうっかりで、保険金が出なくなるのはバカらしい。


絶対あいまいにできないのは初診日で、これだけは変更できない。これは書類上、厳然と確定されたものであるからだ。これをごまかした場合、保険金詐欺と同じだ。だいたいこれができるなら、どんな不正もできると言える。


(以上その2は終わり。その3に続く)


遺伝子と疾病

「すべての疾患が遺伝子に由来する」というのは、ちょっと極端な言い方だった。「すべての慢性疾患は、遺伝子に深く関係するものが大半である」というのが、ほぼ正しい書き方だと思った。なぜなら風邪などの疾病は、遺伝子とほぼ関係がないからだ。慢性疾患、例えば、糖尿病、痛風、アトピー性皮膚炎、統合失調症、胃潰瘍などは遺伝的に親和性が高い人々がいる。遺伝子に関しても、潜在的に発病しやすいといったようなかかわり方ではある。


例えば、一卵性双生児の場合、統合失調症の一致率は70%程度といわれる。ただ、別な親に育てられた場合は、少し違った確率になるため、この70%という数字はもちろん環境要因も含まれている。というのは、双子の場合、同一の親に育てられることが非常に多いためだ。偶然、違う親に育てられた場合、当然一致率は下がる。つまりこんな状況でさえ環境要因は大きい。皆は、この70%の数字は驚くような高確率に思われるかもしれないが、僕は30%が一致しないことにむしろ驚く。ほとんどが、同じ親に育てられるために、環境リスクもほとんど同じだからだ。


実は、この統合失調症の双子研究は詳しく研究されているジャンルであって、一卵性双生児でさえ、完全な遺伝子の一致は実現していないということがわかってきている。僕は、この研究者でもなんでもないので、いつか偶然調べた時のことのうろ覚えなんだが、双生児の胎盤からの血流にいろいろなパターンがあり、そこで感染が起こるためという。感染の際にイレギュラーが生じ、双子の遺伝子に相違が起こる。だから、胎盤から胎児につながる血管の微妙なアノマリー(どの時点で分岐するとか)により、一卵性双生児における統合失調症の一致率(上の70%)はバラつくのだ言われている。


つまりだ。神様は、完全に同じものを2つ作りたがらないのだろう。これは生物の進化について考えると、当然のことのように思われる。


精神疾患と生命保険について(その1)

精神疾患のため入院をした場合、入院期間に応じて1日あたりいくらという感じで保険金がおりる。これは当然のことなのであるが、ずっと以前はそうではなかった。1985~1986年頃は、生命保険で支払われる病名で精神疾患は除外疾患になっていた。当時ようやく、疾患対象によっては支払われるようになっていたような状況で、例えば「うつ病」だと支払われないが、「抑うつ神経症」なら支払われていたような記憶がある。


支払われない理由だが生命保険の言い分は、「精神疾患は遺伝病だから」ぐらいだったと思う。つまり、その素因を持たない人に比べ、元から素因を持つ人に支払うのは公平を欠くという見解だった。かなり変な理由ではあった。なぜならその当時既に、すべての病気は遺伝子に由来するという考えが浸透し始めていたからだ。上で、抑うつ神経症なら支払われるが、うつ病ならダメという考え方も、統合失調症とうつ病は内因性精神病であり、それに比べ抑うつ神経症は環境や後天的な要素が大きいと判断されたからあろう。


その後日本にバブル期が訪れ(1986~1990年)、土地、株などの値上がりで生命保険会社が大変儲かった時期がある。含み資産が膨大になり、生命保険会社の経営はかなり余裕があった。当時、日本精神病院協会などが生命保険会社に働きかけて、精神疾患でも保険金が受けられるようにしてもらったという。(という話。細かいところは自信なし) その後、デフレなど予想もしないような経済的苦境に日本経済は陥ったので、本当に良い時期にルールを変更してもらったと言えた。生命保険会社がいくつか潰れるような不況が長期間に続いたから。


生命保険会社が精神疾患に対し保険を支払い始めてからも、規定があって支払われない疾患があった。それは、覚醒剤、麻薬による後遺障害などの精神疾患と、アルコール依存症である。これは、明らかに本人の落ち度があると考えられる疾患であり、麻薬・覚醒剤にかかわるものは現在でも支払われない。これは当然といえる。しかし、アルコール依存症は比較的長く例外になっていたが次第に考え方が変わり、近年では支払われるようになっているらしい。(実は当院はアルコール依存症は扱わない方針で、そんな人が入院することがなく、僕はアルコール依存症の生命保険金診断書を書いたことがないのだ)


支払われない理由の本人の落ち度だが、アルコール依存症の場合、一概に本人の落ち度のみといえない面がある。まあ、ある程度、依存症の要素があるにしても、アルコール依存症の人はうつ状態などをしばしば合併しているので、それをメインに書けば診断書としては良いような気がする。紆余曲折を経て、統合失調症とうつ病の2大疾患は保険金を受けられるようになったのである。



