「エビリファイへ」は大きな変更 | kyupinの日記 気が向けば更新

「エビリファイへ」は大きな変更

旧来の抗精神病薬からエビリファイ(アリピプラゾール)に変更することは、エビリファイが従来の抗精神病薬とは異なる薬理作用を持つこともあり、変更の際に工夫をしないと失敗しやすい。これはエビリファイを処方に入れる際に、従来型の抗精神病薬の特にD2作用を弱めることから来る。

 

その結果、鎮静作用が抜け落ち興奮状態を呈したり、収まっていた幻覚妄想が再燃したりする。また不眠も起こりやすい。そのようなことから、何らかの事情でエビリファイに変更せざるを得ない際、可能なら入院させて変更している。

 

例えばジプレキサへの変更の際は、従来薬がシクレストやリスパダールなどの非定型抗精神病薬であれば外来でも変更しやすい。その理由は起こりうる変化の幅がそこまで大きくなく、想定の範囲に留まることが多いからである。しかしエビリファイは別である。

 

エビリファイは発売してかなりの年数、少量から始め漸増する変更方法しかとれなかった。これは大抵の向精神薬と同じである。この方針で、例えばリスパダールやジプレキサからエビリファイに変更する場合、失敗するケースが格段に高まる。これは結果的に従来の薬を減らすペースを速める手法になるからである。これは従来型の抗精神病薬の薬効を少量のエビリファイでさえ弱めるからだと思われる。

 

そのようなことから、リスパダールやジプレキサを服用中の人たちのカルテには「エビリファイは不適切」といった記載が残ることになったのである。しかし今から考えると、真にエビリファイが不適切とは言えなかった。

 

ある時、リスパダールコンスタ50㎎(2週毎)を実施中の重い精神病の患者さんが著しく悪化し、しばらく保護室に収容し、毎日トロペロンを3アンプル筋注していた。それ以外の薬も試みたが、いつもとは違い全然改善しないのである。しかも保護室内で便だらけになる病状である。これでは保護室から退室できる目途さえたたない。(参考:保護室で便だらけになる人 どくとるマンボウ医局記の「便だらけになる女性」

 

遂にこれ以上の重めの薬物療法を続けるのは難しいと判断しECTを実施したところ、45日くらいで穏やかになった(計3回実施)。もはやトロペロンの筋注も必要とせず、病棟の部屋に戻せるレベルまでなったのである。

 

これは退院の見込みがないとはいえ、リスパダールコンスタを最高量使用し、それ以外にも気分安定化薬を併用していてこれではダメだと思った。(ゼプリオンも試みたことがあるが、リスパダールより賦活的に作用し不適切)。

 

そこで思い切ってエビリファイを24㎎使ってみた。エビリファイは過去に失敗しているが、24㎎から開始して失敗したわけではない。

 

エビリファイを使って翌日に会ったとき、これは良いのでは?と思った。その理由はわずかに表情の硬さが緩んだように思ったからである。その後、病棟での様子を観察していると他患者との些細なトラブルが減少しているため、エビリファイ単剤へ変更できるかもしれないと思った。

 

その後、思い切ってリスパダールコンスタを中止し、エビリファイの最高量30㎎で様子を見た。ずっと平穏だったので、エビリファイ単剤でいけそうだと確信した。この患者さんが、リスパダールコンスタなしでやっていけるのが驚きである。

 

そういう風に良くなると他の薬も中止したくなるものだ。この人はリーマスとバルプロ酸とテグレトールがトリプルで入っており、せめてテグレトールは中止したいと思った。この人にとってテグレトールは他の薬を操作するためできれば中止したい薬である。(一方、リーマスは怖くて中止できない)

 

テグレトールを中止してしばらくは良かったが、数週間後、保護室に入らないといけないレベルに至り1度だけ隔離している。それがひょっとしたらテグレトール中止によるものか、あるいは関係がないのか不明であった。隔離している際に、数日ほどセレネース液を3㏄だけ追加投与した(6㎎相当)。

 

すると、これまでとは段違いに効いたのである。数日で回復し一般病室に戻った。

 

長期に単剤でエビリファイを継続投与していると、D2レセプターのダウンレギュレーションが起こり、従来型の抗精神病薬も少量で効果を発揮しやすくなる。つまりダラダラ強いタイプの抗精神病薬を投与していると、アップレギュレーションを生じ、更に抗精神病薬を加えても効きはしない。だからこそECTまでせざるを得なかったのである。

 

今回の結果は全く理論通りであった。

 

その患者さんの脳内は精神病はそのままだが様変わりしていると言えた。つまりレセプター数の異常状態がおそらく正常数に近くなっているのである。リスパダールコンスタからエビリファイに変更できたため、いわゆるパーキンソン症候群が改善し突進歩行、転倒が減少した。

 

今年、正月外泊した後、家族と一緒に病院に戻ってきた。家族に聴くと、家では穏やかに過ごし、歩行状態も去年よりずっと良くなっていたという。

 

今回の事件は、エビリファイはまだまだ大きな治療可能性を秘めてることを示している。