ロタウイルス胃腸炎は以前「白色便性下痢症」と呼ばれ、
赤ちゃんの嘔吐下痢症の代表格です。
僕たちもお医者さんの勉強をするときに「冬季乳児下痢症」
と覚えたものです。
ロタウイルスに感染すると、通常は胃腸炎をおこし
下痢や嘔吐を認めます。重症化すると脱水症状などで
入院治療が必要になることもあります。
更に、ロタウイルス脳炎(脳症)という病気になり、
神経系の後遺症を残すことも稀にあります。
ここまで行かないまでも、特に働いているママたち
にとっては、年末年始の一番忙しい時期に保育園に
預けられなくなってしまうのは死活問題だと思います。
ところがこれだけで済むと思ったら大間違いで、こ
の感染性腸炎はものすごく感染力が強いので、
「家族内感染」ともいうべきか、
家族中でうつし合ってしまう可能性まであるのです。
しかも、これが非常に厄介なことに、
「1回かかったからもう大丈夫」とは問屋がおろさなくて、
2-3回、最悪5回かかってしまうこともあるのです。
(この理由が気になる方は本ブログ最後のところに
ヒントが隠されています(笑))
この嫌なお病気。今までは有効な予防策はありません
でしたが、ロタウイルスワクチンの接種(内服)により、
感染を予防できるようになりました。
というのは皆様ご存知だと思いますが、
2種類のワクチンが市販されており、どっちが良いのか
頭を悩ませている方も多いかもしれません。
そこで今回のブログのテーマ
「ロタリックスとロタテックの違いについて」
となります。
一番大きな違いは、
ロタリックスが1価のワクチンであるのに対し、
ロタテックは5価のワクチンであることです。
価の数が多いから優れているかというとそうでもなく、
効果はさほど変わらないようです。
興味のある方はこのブログの最後のほうに徒然書いて
おきますのでご参考に(笑)
もう一つの違いが接種回数です。2回で済むか、3回必要か
は大きな違いで、この予防接種を考慮する月齢の子供たちは、
他にもたくさんの予防接種をしなければなりませんので、
スケジュールをどうするかも頭を悩ませるところでしょう。
もちろん同時接種ができますので、病院に来る回数を調整する
ことはある程度可能でしょうが、
ちょっと悩みどころかもしれませんね。
それともう一つ。これはもしかしたらあまり関係ないのかも
しれませんが、ロタリックスはヒトロタウイルス由来なので、
腸の中でよく増え、免疫が獲得しやすいようです。これに対し、
ロタテックはウシロタウイルス由来ですので人の腸内での繁殖が
悪く、抗体獲得確率も低くなるので、
接種回数も3回必要ということのようです。
二つのワクチンの違いを表にしてみました。
ワクチン |
ロタリックス |
ロタテック |
組成 |
ヒトロタウイルス(G1P[8])を弱毒化 |
ウシロタウイルスのV7に、ヒトロタウイルスのG1,G2,G3,G4を組み入れたリアソータント(遺伝子組み換え)のウイルス4種と、ウシロタウイルスVP4にP[8]遺伝子を組み込んだリアソータントのウイルス1種の計5種のウイルスを混ぜてある |
重篤なロタウィルス胃腸炎予防効果 |
71.7~92.4% |
83.3~100% |
入院抑制(入院が必要なくなる)効果 |
83.8~99.5% |
90.5~98.2% |
接種回数 |
2回 |
3回 |
利点 |
接種回数が2回と少ない |
3回接種するので免疫がより確実になると言われている(?) |
32週までに接種すればよい |
欠点 |
接種時期が24週までと短い |
接種回数が1回多い |
接種間隔 |
1回目:生後6週以上 |
1回目:生後6週以上 |
2回目:1回目から4週間以上あける |
2回目:1回目から4週間以上あける |
生後6週以上24週未満に接種を完了させる。 |
3回目:2回目から4週間以上あける |
初回接種は生後15週(3ヵ月半)までに始めることが望ましい |
生後6週以上32週未満に接種を完了させる。 |
|
初回接種は生後15週(3ヵ月半)までに始めることが望ましい |
副反応 |
易刺激性(7.3%) |
下痢(5.5%) |
下痢(3.5%) |
嘔吐(4.2%) |
咳嗽/鼻漏(3.3%) |
胃腸炎(3.4%) |
|
発熱(1.4%) |
参考までに、もし興味のある方はお読みください。
胃腸炎を起こすのはG1P[8]、G2P[4]、G3P[8]、G4P[8]、G9P[8]の5通りの組み合わせがほとんどです。このため先述のように最悪5回感染してしまうリスクがります。
ロタリックスはG1P[8]1種類のヒトロタウイルス株を弱毒して作ったワクチンですが、G2P[4]、G3P[8]、G4P[8]、G9P[8]の他の種類のロタウイルスに対する予防効果も認められています。(ほとんどのヒトロタウイルス胃腸炎に有効、G2Pにはやや弱いとの報告がある)。
一方ロタテックはウシロタウイルスV7に、ヒトロタウイルスのG1、G2、G3、G4を持つV7遺伝子を、遺伝子組み換えによって組み込んだ、リアソータント(遺伝子組み換え)ウイルス4種と、さらにウシロタウイルスVP4の代わりに、P[8]遺伝子を持つヒトV4遺伝子を遺伝子組み換えによって組み込んだ、リアソータントウイルス1種の、計5種のウイルスを混合したものです。このワクチンは、G1、G2、G3、G4、P[8]が含まれているため、ヒトに病原性を持つG1P[8]、G2P[4]、G3P[8]、G4P[8]、G9P[8]の全てのロタウイルスをカバーした予防効果が認められています。
1価よりも5価の方が明らかに優れている、という訳でもなさそうです。効果に関してはあまり差はないようです。むしろ1価ワクチンの方がヒトワクチン由来ですので、予防効果の%がやや高いという報告もあります。
そこで、流行時期直前の冬に接種を希望される方や、予防接種を同時接種ではなく、なるべく1種類ずつ済ませたいと希望される方は、接種回数の少ないロタリックス。流行時期の過ぎた夏頃ならロタテック。なんていう選択肢も良いかもしれませんね。