2024年6月13日 参議院 法務委員会

 

 

 

チーママと呼ばれた女性検事は「法廷に呼ばれ、心外」と語った。

プレサンス元社長冤罪事件国賠で証人尋問

      2024.6.13. 赤澤竜也  (赤澤竜也) - エキスパート - Yahoo!ニュース

 2019年12月16日、不動産会社プレサンスコーポレーションの社長だった 山岸忍さんは

大阪地検特捜部の取調室にいた。 担当の山口智子検事は いつものように 彼女が 主任と呼ぶ

蜂須賀三紀雄検事の指示をあおいでいるようで、席を外していた。

 

   はじめての事情聴取から 48日目。ほぼ 毎日、幾度となく同じ事を聞かれるため、「 検事さん、

頭わるいんですか? さっきも言いましたやん 」と軽口を叩きながら 当時の状況を説明する日々

だった。

 

     この日は 雑談ばかりで、実質的な取調べもないに等しい。「 ようやくわかってくれたんだ 」。

   そう思っていた矢先のこと。

   上気した顔で戻って来た 山口検事が叫んだ。

  「 社長。こんなん出てしもたやんかぁ。悔しいわぁ。どうする? 」

 

   一枚の紙片をピラピラさせる。

  「 えっ、なんですのん? 」

  と言いながら 差し出された書面をのぞき込むと、〈逮捕状〉の文字が目に飛び込んでくる。

 

    この日から 248日にわたって 山岸さんは 大阪拘置所に勾留された。みずから創業した

  プレサンスコーポレーションを手放さざるを得ず、巨額の資産も失った。

 

    2021年一審で 無罪判決が出ると、検察庁は 控訴すらできなかった。完全な冤罪だったのだ。

  そして 6月11日、山岸さんが起こした国に対する損倍賠償請求訴訟の法廷に 山口検事は姿を現した。

 

  彼女は なにを語り、なにを語らなかったのか。

 

山岸さんと山口検事の間で 漫才のようなやり取り

  山岸さんの著書『 負けへんで! 東証一部上場企業社長 vs 地検特捜部 』(文藝春秋)のなかで

「 検察庁のなかで チーママという異名を持つ 」と記されている山口検事は入廷してきた際、

山岸さんに 目を合わせるとマスク越しながら ニコッと笑い、ペコリと頭を下げた。 その瞬間、

山岸さんは 大きくのけぞって、満面の笑みを浮かべた。

 

    意外に感じた。

なにしろ 彼女は 山岸さんに とてつもない苦痛を与えた側の人物なのである。

当事者にしか わからない感情があるようだった。

   証人尋問では 面白いことがあった。

 

   質問は 中村和洋弁護士の方から投げかけられるのだが、山口検事は 中村弁護士の横に座る山岸さん

の方へも 頻繁に視線を送る。

すると 山岸さんは みずからに話しかけられたと勘違いするのか、会話のなかに入ってしまうのだ。

 

   中村弁護士が、

  「 取調べの際、大声上げて怒鳴るとか 机を叩くとかなかったですよね? 」

と尋ねると、山口検事は、

 「 私が ですか? 一切ないです 」

と手を横に振りながら、確認を求めるように 目を合わせたため、山岸さんも つい、

 「 ないです 」

と大きな声で発言してしまい、さすがに 小田真治裁判長が苦笑しながら、

 「 おふたりの間で会話なさるのは ちょっと 」

と注意したため、廷内に笑い声が漏れる場面もあった。

 

肝心な部分は すべて「記憶がない」で押し通す

  山口検事の前に行われた 田渕大輔検事への証人尋問と違い、比較的和やかな雰囲気のなかで

行われたのだったが、もちろん 火花は たびたび散った。

 

「 総括審査検察官は 誰だったんですか? 」

あるいは、

「 高検(大阪高等検察庁)の特捜担当は 誰だったんですか? 」

と、この事件に関わった上層部の名前を尋ねるたびに、国側の訟務検事が 立ち上がり、

 「 行政庁の内部事情ですので 証人は お答えになりません 」

 「 意思形成過程についての質問ですので 答えられません 」

などと異議を出す。

  却下され、裁判長に答えるよう促されると、山口検事は すっとぼけて、いや 本当なのかも

しれないが、

 「 当時は 覚えていたんですけど 覚えてません 」

 「 記憶にないです 」

と返答する。

 

 一審無罪判決のあと、なぜ 検察は 控訴しなかったのか?

     最大の山場は 中村弁護士の 次のような質問だった。

  「 山岸さんの判決が出たとき、あなたは 大阪高検の検事でしたね 」

  「 はい 」

  「 控訴する、しないの審議に関わっていましたか? 」

  「 はい 」

  「 なんで控訴しなかったんですか? 」

 

  「 その判断に関わっておりますので、証言を拒絶いたします 」

  「 本件の争点と強い関連性がありますので、答えてください 」

 

国側の訟務検事が立ち上り、

  「 民事訴訟法上そうなっていないと思います 」

と異議を申し立てるも、中村弁護士は、

  「 職務上の秘密には 該当しないと考えます 」

と言い返す。

 

  裁判長が 手もとの六法を繰りはじめ、しばらく沈黙が続いた。左右の陪席と少し話したあと、

被告・国の異議を認めたため、これ以上 問いただすことはできなかった。

 

   特捜部が 上場企業の現役社長を逮捕起訴し、控訴しないまま 無罪判決が確定してしまうというのは

前代未聞のことである。そして 控訴断念の決定に 山口智子検事も関わっていたことまではわかった。

しかし、一審無罪判決を受け、内部で どのような協議が行われたのか、明かされることはなかった

のである

 

 弁護人との間の権利を侵害しているわけではない!

