交通事故後の体調不良と精神科治療の話 | kyupinの日記 気が向けば更新

交通事故後の体調不良と精神科治療の話

今回はある高齢の女性患者さんの交通事故後に生じた体調不良の治療の話。治療終了までの経過である。

 

子供はあまりないらしいが、ある年齢を過ぎると軽い追突程度でも長期に体調不良が続くことがある。画像診断が改善し、かなり時間が経っていると詐病を疑われることもある。過去ログで以下の記事をアップしているので参考にしてほしい。

 

 

その女性患者さんは、僕の外来患者さんから紹介され初診している。主訴は、頭がぼーっとする、めまいがする、倦怠感、不眠、口の中がピリピリする、などであった。紹介者は姉である。その姉は軽いうつ状態でリフレックスを7.5㎎だけ処方していた。

 

彼女の話によると追突された後、痛みがなかなか良くならなかったが仕方なく4か月目に示談したという。その後も体調不良が続き、整形外科から脳神経外科に紹介されパキシルなどを処方されていた。これはかなり前の話で、まだ抗うつ剤や眠剤の2剤制限もなかった頃である。

 

紹介された時の処方内容(向精神薬のみ。脳神経外科医による)

パキシル20㎎

レンドルミン0.25㎎

ロゼレム8㎎

 

なお、姉に紹介されて初診したので紹介状はなかったが、お薬手帳で履歴はわかった。感覚的には上の処方で軽快してもおかしくないと思う。

 

本人によると、やる気が起こらず、テレビを観ていても頭に入ってこないという。「私はうつでしょうか?」などと言う。とにかく眠いらしい。体重も事故後4㎏も減少している。パキシルを漸減しサインバルタに切り替えることにした。また疼痛は筋肉系の緊張も伴っていると思われるのでリボトリールを併用している。パキシルは減量しやすいようにパキシルCRに切り替え初回から半量にしている。

 

初診後の処方

リボトリール0.5㎎↑

サインバルタ10㎎(脱カプセル)↑

リフレックス 15㎎↑

レンドルミン0.25㎎

パキシルCR12.5㎎↓

 

ロゼレムは意味ないので中止。今思ったが、最初からリフレックスとサインバルタを同時に処方するのは珍しい。これは既にパキシル20mを服薬しているので忍容性的に大丈夫と思ったのもある。

 

さて、この処方で14日後にどうなったでしょう。

 

14日後に再診した時、既に壁を突破してかなり改善していたのである。この処方は彼女にフィットしていると思った。本人によると、受診後2~3日はぼんやりしていたが、急に景色が良くなってきたという(このような言い方)。家族と一緒に温泉に出かけている。その後、受診3週間目にパキシルCRを中止したところ、あっさり問題なく中止できた。その際にサインバルタは20㎎まで増量している。

 

初診後2~3週間で、ぼんやり感が減りテレビも集中して観られるようになり、やる気と食欲が出てきた。初診後1か月で頭がすっきりした感じになったという。体重も2㎏増加。いつの間にか口の中の違和感がなくなり、背中の疼痛もかなり減少してきている。結局初診2か月で、交通事故以前の体調に戻った。足のしびれ、痛みも10分の1になり整形外科に行くのもやめてしまった。

 

初診3か月目の処方

リボトリール0.5㎎

リフレックス15㎎

レンドルミン0.25㎎

サインバルタ20㎎

 

彼女の場合、サインバルタ20㎎で劇的に良くなったため、20㎎超えて増量することはなかった。

 

この患者さんの長期的予後だが、色々な考え方ができる。1つは、姉がうつ病でリフレックスを飲んでいるので、家族歴を考慮すれば多少は減薬してずっと服用し続けた方が良いというもの。もう一つは交通事故後のエピソードなので全て中止まで見通せるというものである。

 

このような経過だと高いレベルで寛解しているため、減薬中止のきっかけがつかめないものである。余談だが、彼女は交通事故後の治療中に、痛みがいつまでも良くならないので、急に整形外科医が冷たくなり病院を転院したらしい。長くなると、確かに「この人は整形外科疾患ではないのでは?」と思われるところがある。

 

その後、安定したまま2年くらい外来で診ていた。ある日思わぬことになったのである。彼女が内科医院に受診したところ、医師がお薬手帳を見て、「ずいぶんきつい薬を飲んでおられますね」などと言ったのである。

 

専門外で、この処方がきついかどうかもわからないような医師が、患者さんにこんなこと言わないでほしいと思わないか?

 

上の処方は4種類あるが、全ては治療可能な処方用量の最低限に近い。

 

とにかく、この事件が減量の機会にはなったのである。人生、塞翁が馬と言える。

 

この4つの処方のキモは量は少ないがサインバルタであり、それ以外は必要がない可能性があった。最初にリフレックスを減量し2週間後には容易に中止できた。レンドルミンはベルソムラの7.5㎎に代替することができた。これも容易であった。そして、最後にサインバルタとリボトリールを漸減ではなくそのまま中止している。用量が少ないからである。これも簡単に中止できたのである。あっけない幕切れである。

 

結局、2年半目で彼女の処方ベルソムラだけになった。彼女の交通事故後の体調不良エピソードは完治していたのであった。そして3年目にはベルソムラも中止し、今は向精神薬は服用していない。そしてその後、ずいぶん年月が経つが、今も全く問題ないらしい。なぜ日常の様子がわかるかというと、彼女の姉がまだ外来通院しており、近況を聴けるからである。

 

過去ログに、ベンゾジアゼピンや抗うつ剤など離脱は否定はしないが、ネット上で言われているほどではないと記載している。彼女の完治までの経過を見てもそれがわかると思う。

 

参考