今年で5周年を迎える熟成寿司「あし乃」。ご主人の蘆野拓さんは、マリーナベイサンズのHide Yamamotoを経て独立、熟成寿司の店として人気を集めています。

 

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記念の週ということで、今週は裏霞の禅が一杯ついてきます。

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本枯れ節を入れて漬けてあるので、ほんのり旨味とスモーキーさがある生姜、みずみずしさを加えるきゅうり、塩。この塩も、伊豆大島で「海の精」を立ち上げた阪本章裕さんが、更に手法を変えて、ドーム式の温室のような施設で海洋深層水を濃縮させ、煮詰めることで作った塩。尖った塩辛さではなく、丸みと旨味を感じる塩です。

 

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一貫目は、マグロの漬け。那智勝浦産の174キロの天然本マグロです。ご飯のほんわりとした温度感がとても印象的。そして、米の甘みが極限まで引き出されている、というのが第一印象。お聞きすると、羽釜で炊いているそうで、温度感に加え、このもっちり、甘みを感じるのはそれもあるのでしょう。米は旨味にコシヒカリ、さらっとした食感にななつぼしと2種類をブレンド、赤酢と米酢を半々に使い、1ヶ月熟成してから使っているのだとか。個人的にとても好みな酢飯です。

 

そして、普通の握りを半分の幅に切ったような、すっとしたスリムな形。これは、一口で食べて、口の中で魚がとろけるように、という配慮から。また、握り方が極限まで柔らかくふわりと握ってあるので、一口で食べるのは大切。ちなみに魚によって酢飯の温度を調節しているそうで、そういった意味でも一口でジャストの温度感を楽しみたいもの。

 

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そして、神経じめの名手として知られる「さかな人」の長谷川さんのアカザエビとその卵。とろとろのテクスチャと濃厚さ、そして香りは、なかなか味わえません。

 

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クエとじゅんさい、三つ葉の吸い物。高知県土佐清水のクエ。一匹丸々届いたものの頭、骨などを使って取った出汁。あえてカツオも昆布も使わず、クエの味だけを純粋にいただきます。

 

今朝届いたばかりの京都のとり貝

 

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まだ生きて動いているものを。かなり大きいサイズ、生と軽く炙ったものを。

みずみずしいきゅうりのような香りで豊かな水分とサクッとした食感が楽しめる生は、醤油をひと刷毛、軽く炙ったものは旨味が凝縮しているので、塩でいただきます。

 

イサキの炭火焼。

 

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こちらは8日間のエイジング。酢と鰹節で漬けた山芋はシャキシャキとした食感。ちなみに、ボディのある味を、と鰹節は腹身、血合いを抜いていないものを使っているそう。

 

まこがれい 

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むっちりとした食感と凝縮味が楽しめる味。カレイは淡白な魚、という印象を覆す、しっかりとした力強さのあるカレイでした。6日間寝かせて、阪本さんが満月の日だけ作るという特別な塩を使って味付けしてあります。

 

 

屋久島産のかつお

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背側は笹の葉でスモークしてから、柚子胡椒に、佐賀県馬渡島の固有品種の柑橘「元寇」を加えたものを添えています。普通の柚子胡椒よりどこか野趣溢れる味わいです。

腹側の身は、玉ねぎそのものではなく、尖りすぎない絞り汁を使った醤油でマリネして。もっちりしてキメの細かい食感ですが、こちらはエイジングをしないもの。

 

神奈川県佐島の真鯛は、長谷川さんの神経じめ。

 

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一日水槽で泳がして、獲った際のストレスと無くしてから神経じめにしてあります。10日エイジングしたというのに、特に皮目の香りがよく、プリプリとした食感が残っています。

 

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同じく佐島の特産のタコも長谷川さんから。長谷川さんは、タコを神経じめにできる数少ない人。80度で低温調理してあります。「すごいのは、粘りが出ないこと。寿司屋では、粘りを取るためにどうすれば良いか、というのをやってきたけれど、それが必要ないのです」と蘆野さん。とても長い味わいと香りの余韻。なかなか出会えないタコです。

 

シマエビは5日間昆布締めにして、香ばしい殻のパウダー、卵、そしてごま油で揚げた頭。とろけるテクスチャに濃厚な旨味が重なります。

 

最後は、イケジメだからこそ食べられる、エイの肝。ごま油でマリネしてあります。塩辛のように濃厚な肝の味、余韻がとても長いです。

 

 

金目鯛。

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こちらは一週間寝かせたものだそうですが、まだまだ寝かせて良さそうな味。

 

かき揚げ

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ワタリガニをその卵やカニミソ、天然の三つ葉と共に混ぜ合わせ、揚げたもの。

 