   山口検事は 取調べのなかで、

 「 事実を認めて 被害弁償をし、しゃっしゃと裁判を終えれば 執行猶予の可能性もある 」

と 山岸さんに言っていた。

   この点について 中村弁護士より、

 「 21億円もの横領事件で、しかも 重要な役割を果たしていたというのなら、被害弁償したところ

  で 実刑はまぬがれないのではないか? 」

と問いかけられるも、

 「 それは 事件への関与の度合いとか 認識によっても変わってくるはず 」

と述べ、問題のある発言とは認めなかった。

 

  また取調べにおいて、

  「 どうしようとか言ってないの、弁護士さんと。全然 そういう話してないの? 」

  「 (弁護人が)アドバイスしてしてくれていないのかと思って。どういう風に、この今の状況下を

   どうしようとか。そんなのあんまない? 」

など話していたことについて、弁護人との秘密交通権を侵害している という原告の主張については、

そういう意図ではなかったと明確に否定。

 

   被告・国の補充尋問で、再度取調べについて問われた際、

  「 山岸さんに対しても、誠実に話を聞いていたので、今回の尋問に呼ばれたことは 心外という

   気持ちがある 」

とも述べた。

 

裁判長は「 御用聞きじゃないんだから 」と言った

   原告の秋田真志弁護士は 山口検事に対し、山岸さんの無罪判決のうえでの決定的な証拠となった

「 3月17日付けスキーム図 」について、上司である蜂須賀検事から どのような指示をうけたうえで、

事情聴取に臨んだのかについて尋ねたのだが、

  「 確認して欲しいと言われたから確認して それを伝えたのだと思います 」

としか言わない。

  「 蜂須賀主任検事より この書類について どのような説明を受け、取調官として どのような認識を

   持ったのか? 」

  「 はじめて見たとき、どう思ったのか? 」

と重ねて聞かれても、

  「 いっぱい、そんな書類があったから、覚えていない 」

と答えるにとどまる。

 

小田裁判長も 同様の疑問を持ったようで、

  「 蜂須賀検事は(この書類について)どんな評価をしているのかとか、どういう方向性なのか

   ということを言わなかったのか? 」

と尋ねたのだが、

  「 確認してもらいたいと言われたので、確認したところ、知らないといわれたので、そのまま

   伝えた 」

と返答する。

  裁判長は重ねて、

  「 御用聞きではないので、いろいろな角度から いろいろな仮説を持って検証するというのは

   なかったのか? 」

と問いただすのだが、山口検事は、

   「 山岸さんは 頭のいい方で、知らないと言うから 本当に知らないんだと思った 」

と答えるにとどまった。

 

 冤罪事件を作った ひとりであるという自覚があるのか

  「3月17日付スキーム図」については 議論がすれ違っているように感じた。

  秋田弁護士も、小田裁判長も、取調官として 受け取った証拠物の持つ意味を 自分の頭でしっかりと

考えたうえで、被疑者に対して あてなかったのかと聞いているのだが、山口検事は「 聞けと言われて

聞いたら知らないと言われたので、そのまま上司に伝えた 」としか言わない。

 

   2011年9月に公表された『検察の理念』には「 積極・消極を問わず 十分な証拠の収集・把握に

努め、冷静かつ多角的にその評価を行う 」とあるのだが、まったく活かされていない。

まさに裁判長の言うよう「 御用聞き 」である。

 

   証人尋問終了後、山岸さんに尋ねてみた。

   「 山口検事とは 取調べが終わって(2019年12月)以来、初めて会ったということなんですか? 」

   「 そうです。いや、アイツは 本当に 頭がいいヤツですよ。ひさしぶりに会って、やっぱり

   そう感じました 」

 

   確かに どんな質問にも そつなく答え、デリケートな部分は「覚えていない」で押し通すことに

成功した。

しかし、大きな疑問が いくつも残されたことも また事実である。

   山口検事は 逮捕後で 33時間、任意のときのものを含めると、その倍以上の長きにわたって

山岸さんの取調べを行った。胸襟を開いて 聴取に応じた 山岸さんの供述は 一度も揺らぐことはなく、

終始一貫していた。この点については 山口検事も この日の尋問で認めている。

 

   密室にて1対1で長時間接していて、「 この人、やっていない 」と感じることはなかったのか?

上司である蜂須賀検事に対し、「 シロじゃないのか? 」という心証を伝えなかったのか? 

   この日、山口検事が言ったことを要約すると、「 自分は兵隊。応援検事として 上司から言われた

ことをやっただけ。同僚や上司が どう動き、なにを考えていたかは まったく知らない 」ということ

に尽きる。

 

   証人尋問を聞く限りにおいては、冤罪事件を生み出した当事者の一員であることに、忸怩たる

思いを抱くような感覚は 一切持ち合わせていないようだった。

 

   なお、山岸さんに逮捕状を示す際、

  「 社長。こんなん出てしもたやんかぁ。悔しいわぁ。どうする? 」

と叫んだことは 覚えていないという。

 

 

『冤罪生んだ検事』法廷で「覚えていない」連発 会社を奪われた元社長が国に賠償を求めた裁判 『証言』を強引に引き出す特捜部の実態

  「検察は間違いを認められない組織なのかもしれない」と報道デスク

       2024.6.14   (関西テレビ) - Yahoo!ニュース