中高年の統合失調症の人たちの薬物治療(前半) | kyupinの日記 気が向けば更新

中高年の統合失調症の人たちの薬物治療(前半)

一般に統合失調症の薬物治療は非定型抗精神病薬で開始する。試行錯誤の末、旧来の抗精神病薬治療(定型)になることもあるが稀である。2剤併用治療では時に補助的に定型抗精神病薬が使われることがある。

 

そのようなこともあり、若い世代の統合失調症の人は主剤が非定型抗精神病薬であることがほとんどである。ところが、中高年の統合失調症の人では定型抗精神病薬(セレネースやコントミンなど)が処方にそのまま残っていることがある。

 

例1)

プロピタン 150

セレネース 6

 

例2)

セレネース 3

 

これらの処方はなぜ変更されず、そのままになっているのか不思議に感じる人もいると思う。古い処方のままの理由は、今の調子が良好で長期に就労しているとか、家庭やグループホームに入所して安定状態にあるからである。逆に言えば入院患者でこのような処方は滅多にない。

 

長期的には入院患者は精神症状の悪化の際に非定型抗精神病薬に変更するチャンスが多い。また安定していたとしても、入院患者であれば変更のリスクがとりやすいのもある。

 

治療アルゴリズム的にも古い処方のまま安定状態にある特に中高年の統合失調症の処方変更は積極的には推奨されていない。その理由は、非定型抗精神病薬に変更に失敗した時の代償が大きすぎるからである。

 

このブログの初期の記事で、最初にリスパダールが発売された当時、定型から変更した際に病状悪化した人が少なからずいたことに驚いたと記載している。これは今から考えると、変更時の悪化はリスパダールの方がずっとマシで、ジプレキサやエビリファイの方が遙かに悪化率は高い印象である。

 

エビリファイの市販後調査などの副作用に「統合失調症」という奇妙な項目がある。エビリファイは統合失調症の薬なのに、副作用が「統合失調症」とはいったいなんだろうと思うかもしれない。これは基礎疾患の悪化を意味している。つまり統合失調症の人の幻覚・妄想などの悪化である。

 

このようなことから、年配の統合失調症の患者さんの古臭いセレネースを主体にした処方が容認されているのは、リクス・ベネフィットを考慮した結果である。

 

それでもなお今回このような記事をアップしたのは、「古い処方・再考」といったものである。

 

従来、統合失調症の人の抗精神病薬は、パレンス・パトリエないしポリス・パワーの思想に基づくものであった。つまり、本人が治療に同意せず、拒否していたとしても強制的に治療を行うことである。従って統合失調症に限らないが、「なぜ強制的に服薬しないといけないのか?」とか「副作用を我慢してまで服用しないといけないのか?」といった疑問が生じやすい。

 

また統合失調症の患者さんの平均年齢の高齢化など社会的変化により、従来軽視されやすかった定型抗精神病薬の副作用が問題になるようになった。特に便秘などの消化管に関わるものが大きい。患者さんの平均年齢が低い時代は、便秘は統合失調症では良くある軽微な副作用であった。それは便秘薬で調整できるからである。

 

しかし統合失調症の人たちの平均年齢が高くなると、相対的に腸管の動きが悪くなり、それまで便秘になりにくかった人も便秘で悩むようになる。また人によると腸管の動きが止まり麻痺性イレウスを来す人もいる。このような人は、従来の定型抗精神病薬では対応が難しいので高齢であったとしても、抗コリン作用の少ない非定型抗精神病薬に変更せざるを得ない。

 

この際の変更もリスク・ベネフィットが考慮されるが、上のケースはぜひ「変更すべき」ケースに近い。

 

問題は外来患者でそこそこ良いが、かといって良好なコントロールとは言い難い定型抗精神病薬処方の人たちである。レベル的には既に就労年齢を過ぎていて、A型ないしB型事業所にも通っていない人たち。この人たちの処方変更は相当に決断が必要だが、その人の家族からも意見を聴く。

 

このレベルでも変更に失敗すると、急速に病態が変化し荒廃に至るリスクもあるため、変更には相当な決断を要するものだ。その人のそれまでの人生を知っていればなおさらである。

 

セレネース(ハロペリドール)であれば、まず変更する前に、どのくらい減薬できるのか検証することも有用であろう。もし変更できなかったとしても、例えばセレネース12㎎が8㎎程度に減薬して問題がなければ無意味とは言えない。またセレネースを減薬できれば、アキネトン、アーテンなどの抗パーキンソ薬を減量できるのでその点からも(便秘などの緩和の視点で)意味が大きい。

 

副作用の軽減と言う視点では、セレネースからリスパダールに変更ことはそこまで有用とは言えないが、他に変更できない場合、せめてリスパダールに変更できるならその方が良い。

 

今であれば、セレネースからなら、ジプレキサ(ないしシクレスト)またはエビリファイ(ないしレキサルティ)、ロナセン、ルーランに変更できれば非常に良い。セレネースからクエチアピンも変更できるなら良いがあまりにタイプが違うためリスクが高い。

 

(今回は総論的な話。今後、各論的な記事をアップする予定)

 

参考

非定型抗精神病薬の病状悪化率

エストロゲンと精神疾患

各国における精神科の非任意入院