このままでは日本経済はダメになる

…「財務省の宇宙人」が退任前に残した「報告書」のヤバすぎる中身

      2024.07.30   (週刊現代) | マネー現代 | 講談社

 
いわば「卒業論文」

 「3ヵ月間の議論を通じて、神田財務官が抱いていた『このままでは日本経済はダメになる』という

 危機感を十二分に感じ取ることができました。この議論をもとにまとめ上げられた今回の報告書は、

 財務官の官僚時代を締めくくる『卒業論文』といってもいいでしょう」

                (土居丈朗・慶應義塾大学経済学部教授)

 '21年に財務官に就任して以来、荒れ狂う円相場を沈静化するため 何度も介入を決断し

「新・ミスター円」として注目を集めた神田眞人氏(59歳)が、7月末で 退任する。

灘中高時代から 成績は常にトップクラス。東大法学部を卒業して 旧大蔵省に入省すると ここでも

頭角を現し、主計局次長や国際局長など重要な職務を歴任してきた。

 

  その神田氏が、退任の4ヵ月前から開いていた研究会がある。

自身が信頼を寄せる 大学教授やエコノミスト20名を集めて 徹底的に 日本経済の未来について

語り合ったこの会は、通称「神田勉強会」と呼ばれた。その勉強会の成果としてまとめられた

「報告書」が、神田財務官の退任に際して発表されたのだ。

 

   冒頭で この報告書を「神田財務官の卒業論文」と評した土居教授も、この勉強会に加わった

メンバーの一人。報告書の意義について、こう語る。

 「 労働力不足貿易収支の赤字化など、日本経済が抱える問題は 多岐にわたります。これらの問題

  が 単発で論じられることはありましたが、神田財務官は『すべての問題はつながっていて、日本の

  構造そのものを変えなければ 根本解決はできない』という認識を持っていました。

    こうした問題意識を持つ官僚や政治家は、たくさんいます。ところが、官邸や政治家が提起すると、

  たちまち 各所から反発が相次ぎ、先送りされるきらいがありました。神田さんは こんな閉塞した

  状況を打ち破ろうと この会を立ち上げたのだと思います 」

 

  財務省内の会議室で 5回にわたり開かれたこの勉強会。毎回2~3人が 日本経済の抱える問題

についてプレゼンし、それを聞いた 他の出席者と自由に意見を戦わせる方式で行われた。

多忙を極める神田財務官も 毎回出席し、必ず的確なコメントを寄せたという。

   出席者の一人が明かす。

  「 毎回 2時間近く 白熱した議論が展開されましたが、驚いたのは、神田さんが出席者全員の本や

  執筆レポートの内容を頭に入れたうえで、コメントや総評を行ったことです。神田さんの本気を

  感じ取り、議論にも熱がこもりました 」

 

日本のカネが垂れ流しに

    年間200冊近く本を読み、毎週末には 趣味のテニスも欠かさない。異常ともいえる知識の幅と

行動力から「宇宙人」と評された神田財務官。 氏を中心にまとめ上げられた提言書はいわば、

日本人に突き付けられた「宿題」である。そこで提示された、この国の課題を見ていこう。

 

   報告書の中で 最も強調されるのが、日本が 海外の国々との取引やサービスのやり取りで生じる

「国際収支」のなかで、「貿易収支の赤字」や「サービス収支の赤字」が膨らんでいる問題だ。

   過去、日本は 自動車や家電などを海外に大量に輸出することで、安定した貿易黒字を保ってきた。

ところが 近年、日本製品は 中国や韓国の家電・スマホメーカーの製品に圧倒され、自動車や産業機械

以外の黒字の担い手が不在となっている。

  勉強会のメンバーの一人で、みずほ銀行チーフマーケット・エコノミストの唐鎌大輔氏が補足する。

 

  「 いま、世界各国で 環境にやさしく、自動運転等の機能を有した新世代型の車の開発が進んで

   います。もしかすると 日本の自動車が まったく売れない時代が来るかもしれない。将来的には

   自動車産業でも 日本の競争力が失われることが、報告書では危惧されています 」

 

  さらには 東日本大震災以降原発がほぼ停止しているため、エネルギー資源を輸入するコストも

膨大に膨らんだ。結果、'22年以降、日本の貿易収支は赤字に陥っている。これが一つ目の大きな問題。

 

   続いて指摘されている「サービス収支の赤字」について、唐鎌氏が解説する。

 「 インバウンドが好調なため 旅行収支の黒字は 過去最大規模になっていますが、一方で 日本から

   アマゾンやグーグルなどの巨大IT企業への支払い額が膨大に膨らんでいます。さらに、海外企業

 への保険料の支払いや、経営コンサルティングサービスなどへの支払いも 増え続けていて

   サービス収支の赤字幅は 深刻になっていますこれが 日本経済の大きな重荷になっているのです

 

  現在、日本の経常収支は黒字となっているが、それを支えているのは「第一次所得収支」(海外への

投資で得られる収益など)のみで、貿易収支やサービス収支は 赤字

さらに、第一次所得収支の黒字も、その多くが 日本国内に戻らず、日本のカネが海外で循環している

状態。

   つまり、「 日本から海外に大量におカネが出ていく状況 」が続いているのだ。これでは 円安が

進む一方で、日本は貧しくなるばかり……というのが、この報告書が提示した最も大きな問題点だ。

 

  さらに報告書は 日本の人口減少の問題や、新NISAの普及にともない、日本の個人金融資産が

海外に流出している問題などにも 言及している。

 

後編記事『「新・ミスター円」神田財務官が退任直前に口を開いた「国民の皆様に伝えたかったこと」』へ続く。