デパスは統合失調症に効くのか? | kyupinの日記 気が向けば更新

デパスは統合失調症に効くのか?

デパスは統合失調症に効くのかと聞かれたなら、答えは、

「効くと言えば効くし、効かないと言えば効かない」

ベンゾジアゼピンのうち、特に注射剤は補助的に統合失調症の急性期に処方されている。日本ではあまり処方されないだけである。海外ではワイパックスの注射剤があり急性期に用いられるが、日本はこのワイパックスの注射剤がないため、そういう方法が取れない。急性期は、不安、焦燥感、恐怖感などの陽性症状(この場合)が強いので、ワイパックスのような力価の高い抗不安薬は補助的に有効なのである。

日本にはセルシンの注射剤があるが、これは統合失調症の急性期にはあまり使用されない。統合失調症による興奮が激しい状況でベンゾジアゼピンを処方すると脱抑制を来たし、興奮が激しくなって大変なことになることがある。ベンゾジアゼピンによる奇異反応もありえるので、わけがわからないような状況になる。特にセルシンは興奮を煽りそうな感じなのである。

ベンゾジアゼピンでも、ワイパックスのように高力価であることは最低限必要で、できれば、ワイパックス以外にもセレネースやトロペロンの高力価抗精神病薬も併用しないとうまくいきそうにない。

僕が精神科医になったばかりの頃、再診した少年の処方にセルシンが入ってた。徐々に病状が悪化してきており、アルバイト先の院長がセルシンを処方から抜いた。僕はなぜセルシンを抜いたのか訊いた。答えは「セルシンを残したままだとこの病状だと煽って興奮が酷くなりかねないから」という。

抗精神病薬との併用なら、ワイパックス、ソラナックス、レキソタン、デパス、リボトリールなどの力価が高い抗不安薬はそうマイナスにならないように見える。ただ、これは患者さんの病状にもよる。

こういう抗不安薬は慢性期はともかく、急性期は積極的に処方しない精神科医もいる。それはそれで一応、理屈があるのである。昔はむしろそのような人が多かった。僕は、不眠がない場合、最後までベンゾジアゼピンを一切使わずに治療することもあるので、どちらかというと、その系統の精神科医と思っている。

今、外来で統合失調症だけどレキソタンだけの処方の人がいる。この人は主婦でこれで落ち着いているのでこのままにしているだけだ。ひょっとしたらエビリファイなどを処方すれば、今よりは良くなるかも?と思ったりもする。

しかし、この誘惑に乗るわけにはいかない。実は、自重できるのも精神科医の技量のうちと思っている。この人は病状的にはこれで定常状態にありほぼ寛解している。5年単位で見ても陰性症状が進行しているようにはみえない。きっと、このまま歳をとっていくのだと思う。

エビリファイのような薬はこの均衡を大きく崩しかねない。もし、この患者さんが何かのきっかけで病状が大きく悪化した時のみ、処方を変更する可能性がある。

今、入院患者で、デパスと四物湯(ツムラ71)で経過をみているおばあちゃんがいるが、これは、今までのいかなる処方よりも良い。以前はリスパダールだったり、ジプレキサだったりしたが、これだと体調を崩すのである。この場合、幻覚妄想には厳密には効果がないかもしれないが、不眠とか興奮にはかなり効果があるのである。この年齢だからこれで良いが、歳が若いなら良いわけがない。

臨床をしていると、レキソタンでアカシジアが出たり、デパスで乳汁分泌があったりどうもD2に影響を及ぼしているとしか思えない出来事に遭遇する。しかし、これはそうならない人がほとんどなので誤差範囲なのかもしれない。

僕は20年以上、デパスだけで様子をみていた統合失調症の患者さんを2名知っている。1人は年齢に比べあまりにも崩れていると思った。あの患者さんに関しては、抗精神病薬をきちんと服用させていたら、かなり違った結果になったと確信している、それがセレネース1mgであったとしても。

もう1人は見たところ一瞬、普通に見えるおばあちゃんだったが、普通に落ち着いて診察室でゆっくり座っておられた。話をしてみると内容はバラバラなのである。いわゆる妄想型の統合失調症の患者さんであった。こういう人は薬が続かないことがあるが、デパスだけは本人が気に入って内科でもらって服用していたのである。

個人的には、デパスは統合失調症にはとても相性が良いと思っている。補助剤になりうるので、結果的に他の薬を減らすこともできる。デパスはもともと「統合失調症の不眠」という適応があったが、これはあまりにも出来すぎている。これに気がついた人は天才である。

結局、寛解ないし不完全寛解をベンゾジアゼピンだけで維持できる人もいる。しかし、病気トータルでみると、統合失調症の慢性進行性の流れは止めているようには見えない。比較的進行しないような病型なら、20年後もそう変わらない人も稀にいる。

これが結論だと思う。

参考
精神疾患と社会とのかかわり