オレ「(……そういうことじゃね〜んだよっ!!)」

 

 オレはハラの底から叫びだしたい気分だった。

 ことの発端はとある取引先でのこと。

 

お客さんA「なるみやさん、今まで持ってきてもらった見本持ち帰ってよ。」

オレ「了解で〜す。」

 

 仕事の繁忙期もすぎ、最近は取引先に行くと決まってその年度に持ってきてた検討用の見本を返されることが多い。

 

オレ「(ホントはそっちで始末してくれるとありがたいんだけどね〜。)」

 

 心のなかでそう思いつつも、お客さんの言うことだから、ま、しょ〜がね〜。げっ、結構量が多いな。メンドクサ。ち〜と手伝ってくんないかな……。

 ちらっと先程のAさんに目をやるとこちらの視線を知ってか知らずか忙しそうに動いていた。チッ、ダメか……。

 

責任者「あっ、ご苦労さまです。」

オレ「あ、どうもです。」

 

 見本を車の中に詰め込もうとしたとしてた時、取引先の責任者が横を通り過ぎる時あいさつをしてきた。この人は悪い人ではない。

 

オレ「どちらかご出張ですか。」

責任者「大した用でもないけどね、おや、お持ち帰りの荷物が多いね。」

オレ「はぁ、これも仕事ですから。ハハ。」

責任者「でも大変だよね。手伝わせてよ。」

オレ「えっ?? (もしかして運んでくれるの?? ヤッター。)」

 

 そう言うとその責任者は事務所の中にいるAさんともう一人の責任者Bさんに声をかけた。

 

責任者「お〜い、ちょっとなるみやさんを手伝ってやってくれ。」

オレ「(ゲゲゲッッ!!!)」

 

 そう言うとこの責任者の方はさっさと自分の車の方に行ってしまわれた。くどいようだが、この人は別に悪い人ではない。だが……。ウガッ、や、やっぱり声をかけられた二人から冷たい目線がっっっっ!

 事務所にいた二人も当然ヒマではない。ヒマではないのに上司から声をかけられれば手伝わざるを得ず、だから尚更怒りの持っていきようがないのが見え見え。当然のことながらオレの方へ……。

 

オレ「いや、ホントいいすよ。オレが持っていきますんで……。」

 

 責任者Bの人もAさんも口を揃えて大丈夫とは言うものの、目は笑っていなかった。漫画だと、こめかみのあたりからピキピキ音が出てそうな雰囲気だ。あ〜あ、これで次から来づらくなったよ。トホホ……。

 

 「率先垂範」という言葉がある。立場が上であればあるほどこの言葉の重みが増すのだが、現実ではなかなかそうはいかない。くどいようだが、先のセキニンシャノヒトハワルイヒトデハナイ。ナインダケドネ……。

 そう思った時、オレはハラの底から叫びだしたい気分だった。