アモキサンとルジオミール

ずっと以前の話だが、そうね1990年頃は、抗うつ剤の売り上げはアモキサンとルジオミールが双璧だった。不思議なことに、東日本ではアモキサン、西日本ではルジオミールがトップであり、地域で使われ方の違いが見られた。僕は当時、もっぱらアホみたいにルジオミールばかり使っていた。ルジオミールの欠点は、眠くなることである。4環系なので、トリプタノールやトフラニールより概ね副作用は少ない。効果はなかなかのもので、ルジオミールで決着がつく確率は高かった。僕は最高225mgくらいまで使ったが、だいたい150mgを上限にしていた。ルジオミール150mgで決着がつかない場合、その患者さんのうつ状態は手ごわいと感じた。ルジオミールでうまくいかない場合、どうするかと言うと、たいていアナフラニールやトフラニールかトリプタノール等に変更したが、トリプタノールは最強の抗うつ剤という意識はあった。実際、現在でもトリプタノールは最強の抗うつ剤である。(と思う)


当時、トリプタノールをガンガン使うにも、副作用のため処方し辛い面があったので、実用上はルジオミールが最高の抗うつ剤と言えた。ルジオミールでやや危険な副作用は、痙攣発作である。痙攣発作は、抗うつ剤全般にありうる副作用であるが、ルジオミールは、添付書なども注意を喚起してあるほどで、やや他の抗うつ剤より確率が高い。それでも、今まであれほどの処方歴があるのにもかかわらず、痙攣発作が出現したのは2回(2人)だけだ。特に近年では、SSRIの処方が断然増えたので、ルジオミール自体の処方がかなり減っているために、なおさらお目にかからない。あるとき、ある婦人に痙攣の副作用が生じたが、たった65mgだった。量はたぶん依存すると思うが、少なければ安全というものでもなさそうなのである。その後、アモキサンを頻繁に処方する時期があり、現在では、この2つの抗うつ剤は力量はあまりかわらないと思うようになった。この2つの抗うつ剤は、極めて優れた、悔いのない抗うつ剤なのである。アモキサンは、25mgカプセル(赤、白のツートン)、50mg(白のやや大きめのカプセル)を使用している。現在では、アモキサンの処方がルジオミールより断然多い。なぜかというと、ややアモキサンの方が、眠さとかの面で使いやすいことによる。長く処方していれば、アモキサンの方がやや切れ味が鋭いような感覚がある。それと比較的、効果の発現が早い。アモキサンは300mgくらいまで処方できるが、僕はそこまでは頑張らないことが多い。だいたい多くても150~200mgまで処方してうまく行かない時は諦める。その後にルジオミールを処方するかと言えば、そうはならなくて、たいていアナフラニールの点滴をしたり、トリプタノール錠に変更している。


アモキサンはやや難しい薬物で、飲めない人は全然飲めない。なんだかわからない書き方だけど、元の症状が悪くなったような、焦燥感を交えた非常に苦しい状況に陥ることがあるのだ。アモキサンは、抗精神病薬のような抗ドパミン作用をあわせ持つが、診療上、そういう風に感じることはあまりない。が、老人(特に女性)に処方すると、ジスキネジアなどが生じることがあるので、やはりそういう面もあるんだろうね。今更、こんな薬物についてこんな風に書くのはちょっと時代おくれじゃないのか?と思う人もいるかもしれない。しかし現在でも、こんな古い薬でしか良くならない人があんがい多いのだ。精神科の業界では、うつ病ないしうつ状態はよく遭遇する病態であり、しかも最も良く治るのである。うまく行かない人は、他の疾患が混じっているか、治療が徹底して行われていないためだ。僕は友人が何人かクリニックなどで開業しており、どうしても良くならない患者さんの紹介を受けることが多い。なぜ、僕に紹介するかというと、最終的になんとかなることが多いからだ。あと、僕は電撃療法の選択肢もあるため、その治療を具体的に指定して紹介を受ける場合もある。


僕に紹介があった時のパターンだが、パキシル40mgぐらい使ってほとんど良くなっていないと言うのが多い。(というか、パキシル40mgで良くなるくらいなら、最初からうちには来ない)あるいは、3環系あるいは4環系の抗うつ剤がそこそこ使われていてうまくいっていない場合もある。そんなこともあり、僕は、SSRIでうまくいかない患者さんを治療する機会が多い。あと、最初に当院に来たような初診の患者さんで、明らかにアモキサンで良くなるようなタイプの人には最初から使うこともある。SSRIだと時間がかかるし、結局ダメな時、2度手間になるためだ。時間がかかって、なおかつ良くならない場合、患者さんの失望が大きい。若い患者で自殺の恐れがある場合、SSRIだと、鬱がたいして良くなっていないわりに焦燥感を煽ってしまうようなケースもあって、最初からSSRIでの治療が向かないこともある。SSRIは副作用が少ないから良いと単純にはいえない。口渇、尿閉、便秘とか誰にもわかるようなはっきりした副作用が少ないだけで、一見わかりにくい副作用というか、有害作用が潜在的にある。最後にこんなことを言うのは変だけど、当院での最も処方件数が多い抗うつ剤はパキシルなのである。