30年間デパスだけ飲んでいた人、リターンズ | kyupinの日記 気が向けば更新

30年間デパスだけ飲んでいた人、リターンズ

これまでに何度か長期間デパスだけ服薬していた統合失調症の患者さんの記事をアップしている。彼らは(彼女らは)何らかの困ることはあったにせよ、デパスだけで入院せずに済んでいたとはいえる。その意味では、元々の統合失調症の重さが、あるレベルより軽くないと、なしえなかったことである。

 

統合失調症は慢性進行性の精神疾患なので、服薬しないと予後が悪くなる可能性が高いと思われる。その人に限ればそれが証明できないが、論文的には明らかに服薬した方が予後が良い。これは海外では日本では倫理的に到底実施できないような調査も行なわれており、その結果により服薬した方が良いとされている。(統合失調症が既に発症している人たちを服薬する群と服薬しない群に分けて長期調査するなど。)

 

デパスに限らなければ長期に実質無治療の患者さんを診る機会は稀にある。それは内科からの紹介、リエゾン、措置鑑定の現場などである。

 

ある時、全く服薬していない患者さんを持つ機会があった。その人は30年どころか40年くらい服薬せず、春先にいつも悪化し家族を困らせていた初老の婦人であった。初めて会った時、全く会話ができず、かといって昏迷ではなく、無為、自閉、感情鈍麻が前景にあるような人であった。逆言えば、このような静的な患者さんだからこそ、家で服薬なしで暮らしていけたのであろう。

 

賦活した方が良いように見えるが、長期間、休火山のような病態を賦活するのは相当に怖い。これはきっと精神科医でないとわからないのではないかと思う。

 

その人はなんとエビリファイの6㎎でかなり改善し、疎通性が出てきて会話ができるようになった。また入院時のさまざまな場面で、周囲の人に対しやわらかい対応になったのである。僕はこの量のエビリファイでここまで効果が目視できたことや、病状が思っていたより改善したことに驚いた。このような人は元々、服薬する習慣がないのでエビリファイLAIが良いと思われる(エビリファイの持続性抗精神病薬)。

 

なぜこの病態の患者さんに、いきなりエビリファイを使ったのか不思議に思うかもしれない。実は自分の場合、このような人にエビリファイから始めるのはまずない。この人は糖尿病だったため選択肢が限られていたのである。結果的に「塞翁が馬」であった。

 

今回のタイトルは、「30年間デパスだけ飲んでいた人、リターンズ」なので、以下が本編である。

 

ある時、30年間デパスだけ飲んでいた婦人を入院させ治療していた。この患者さんは無治療でも病棟では問題が起こりそうになく、消極的にバルプロ酸100㎎だけ処方していた。もちろんデパスは意味がないので中止している。幻覚妄想は本人に聴けばあるようであるが、それが異常行動や不眠に繋がらない。だからこそ、デパスだけで済んでいたのである。

 

バルプロ酸は抗精神病薬ではないが、鎮静的なので1つだけ選ぶならこれでも良いと言った感じである。これで長く処方変更しなかった。

 

ところがある時、看護師によるとたまに奇妙な言動があり、怒りっぽくなる時間があるらしい。これで興奮や他人との喧嘩には至らないものの、何らかの抗精神病薬が必要だと思った。そこで、ジプレキサを1.25㎎だけ処方することにした。デパケンは中止である。

 

ジプレキサを投与後、特に診察時に変化が診られたわけではなく、少しだけ笑顔が増えたかな?と言った感じであった。

 

ところが家族の話によると、それどころではなかったのである。面会や外泊時に家族で話していたところ、全く知らなかった昔の家族のことをたくさん話してくれたと言う。治療をしなかったら、家族はおそらくずっと知らないままだったでしょうと言う。また家族は、

 

あんなに穏やかな母親は見たことがありません。

 

と喜んでいた。この事件は、統合失調症は直接に認知症に至る疾患ではないことを示している。また治療開始が遅れても、全く意味がないともいえないのである。

 

まったく・・

早くジプレキサを使ってあげれば良かったよ。

 

参考

25年以上デパスだけ服用していた人