本鮪の内側の皮は、脂が強いのでポン酢であえてあります。マグロ本来の香りがよく、しっかりとしたゼラチン質を感じます。香ばしいのは、九鬼の太白ごま油100%で揚げているから。

 

 

今回とても気に入ったのが、アオリイカ。

 

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冷たくだすところが多いと思うけれども、アオリイカは少しだけ温めると美味しい、ということで、酢飯に接している側だけ少し炙って、ほんのり温めて提供。

 

こちらも、イカにも神経じめできる長谷川さんから。

柔らかくてなめらか、クリーミーな味わい。魚によって酢飯の温度は変わりますが、こちらは一番低く。いわゆるほんのり温かい、よりもやや低い温度帯です。

 

ここで酢飯を新しいものに変えて、

赤身と同じ、那智勝浦の、10日間寝かせた174キロの天然本マグロの大トロ。

 

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とても好きな感じの脂です。そして、大トロは冷たく、酢飯の温度は一番高い。ちょうど、焼きたてのトーストにバターの塊を乗せて食べるような、脂が酢飯と口の中で溶けていく感じが楽しめるのです。

 

 

コハダ

 

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しめて4日目のコハダ。酢飯同様、赤酢と米酢を半々にして、寝かせてから作り始め、漬ける合わせ酢は継ぎ足しで使っているそうで、とてもまろやか。

 

 

日本酒は、速醸とのことですが、生酛のようなしっかりとしたボディを感じる宗玄純粋無垢。麹米を作るときに、しっかりとハゼさせて(菌糸を食い込ませて)醸造するから、こんな風にしっかりとしたボディになるのだとか。そんな日本酒の裏話を聞けるのも楽しいです。

 

同じく日本の著名な魚の卸の三木さんが、神経じめして届けてくれるという、琵琶湖の天然うなぎ。

 

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1.6キロのものに塩をして、10日間エイジング。炭火で焼き上げてあります。うなぎの香りに、たまり醤油のような濃厚な醤油を合わせて。プリプリの食感で、嚙み切れるけれども、固すぎず、皮の下のゼラチン質が楽しめるのは、しっかりと筋肉がついた天然の鰻だから。

 

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サイドは、山椒パウダーと大根の皮を厚めに桂むきをして、天日に干した漬物、わさび。

 

 

そして、活けの毛ガニを蒸して身をケーキのように仕立て、サービス直前に再度蒸して温度を上げ、熱々で提供。

 

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下のレイヤーはカニミソが混ざっています。熱々で、青海苔のような磯の香りも濃厚。そして、蟹酢は特筆すべき美味しさ。

蟹の殻を煮出して少し詰めて赤酢を加え、塩とほんの少しの醤油を足して1ヶ月寝かせてあります。この蟹酢はまるで昆布のエッセンスのような味と香り、旨味の塊のような味ですが、昆布は一切使っていないそう。

 

「浜茹では浜茹での良さがありますが」と言いつつ、加熱しすぎだったり、好みとは限らないので、活けで入れているのだそう。

 

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日本酒は45度くらいのぬる燗に、そしてあえて平たい盃で提供。そうすることで、燗冷ましのような変化が楽しめると狙っています。

 

酢飯もあたたかいのでそれに温度帯があうように、とも考えられているそう。

全体的に、温かい温度で香りを立たせて提供されるものが多いように思いましたし、温度感を大切にされている印象。

 

表面を炭火で炙ったノドグロも、そんな一品。

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脂を香ばしく焼き上げて、とろける食感を温かい酢飯と共に。酸味の効いたすだち胡椒と共に。

 

 

 

はだてのムラサキウニは大粒のものを3枚重ねて。

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あなごも、湯気が出る熱々を握って

 

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アカザえびの味噌汁

 

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まろやかな海老の出汁に、ネギを散らして。

 

ここで、クロモジを煮出したお茶。 

白樺や薔薇のような、ハーバルな味わいが印象的。

 

卵は、

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山芋のねばりを生かし、ぎりぎりまでふわふわに、あえてローカルの芝海老を使い、冷たく提供しています。

 

 

最後は、抹茶と濃厚な黒ごまのアイスクリーム。抹茶から食べるようにオススメされます。

 

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魚と香りと味わいを最大限にするために、エイジングと提供温度帯を使い分け、メリハリの効いた味に仕上げた寿司「あし乃」。寿司にこだわりを持つ方に、ぜひ足を運んでみていただきたいお店です。

 

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■ ASHINO(あし乃)
営業時間:ランチ 12:00~14:30、ディナー 18:00~23:00、月曜休
住所:  30 Victoria Street #01-23 Chijmes, 187996
電話: +65 6684 4567
アクセス:MRTシティーホール駅から徒歩4分ほど