もともとチョコレートの産地による味の違いなどに興味があったのですが、最近、雑誌の取材でパプアニューギニアにカカオ豆の取材に行って来て、更に興味を持つようになりました。

 

そんな時に、タイミングよく、マレーシアでカカオ栽培を行い、「Chocolate concierge」という自らのブランドを立ち上げているNing Ongさんのチョコレートテイスティング講座にお邪魔して来ました!

 

 

会場は、くつろいだ雰囲気のカフェレストラン、SPRMRKT。シンガポールや、近隣の国で作られたグルメフードなどをお土産として買って帰ることもできる場所です。

 

もともとシカゴの大学で科学を専攻していたというNingさん、食に興味を持ち、故郷マレーシアに8年前に戻り、クアラルンプールのシャングリラホテルのフレンチレストラン、LaFiteのキッチンなどで働いたあと、スイスのチョコレートメーカー、Felchlinでチョコレート作りを学び、一時期はパートナーシップも結んでいたそう。

 

 

Ningさんは、「カカオは一般的には中南米原産と言われているけれども、通常原産地であればあるほど、遺伝子的なバラエティが多いはず。カカオの遺伝子の種類は、マレーシアが一番多い、もしかしたら将来的には、マレーシアがカカオ発祥の地、なんていうことがこれから明らかになるのではないか」と語ります。

 

 

通常カカオ豆というと、原種とされるクリオロ種と、病虫害に強いフォラステロ種、そしてクリオロとフォラステロの交配種のトリニタリオ種という分類で分けられることが多いですが、

 

アメリカ農務省によると、

Amelonado、Boliviano、Contamana aka、Ucayali/Scavina、Criollo、Curaray Guiana、Iquitos aka Iquitos Mixed Calabacillo (IMC)、Marañon aka Parinari、Nacional、Nanay、Purús

の、10種類に分類されるのだとか。

「クリオロ」も「マラニョン」も「ナショナル」も、遺伝子的に解明された別々の品種という考え方のよう。

 

マレーシアのカカオ豆の団体、Malaysian Cocoa Boardによると、2001年にマレーシアでは24万7000トンの収穫があり、世界3位の収穫量だったほど。ただ、それが、近年ではより収入につながるゴムの木やアブラヤシの木に取って代わられてしまっているのだそう。

 

「どのチョコレートショップに行っても、このチョコレートはどこから来たのか、と聞くと、ヨーロッパのチョコレートメーカーの名前が挙がる。コーヒーだったら、どこ産の豆、というのがすぐ出てくるのにチョコレートは違う。それはおかしいでしょう?」とNingさん。豆の産地のみならず、チョコレートを作る上で大切なのは発酵。にもかかわらず、最終形の上質なチョコレートの味を知らない人たちが作っていることもあり、ずっと豆とその発酵についてはブラックボックスのまま。品種改良する場合も、収量が多く、病虫害に強いものだけが選ばれるようなシステムで、カカオ豆の味については、あまり興味を持たれなかったそう。そんな現状を変えたいとChocolate concierge を立ち上げたのだそう。

 

そして、ここで4種類のチョコレートのブラインドテイスティング。

 

 

普段チョコレートを食べる温度と違い、溶かした状態でのテイスティングだったので、難しかったですが、それぞれ違う味わいを楽しめて面白かったです。

 

4種類のチョコレートは、どれも同じカカオ70%。

リンツとゴディバのダークチョコレートと、Ningさんが自家農園の豆で作ったチョコレートの食べ比べになっていました。

 

その2種類のチョコレートとは、クアラルンプールから1時間ほどの場所にある、Pahang州の自家農園で発酵させた、Semai と Temuan。(それぞれ、マレーシアの村・民族名)。さらに、現在は松の木の発酵槽を使っているそうですが、それをニャートと呼ばれる地元の木に変更し、さらに、新しく、マレーシアのDamakという地方の豆を使い、スコットランドからウィスキーの樽を輸入して、樽の内部を洗わずに、その酵母も使って発酵させたチョコレートも考えているのだとか。

 

発酵は6日間、バナナの葉を上に乗せて、最初はかき混ぜず、後半になってからよくかき混ぜる、なども、今チョコレートについての原稿を書いている私にとってはとても興味深かったです。

 

「シェードツリー」と呼ばれる、大きな木の陰で育つカカオの木。去年、自家農園に、2000本の木を植えたというNingさん、そちらの農園では、ドリアンやマンゴスティンの木の陰で育てているそう。植物は近くに植えられているものの影響も受けるはず。まだチョコレートにはなっていないそうですが、そのあたりも、マレーシアらしい個性につながっていく気がします。

 

個人的には、温めた状態では、Semaiからはロースト・アーモンドやキャラメルのような味わい、バーの状態では、カシューナッツのような、甘いナッツの印象やバニラやミルクのような印象を強く感じました。

Temuanからは、温めた状態ではレーズンのようなフルーティな軽やかさを感じましたが、バーの状態では、トリュフのようなマッシュルームやほのかに土っぽい味も。温度帯でここまで印象が変わるというのは、少し驚きました。

いずれにしても私のこれまで食べて来たアジアのチョコレートと比べると、スモーキーさや雨上がりの森の香りのような力強さ、麦芽糖やハーブのような味わいは強くなく、最初のアタックがエレガント。乳製品は入っていないのですが、カカオ豆の中の糖分が焦げすぎていないからか、どこかミルキーで軽やかなナッツ感があって(どこかナッツスプレッドの「ヌテラ」のような)、苦味が少ないためか、実際よりもカカオ含有率は低く感じます。豆の味を引き出すために、ローストはとにかく軽くしている、というNingさん。カカオニブも試食しましたが、レーズンのような発酵の複雑な香りが残っていて、余韻の長いカカオニブでした。

 

 

カカオハスク(豆の皮の部分)のお茶。他でもいただいたことがあるのですが、こちらのものは、発酵が進んでいるためなのか、焦がし醤油のような、独特な香りがあって面白かったです。皮は一番果肉に近い部分なので、発酵の印象がダイレクトに現れそう。

 

 

SPRMRKTでデザートを担当しているLauren Sungさんが作った、Temuanチョコレートを使ったデザートも。ジャックフルーツのチップやアイス、パイナップルなどを使った、南国感盛りだくさんの内容。

 

 

小麦粉をあまり使っていない印象の、しっとりとしたクッキーも。

 

 

今年は、このマレーシア産の2種類のシングル・オリジンチョコレートを、ロンドンで行われるクーベルチュールチョコレートの大会、International Chocolate Award に出品するそう。

 

その他、マダガスカルなどから豆を買って作っているチョコレートなども販売されています。

各$12.9。

 

 

Ningさんが持って来た、2種類のトリニタリオ種のクローンのカカオと共に。

 

Ningさんはまた7月にシンガポールにやって来て、こう行ったテイスティング講座をやる予定とか。興味のある方はぜひ問い合わせてみてくださいね!

 

 

<DATA>
■SPRMRKT(スーパーマーケット)
営業時間:8:00~21:30(平日)、9:00〜17:00(週末)、無休
住所:2 McCallum St, Singapore 069043

(2店舗あります、ご注意ください。このチョコレートは、どちらでも扱っています)
電話: +65 6221 2105
アクセス:MRTテロック・エア駅から徒歩5分ほど