精神科治療中の中毒疹とプレドニゾロンの話 | kyupinの日記 気が向けば更新

精神科治療中の中毒疹とプレドニゾロンの話

向精神薬治療中に薬物による中毒疹が生じることがある。精神科の薬ではラミクタール(ラモトリギン)で起こりやすいことが知られているが、他の薬でも生じうる。

 

中毒疹は向精神薬では抗てんかん薬のうちラミクタールとテグレトールに多いが、同じ抗てんかん薬でもバルプロ酸は多くの人たちに処方している割に起こりにくい印象。ガバペン、トピナ、ビムパット、リボトリールもかなり稀だと思う。

 

向精神薬全体では、ベンゾジアゼピン系の抗不安薬、眠剤ではかなり中毒疹は稀である。しかし旧来の抗うつ剤では時々見る。特にルジオミールは他の抗うつ剤より多いように見える。SSRIはあまり出ない印象である。おそらく抗うつ剤に関しては新しい薬の方が古い薬よりは中毒疹は起こりにくい。

 

抗精神病薬に関しては非定型抗精神病薬は中毒疹はなくはないが、あまり出ない印象である。少なくともコントミンよりは遥かに稀である。いわゆるコントミンを代表とするフェノチアジン系は中毒疹が出やすい。古い抗精神病薬に関してはブチロフェノン系の方がフェノチアジン系より中毒疹は少ないように見える。例えばセレネースは中毒疹は稀だと思う。

 

中毒疹は抗アレルギー薬を投与しておけば数日でほとんど消失するレベルと、粘膜などにも発赤があり、眼瞼結膜にも充血が及んでいるような際には皮膚科に受診させる。改善まで時間がかかりそうだからである。

 

このような時、プレドニゾロンなどのステロイドが投与される。今日はこれに関する記事である。精神疾患を治療中に何らかの薬物で中毒疹を生じその治療のためにステロイドを投与された後の精神症状の経過である。

 

 

上は参考記事だが、一般的に精神疾患では女性ホルモンは治療的に働き、これが更年期までの統合失調症の重篤度の性差に関係していると言われている。つまり更年期までの女性の統合失調症の患者さんは女性ホルモンに守られて男性ほど重篤化しないのである。

 

長期間、統合失調症の女性入院患者さんを診ていると、更年期に一段と悪化し日常生活レベルが下がる人が確かにいる。これらの要因の1つはおそらく女性ホルモンの低下であろう。この結果、この世代に統合失調症の女性の予後が男性に追いつくのである。

 

ステロイドは一般に精神科では短期的に改善の方向に働いているように見えるが、ステロイド単独で完治はほぼない。またステロイドは処方が必要な身体疾患がないと副作用を考慮すると使い続けられないので治療薬とはみなされない。

 

ある時、ある女性患者さんの治療中に中程度の中毒疹が生じ、プレドニゾロンを投与することになった。驚くことに、それまでのいかなる向精神薬よりプレドニゾロンが効いたのである。そのようなことから、皮膚科医による減量スケジュールを少し延長して使ってみたところ、時間的猶予もできて、向精神薬だけの安定した治療ができるようになった。

 

この話は、精神疾患は安定させるまでは大変で、いったん安定してしまえば、向精神薬の少ない用量で維持することは比較的易しいことを示している。

 

しかし、ステロイドを使ったために悪化する人も一部にいる。精神科医から見ると、ある向精神薬で中毒疹が出たとしても、その薬物の治療パフォーマンスとは無関係である。つまり独立事象である。

 

例えば、ラミクタールはとても治療的なのに中毒疹が出て止めざるを得ないことは普通にある。また、テグレトールで驚くほど効いているのに中毒疹で中止ということもある。

 

ある患者さんはテグレトールが奏功していたが、中程度の中毒疹が出たために中止となった。ところが、テグレトールを中止しプレドニゾロンを投与した際に著しく病状が悪化した。これはプレドニゾロンが全く効かないと言うよりむしろ悪化させているように見えたのである。そもそも、今の時代にテグレトールまで使わないといけないような人は難治性である。リスクを取らざるを得ないわけだからである。

 

プレドニゾロンは中毒疹に対し処方される場合、初期に大量を使いその後漸減するスケジュールになる。この患者さんは漸減中、適量と思われるプレドニゾロン用量があったのである。つまり、この患者さんはプレドニゾロンは大量だとむしろ悪化するが、少量だと治療的なのであろう。これはプレドニゾロンの大量では賦活的に作用し、興奮を惹起するのかもしれない。だから悪化に見えるのである。

 

リエゾンの現場では、恒常的にステロイドを投与されている患者さんの治療を依頼される。初診時、ステロイドが精神症状に治療的に働いていて今の病態なのか、明確にステロイドによる悪影響によるものかわかりにくい。その人の生活歴・病歴をリアルタイムで診ていないからである。

 

ほとんどの場合、基礎疾患から「一度ステロイドを中止して様子を診ましょう」と言う選択肢は取れないので、ステロイドを使ったままなんとかせざるを得ない。

 

ステロイド投与下では、向精神薬のキレはかなり鈍るので、思ったより効果が出ないという経過も多い。ステロイドは向精神薬の薬効を妨げているようには見える。しかし、ステロイド投与下では抗精神病薬は無意味かと言えば、治療ができないほどではないのである。

 

膠原病は重度のカタトニアを呈することがある。これに対し、長期にわたる抗精神病薬投与でかなり改善したケースを経験している。ただし、一般的な処方量よりずっと多い用量であった(上限以下)。その人は経過中、ステロイドを中止することはなかったのである。

 

最後のパラグラフの参考