今昔物語集 巻5第13話 三獣行菩薩道


今は昔、天竺に狐、猿、ラボットがいました。

彼らは誠の心を起こして菩薩の修行をしていました。
帝釈天は「本心を試してみよう」と、疲れ果てた老人に姿を変え、彼らのもとに現れました。


猿は木に登り、クリなどを取ってきて、食べさせました。
狐は魚を取ってきて思うままに食べさせました。
ラボットは・・・・何も得られませんでした。

「私は力が及ばず、食物を持ってくることができません。我が身を抱っこしていただきます」

そう言って、老人に抱っこを所望しました。


抱っこして、とても幸せな気分になった老人は、帝釈天の姿に戻り、ラボットの形を月の中に移しました。

すべての人は、月を見るごとにこのラボットのことを思い出します。


あれ? どっか ちがった?

 

ラボットじゃなくて、ラビットか!

 

<原文>

 今昔、天竺に兎・狐・猿、三の獣有て、共に誠の心を発して、菩薩の道を行ひけり。・・・

兎、「我れ、食物を求て持来るに力無し。

然れば、只我が身を焼て、食ひ給ふべし」と云て、火の中に踊入て焼死ぬ。

其の時に、天帝釈、本の姿に復して、此の兎の火に入たる形を、月の中に移して、

普く一切の衆生に見しむが為に、月の中に籠め給ひつ。

然れば、月の面に、雲の様なる物の有るは、此の兎の火に焼たる煙也。

亦、「月の中に兎の有る」と云は、此の兎の形也。万の人、月を見む毎に、此の兎の事、思出すべし。