いま、私、躁状態になってませんか? | kyupinの日記 気が向けば更新

いま、私、躁状態になってませんか?

ある広汎性発達障害の女性患者さんの治療中、

いま、私、躁状態になってませんか?

と質問された。その瞬間、彼女は面白い質問をするなぁ・・と思った。

なぜなら、少し前まで極めてネガティブな思考及び言動と、気分の高揚(興奮と言うべきか)が診られていたからである。爽快感など全くなく、むしろ不機嫌、不愉快な気分が持続していた。過活動、気分のいずれの視点でも、躁状態とはいえないが、対処に困るような精神症状だったのである。

広汎性発達障害の人のこれらの症状は、支援する人を遠ざける精神所見である。

ところが、彼女がその質問をした時期は、既に精神面は穏やかなものになっており、不愉快な気分や高揚感はかなり消退していた。

彼女は、それまでの一連の精神症状が全く洞察できず、改善している「今」を「躁状態」と呼んでいることが興味深いと思ったのである。

双極2型の人は2型躁転すると、「自分は治った」と錯覚することが稀ではない。うつ状態は実感があるが、2型躁転はむしろ洞察が難しい人が多い。

彼女は気分障害の要素はあるかもしれないが、厳密には双極性障害とは言えない。また、彼女に双極性障害と告知したこともない。

彼女が「躁状態」と呼んだ時期は、むしろネガティブさや弾け散るような暴言は影を潜めており、改善の方向に向かっていたと思う。ところが、彼女は穏やかな場面を躁転と呼んでいる。そこが興味深いのである。

彼女の精神症状と薬物の関係だが、いかなる時期もブプロピオンは治療的であった。

その理由だが、自己評価の低さを反映するネガティブな思考や、一見、その逆に見える自己中心的で「強い」言動(これも自己評価の低さの反映)が減少するからである。これは対人関係を穏やかなものにし、また、ブプロピオンは躁状態までは至らせはしない。

ブプロピオンは増量したり、減量したりしてみたが、その効果にはいつも再現性があった。ブプロピオンは彼女にとって、併用していないよりは服用している方が遥かに日常の生活や心の内面を良いものにする。

この記事のテーマは、なぜかトピナになっている。

重要な点は、彼女の対処しにくい精神症状とトピナの関わりである。トピナは合わない人は幻覚や興奮を生じたり、よくわからない薬理作用で精神症状を悪化させ、副作用がほとんどないとしても、続かないことが多い。

彼女の場合、ブプロピオンを200mg程度使っていると、精神面は改善はするもの、気分の易変性は十分には良くならず、不安定なのである。ブプロピオンは上下の気分の規模は小さくする傾向があるが、全般のバイオリズムに対する影響が乏しい。

つまり、ブプロピオンだけでは、長期の面で不安定さなど、重大なところは良くなっていない。使わないよりはマシであるが。

ブプロピオンを200mg服用している状況では、トピナを50mg程度併用している方が種々の精神症状の揺れを改善する。また過食やネガティブな思考にも好影響を与えていた。それは腰折れ気味のブプロピオンの効果を補強するようにも見える。

ところが、トピナを75mg以上使うと賦活しすぎて良くないのである。トピナは普通、合わない場合、中止した方が遥かに良い。

しかし、多い量で全く合わないように見える人の一部で、実は、少量だけ使っていた方が良い人も存在するのである。これは大変な発見であった。その理由は、同じような人が他にもいたからである。

つまり、トピナは効果の個人差があるだけでなく、人によれば、用量により異なる振る舞いになる。

ひょっとしたら、トピナを多い量で一時的に悪化させることすら、治療的である場合もあるのでは?と思ったりする。

トピナと言う薬物には謎が多い。

参考
トピナのテーマ
ブプロピオンのテーマ