「サイバー攻撃、民営化したインフラ運営企業全てがターゲットに」

        ブレイディみかこ    2024/06/18  AERA dot.

 

  配偶者が ロンドンの病院で受けることになっていた手術が、前日に中止になった。

NHS(国民保健サービス)の請負業者が サイバー攻撃を受けたからだ。 ニュースで 第1報が

伝えられた時、「 もしかして…… 」と言っていたのだが、やはり 数時間後に電話がかかってきた。

   新たな手術日は 追って連絡するそうだが、すぐには無理だろう。そもそも 半年も待たされた

手術だったのに、また延期だ。手術室に入っていく直前に中止になった 心臓病の患者もいたと聞く。

 

 今回の攻撃は ランサムウェア(身代金ウイルス)によるもので、NHSに 検査サービスを提供

している企業が狙われ、ロンドンの主要な病院での 検査や手術に影響が出た

英ナショナル・サイバー・セキュリティー・センターの元責任者が BBCに語ったところによれば、

攻撃を行ったのは ロシアのハッカー集団だという。

 

   身代金ウイルス攻撃には 2種類あり、一つ目は データを盗んで組織を恐喝するものだ。

二つ目は システムを機能不全にする攻撃であり、今回は こちらだ。

 米国の医療機関は 頻繁に攻撃にあっているという。英国で 同様の攻撃が少ないのは、

医療の多くが 国営で、国は 身代金を払わないからと言われてきた。が、NHSにしても 

現在は 様々な部門が アウトソーシングされている。 請負業者を攻撃すれば 国の医療機関が

麻痺するとわかれば、今後は 増えるのではないか。

   医療だけじゃない。水道、鉄道など、国が民営化してきたインフラを運営する企業の全てが

攻撃のターゲットになり得る。もちろん、ロシア政府が 攻撃を行っているわけではないが、

こうした犯罪集団を厳しく取り締まらず、その活動を可能にしてきたのは ロシア政府だ。

 

 今年の初めに YouGovが 英国で行った調査で、今後5年から10年以内に 次の世界大戦が起こる

と思うか という質問に、「 強く そう思う 」と「 やや そう思う 」と答えた人は合計すると 53%

だった。 英国の敵国として 第3次世界大戦に加わっているだろうと思う国では、ロシアが最多の

80%を集めた。調査結果を見た時は驚いたが、日常生活の中でも 人々が脅威を感じる出来事が

増えているのは事実だ。